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第二部第四話前編 癒しの神

「アルディスってなんだ、それ?」

 食べ物の名前のような気がするシャインである。食べられるのかと突っ込もうとして流石に冗談ではすまなさそうなので口を閉ざす。

「幻の大陸、アルディス・・・か・・・」

 クーグルが淡々と言う。それを聞いた少女が失礼ね、と噛み付く。

「ちゃんとした大陸よ。まさかあなたたちこの世界が丸いってこともしらないの?」

 少女は小ばかにしたように話す。失礼なのはどちらか、というところだがここでご機嫌を損ねたら情報は消えてしまう。ひたすら忍耐の三人であった。

「世界ってこの大地だよな?」

 シャインが確かめるように尋ねる。

「あたりまえじゃない。そんなことも分からないの?」

 再び不遜な態度に出られてシャインたちはむっとする。いや、クーグルだけは相変わらず、どういった感情があるのか分からない顔をしている。

「丸いだと? 嘘だろう? 嘘だといってくれー」

 シャインが頼りなさげに言う。当たり前だった事実が変わりつつある。いい加減この驚きの連発から離れて休みたかった。

「残念ながら、本当よ。あなた達のおつむも古いわね」

 ずけずけ言う少女にシャインがこのやろうといった目で見る。

「殴れるものなら殴りなさいよ。どうせあたしには実体がないんだから」

 最後の言葉のあたりがどことなく悲しそうな響きをしていたのを聞き取って挙げかかっていたこぶしをシャインは引っ込めた。

 それで、とフェリアナが話を元に戻す。

「アルディスはどこなの?」

「さぁ?」

 今度はフェリアナが突っ込みをいれたくなった。が、あえて耐える。せっかくの情報提供者なのだから、しかたがない。

「地図は高価なものなのよ。あたしがそんな高いもいの持っているわけないでしょ」

「それじゃぁ、せっかくの継承者を見つけても行けないのか?」

 困った顔をしてシャインが嘆く。でも、とフェリアナが声を発した。

「破壊神の継承者は近くにいるのよね? だったら彼を追えばいいのではないの?」

 それだ、とシャインは納得して手をぽんとうったが今度はクーグルが突っ込んだ。

「それでは追い越せない」

 その言葉にがくーとシャインが頭をたれる。

「あなたって単純ね。そこまで軽いと好ましいわ」

 少女の告白になにやらうれしいものを感じたがそのそれと同時にフェリアナのすさまじい視線を受け大人しくなったシャインである。

「とりあえず、アルディスを探せばいいわ。それとあなたの名前は? アルディスのどこに住んでいるの?」

 フェリアナがしっかり聞き出してくれるこの三人の中でまともなのはフェリアナだけのようだ。

「さぁ?」

「さぁって!」

「おいっ」

「・・・」

 少女の答えに三者三様で対応する。相変わらずクーグルは淡々としている。彼は喜劇役者張りの気障なふりかこうした淡々とした態度の両極端に別れるらしい。変わった性格である。

「とりあえず、アイリーンとでも呼んであげるわ。記憶が戻ったらその時本当の名前で呼んであげるから」

「アイリーンか。まぁまぁね。それじゃ、今日はこの辺で失礼するわ。もうすぐ夜が明けるし」

 少女はそれだけ言うとすぅっと消えた。何度見ても後味の悪い消え方である。ただ、気になることがひとつだけあった。フェリアナがアイリーンという名前を出したとたん、クーグルの顔に何か言いがたいものが横切ったのだ。少女はクーグル家に関係するのだろうか? だが、小さなことをぐだぐだ迷っていても仕方がない。切り替えの早いフェリアナは立ち上がって言った。

「朝ごはんにしましょ」

 シャインが膨大な食料を消費している間フェリアナはまた物思いにふけっていた。三つ目の聖具の継承者は一体誰なのか。またその聖具は一体どんなものなのだろう。名もなき神となってしまった神に関する記述はないのかもしれない。これはそうとうやっかいだ。そして破壊神の聖具を持っている者が近づいているという。フェリアナはふっと脳裏に兄クーグルを思い出した。千年王国を呼び起こすために彼も動いていたら? その聖具を手に入れていたら・・・。思考はだんだんと悪い方向に転がっていく。

 そんなフェリアナのわきで期待を持って見つめているシャインがいた。

「何?」

「いや、食べないならもらってもいいのかなー、と思って」

 まるでえさをもらう前の子犬のようだ。希望をこめたまなざしにフェリアナはあきらめた。シャインから食を取り上げることは出来ない。なぜ、こんな少年に恋してしまったのか自分でもわからなかった。

 フェリアナの許可が出るとシャインは嬉々として食べ始めた。この能天気さには怒りを通り越して尊敬の域に入ってしまっていた。

 シャインの胃袋にすべてが収まる頃フェリアナの気持ちは固まっていた。フェリアナの部屋に三人とも集まる。

「私は里に帰っておばば様に聞いてみようと思うの。シャインはあのおじい様に聞いてきて。絶対に聞き出すのよ。それからクーグルは船と船員を確保して。貴族ならそれぐらいできるでしょ?」

 ぽんぽんと言葉がフェリアナの口から飛び出る。あまりにも無理難題にシャインは頭を抱える。

「絶対に聞き出せって何も知らなかったら聞き出せないだろーっ」

「知らないっていっても聞き出すのっ」

 フェリアナの強い押しにシャインは怒られた子犬のようにしゅんとなった。

「さぁ、決まったら今すぐ行動よ」

 威勢よく、フェリアナは立ち上がり荷物を手に取る。

「ちょっとまったーっっ!!」

 シャインが待てを発動する。

「なに?」

 すでに旅に出るつもりのフェリアナが上の空で答える。

「無事聞き出せたとしてどこで合流するんだ?」

「王立図書館の前でいいんじゃない? もしかしてそこにも資料あるかもしれないし、クーグルの屋敷もあるし、港もあるわ。絶好の待ち合わせ場所ね」

 なんだか図書館前で待ち合わせる恋人同士みたいな設定だとシャインは思う。そしてその恋人は自分とフェリアナだと思うと顔がにやけてくる。

「一体何を考えているのやら」

 フェリアナのその呟きをきっかけに話し合いは終わった。

 三人ともそれぞれの場所に帰っていく。

 言い出したのはフェリアナ自身だったがなぜか一抹の寂しさを覚えていた。最初は一人だった。一人で生きていくことに慣れていた。それなのに今また一人になるともう寂しくなっている。いつの間にこんなに弱虫になったのだろう。フェリアナは去っていくシャインの後姿をそっと見つめていた。ふいにシャインが振り返る。にかっと白い歯を見せて笑ってシャインは元気よく手を振った。フェリアナの寂しさで埋もれていた心に明るい日差しが差し込む。今度はフェリアナも元気よく里への道を歩き出していた。


シャインは草笛を吹きながら帰郷の途についていた。フェリアナとの旅で旅のいろはを教わったシャインには楽勝と思える旅だった。妖魔もフェリアナが各地で救済活動を行ってくれたおかげかどうかはわからないが出会うこともなく順調にすすんでいた。もっとも食費を抑えなければならないのは少々痛かったが。が、そんな風に思っていたから罰が当たったのだろうか、シャインのらくちん旅はいきなり終わりを告げた。

 きゃーという声が突然聞こえてきた。

 なぬ、とそちらに気が引かれる。子供っぽい声だった。妖魔に襲われているのだろうか? 二度目の悲鳴を聞く前にシャインは光の剣を手にしながら走り出していた。


 その妖魔遭遇の数日前、シャインの里ではシャインの幼馴染であるエミリアが高らかに宣言していた。

「あたし、旅に出るわ!」

 はぁ?

 まわりにいたものは聞き間違えたと思った。

「だ・か・ら・! 旅に出るのよ。新しい恋を見つけるの! 文武両道でかっこいい人よ!」

 それを聞いた回りのものはまともに取り合わなかった。エミリアの年頃の子はそういう夢を持っては捨てざるを得ないという出来事を繰り返して大人になるのだ。皆、思い当たることはあるが故に冗談で済ませたのだった。ただ、一人だけその言葉を青ざめた顔で受け止めた者がいた。

「エミリアちゃん。出て行くの? 僕をおいて」

 今も泣きそうな顔である。情けないがいたしかたない。そういう性格なのだ。シャインのほうがまだましといえよう。少年の名はコロロという。どこかに転がっていきそうな名前であるがそのような名前は村にたくさんあったのでその少年が特別というわけではない。そして彼はエミリアの一つ年下である。顔つきはまだまだ子供である。エミリアのほうがいささか大人びている。失恋を経験したからであろうか。それともその頃の少女が少年より大人びてしまうからだろうか。仔細は不明である。

「行くわよ。シャインなんて目じゃないんだからっっ」

 結局そこがしゃくなのだ。シャインに想い人が現れ悔しいやらさびしい気持ちを味合わされた。ずっとシャインは自分のものとして漫然と過ごしていたのが悪かった。だからこそ今度は打って出ることにしたのである。

「もう相手してあげられなくて悪いけれど・・・それじゃ、よろしくねっ」

 エミリアはコロロに言うだけ言うと家に戻った。

 夜中、エミリアはこっそりと家を出た。昼間はさすがに親の目があった。そこで思い直したふりをして数日過ごし親も安心したのを確認した今夜、旅に出ようとしていた。

 出て行こうとして扉を開けるて出るとごんっと物にぶつかった。声を上げそうになってあわてて口をつぐむ。

「エミリアちゃん・・・」

 この情けない声は・・・。エミリアは夜目確認する。やはりコロロであった。

「なんであんたがここにいるのよ?」

 小さな声だがとがった声でエミリアは話す。

「エミリアちゃんと一緒に僕も行くんだ!」

 少年というか子供の背伸びした勇気にエミリアはめまいを覚える。

「僕、エミリアちゃんがいなくなったら生きていけないー」

「あー。もう。めそめそしないでよ。告げ口しなかったら連れて行ってあげる。それから帰りたくなってもあたしは知らないからねっ」

「うんっっ」

 コロロは元気いっぱいの声を上げてエミリアにあわてて口をふさがれたのであった。


そして運命の今日、シャインは漫才コンビと再会することになるのであった。


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