3-11 狭窄
S判定の検体を手に入れた。
美晴に歓喜する余裕はなかった。
来年四月までに、結果を出さなければならない。
まだ、入口にたどり着いただけで、血液から得られる情報だけでは足りない。
美晴は検体主に会う必要があった。
過去に否定された論文の評価を覆すために、詳細な検査を行う必要があった。
どうすれば接触できるかと考える美晴は、過去に所属していた『異能力研究室』時代のことを思い出す。
大学の教授が、ライバルの教授の弱みを握るために必死に動いていた。
とある探偵業者に素行調査を依頼していたことを、美晴は覚えている。
当時の美晴はそんな教授を見下し、軽蔑さえしていた。
そのことさえ忘れて、意識は検体主に会うことだけに向かう。
胡散臭いとみなしていたその業者に連絡を取った。
美晴は自分の行いを正しいと思っている。
目的以外のことを、考えなくなっていた。
採血に参加した時から、美晴の道徳心は少しずつ壊れていった。
*
採血スタッフの仕事を終え、美晴は久しぶりに病院業務に戻る。
執務室で溜まったメールを処理していく。
美晴のスマホに着信が来る。
「はい」
『先生、頼まれてた調査の件、今メールで送らせてもらいました』
スマホを持ったまま、片手でパソコンを操作する。
件のメールを開いた。
「随分、長いわね。お願いした以上の情報なんだけど……」
『初回サービスというやつですよ』
「四条真理亜、二つ上の姉がいるのね」
『交友関係も拾っときました……ターゲットのは皆無でしたが』
「沢渡美樹、四条真理亜の友人……」
美晴は調査結果を流し読む。
「情報ありがとう。今後も何かの時はお願いするわ」
『報酬次第でどんな情報でも調べますんで、今後もご贔屓に』
美晴は電話を切って、立ち上がった。
検体主の連絡先と住所が判った。
それからの美晴の動きは早かった。
美晴はマンションの410号室の前に立っていた。




