↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仲間の死亡フラグを全部引き受けたら、ハッピーエンドになるはずでした。どうしてみんな病んでるの?  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/8

第1話 神様からのご褒美

「……ん?」


目を開けると、そこには雲が広がっていた。


どこまでも続く真っ白な雲。青く澄み切った空。柔らかな光を放つ太陽。そして、空の向こうには大きな白い門がそびえ立っている。


門の周りには金色の光が流れ、いくつもの美しい建物が空に浮かんでいた。建物の屋根は宝石のように輝き、白い橋が雲と雲をつないでいる。遠くからは鐘の音が聞こえ、どこかで美しい歌声が響いていた。


思わず飛び起きた。


「うわあああああっ! すっごーい!!」


私はしばらく、その景色を眺めた。しかも足元はふわふわの雲。体はどこも痛くない。右腕も左足もちゃんと元通り。服は新品みたいにきれいで、髪まで整えられている。


「えっ、なにここ!? もしかして天国!? 天国だよね!? やったー!」


私はその場でくるくる回った。


天国だ! 間違いない!


死んだ後にこんな場所へ来られるなんて、最高じゃない?


「元気がいいね」


声のした方を見ると、白い服を着たきれいな女性が立っていた。


長い白髪に、穏やかな目。背中には大きな翼があり、全身から柔らかな光があふれている。頭の上には金色の輪が浮かんでいた。


うん。神様だ。これはもう神様以外に考えられない。


「こんにちは! もしかして神様ですか!?」

「そう。私は君たちの世界を見守っている神」

「わー! 本物だ! 初めまして! クリスタルです! 生前はお世話になりました!」


私は勢いよく頭を下げた。神様は少し驚いたように目を開き、それから優しく笑った。


「君は生きている間、多くの人を救った。自分の力を使い、何度も他人の不幸を引き受けた。最後には仲間全員の死の運命まで」

「いやー、そんな大したことじゃないですよ!」

「誰にでもできることじゃありません」


神様は私の目を見て言った。


「あの、みんな生きてるんですね!」

「ああ。全員、無事だよ」

「よかったあああ!」


私は両手を上げて喜んだ。


よかった! 本当によかった!


エリシアもミレーヌもリリアもセレスティアも、みんな生きている。


「それで、クリスタル。君には特別な待遇を用意している」

「特別な待遇!?」

「そう。君は十分すぎるほど頑張った。だから、これからは何も心配せずに暮らしてほしい」


神様が手をかざすと、目の前に光が広がった。


そこに映し出されたのは、雲の上に建つ大きな家だった。白い壁に美しい柱、広い庭には色とりどりの花が咲き、中央には透き通った水をたたえた池がある。遠くには青い湖と緑の森が広がり、家の窓からは暖かな光が差し込んでいた。


「ここが君の住む家だ。家具や生活に必要なものも用意してある。庭も自由に使っていい。天国の中を歩き回ることも、好きな場所へ出かけることもできるよ」

「えっ、ここに住んでいいんですか!?」

「もちろん」

「広っ! すごっ! 私、こんな家に住んだことないですよ! 庭もあるし、池もあるし、あっちの建物は何ですか!?」

「図書館だよ。好きなだけ本を読める。ほかにも劇場や音楽堂、運動場など、いろいろな施設がある」

「最高じゃないですか!」


私は神様の手を握ってぶんぶん振った。


「ありがとうございます! 神様、大好きです!」

「ははは。喜んでもらえてよかった」

「いやあ、頑張って生きてきてよかった! 人生って最後まで何があるか分かりませんね!」


神様も笑っていた。


こんなに素敵な場所で暮らせるなら、もう何も言うことはない。危険な魔物もいない。命懸けの戦いもない。誰かの傷を引き受ける必要もない。


これからはのんびり暮らそう!



その後、神様は天国での暮らしについて説明してくれた。困ったことがあれば天使に相談すればいいし、住む場所を変えたくなったらいつでも言っていいらしい。欲しいものがあれば、できる限り用意してくれるとのことだった。


待遇がよすぎる。これはもう、第二の人生というよりただのご褒美だ。


「それじゃあ、楽しんで。クリスタル」

「はい! 神様もお元気で!」


私は元気よく手を振った。






一方、地上では。


「……クリスタル」


王国騎士団副団長のエリシアは、動かなくなったクリスタルの体を抱きしめていた。何度呼んでも返事はない。頬に触れても、手を握っても、いつものように笑い返してくれない。


「起きてよ……。ねえ、起きてってば……」


エリシアはクリスタルの肩を揺すった。優しく、何度も。眠っているだけだと言い聞かせるように。


「私、もう怒らないから。無茶をするなって言わないから。だから……、お願い……」


返事はなかった。


「エリシア、もう……」


宮廷魔術師のミレーヌが声をかけようとしたが、言葉が続かなかった。


彼女はクリスタルの足元に膝をつき、血で汚れた服を見つめていた。自分に知識があれば、呪いを解けたかもしれない。自分がもっと強い魔法使いだったら、クリスタルにすべてを背負わせずに済んだ。


「私のせいよ……」


ミレーヌは自分の両手を見た。この手で魔法を使い、クリスタルを守るはずだった。なのに守られてばかりだった。彼女は拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込んでも、痛みを感じないほどに感情が高ぶっていた。


「クリスタル様……」


大聖女リリアはクリスタルの胸に顔をうずめていた。聖女として、何度も人々の死を見てきた。祈りを捧げ、残された人々を慰め、亡くなった人のために祈ってきた。


けれど、今は何もできない。自分の祈りが届かなかった。自分の力では、クリスタルを救えなかった。


「神様……、どうしてですか……」


リリアの声が震える。


「どうして、クリスタル様なんですか……。優しくて、誰よりもみんなを大切にしていたのに……。どうして、クリスタルが死ななければならなかったんですか……」


祈るように握りしめた手から、涙が落ちていく。


王女セレスティアは少し離れた場所で、じっとクリスタルを見つめていた。王女として、何度も国の危機に立ち向かってきた。どんな状況でも冷静に判断し、民を守るために決断を下してきた。けれど、今は何も考えられない。頭が回らない。


「…………」


声が出なかった。クリスタルがいなくなった。その事実を認めたくなかった。


彼女はいつも笑っていた。誰とでもすぐに仲良くなり、初めて会った人にまで気軽に話しかけて、気がつけば周囲に友達を増やしていた。王宮の堅苦しい空気さえ、彼女が来れば明るくなった。


セレスティア自身も、彼女に何度救われたか分からない。なのに、自分は彼女を救えなかった。


「……許しません」


セレスティアは唇をかんだ。誰を許せないのか、自分でも分からなかった。魔物か。運命か。無力だった自分か。それとも、いつも笑って自分を犠牲にしていたクリスタル自身か。


「クリスタル……」



剣士エリシアは彼女の体を抱きしめたまま、顔を上げた。


「私たち、あなたがいないと駄目なんだよ……」


その言葉に、魔法使いミレーヌが顔を上げた。


「……生き返らせよう」

「え?」

「クリスタルを、生き返らせるのよ」


ミレーヌの声は震えていた。その目から涙は止まっていなかった。


「死者を蘇らせる方法なんて、聞いたことがないわ。でも、存在しないと決まったわけじゃない。古い魔法の記録にも、神話にも、何か手がかりがあるかもしれない」

「そんなことが……、本当にできるのでしょうか」


聖女リリアがつぶやいた。


「分からない。でも、できるかどうかを調べる前に諦めるなんて嫌よ」

「私も賛成します」


王女セレスティアが言った。


「王女として、国のすべてを使いましょう。古い文献も、神殿の記録も、失われた魔法の知識も、あらゆる可能性を調べさせます。クリスタルを取り戻すためなら、私は何だってする覚悟です」

「じゃあ、私も……」


リリアはクリスタルの手を握った。


「私は聖女です。神様に祈り続けます。何千回でも、何万回でも。クリスタル様を返してくださいとお願いします」


エリシアも、クリスタルの手を離さなかった。


4人は互いの顔を見た。悲しみは消えない。後悔もなくならない。クリスタルがいない現実は、あまりにも重かった。それでも、もう何もできずに泣いているだけではいたくなかった。


4人はクリスタルの亡骸を囲み、それぞれの胸に同じ決意を抱いた。


彼女を失ったままでは生きていけない。


もう1度、あの笑顔が見たい。

もう1度、くだらない話をして笑いたい。

もう1度、名前を呼んでほしい。


たとえどれほど難しくても、たとえどれほど時間がかかっても、必ず取り戻す。


彼女たちは、そう誓った。







「うわー! このベッドさいこー!」


その頃、天国のクリスタルは、神様にもらった豪邸のベッドで大はしゃぎしていた。両手を広げて勢いよく飛び込み、ふかふかの布団に全身を埋める。体がぽよんと跳ね返り、そのままベッドの上でごろごろ転がった。


「なにこれ! 雲!? いや、雲よりすごいよ! 雲に寝たことないけど! あははははは!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。