3-06 一穴Ⅰ
時間は遡って、年が明けたころ。
降ってわいたように、とある法案が提出された。
対象は小学生。
健康診断に採血の項目が加わる。
この法案の審議は紛糾した。
『完全義務化』
ニュースで伝えられたワードに国民の強い反発が起こる。
『なんで健康な子供まで血を採るんだ』
『義務化って、国民に選択する権利がないのはおかしい』
インタビューの声が流れた。
続けて、厚生労働大臣の声明が伝えられる。
『国民の健康向上および促進の為、児童の採血が極めて有効との専門家の意見を吸い上げ……』
しかし、国民の納得を得ることはなかった。
それでも内閣は意見を無視するかのように法案を進める。
義務化に対してわずかな例外規定を受け入れ、三月に成立した。
そのとき、支持率が十パーセントをきる危険水域まで落ちていた。
総理大臣は一連の混乱の責任をとり、内閣総辞職となった。
近年稀にみる、短命政権であった。
国民はこの政権を『採血内閣』と揶揄した。
間もなく次の総理が決まる。
次の政権は、一転してこの法律のことを語らなかった。
採血義務化を定めた法律は、見直しの俎上にすら上がらなかった。
政権が口を閉ざし、メディアも取り上げないようになった。
しかし、国民の不信感はなくならなかった。
その感情は地下にこもる。
そして、噂が広がっていく。
『国が国民の遺伝子情報を収集している』
『将来的な国民管理が目的だ』
『病気や身体的特徴によって人間を選別するつもりではないか』
巷では、陰謀論が語られていた。
九月の施行に向けて、急ピッチで準備が進められた。
しかし、採血を行うスタッフの人員が不足する。
そこで、採血スタッフの募集が行われた。
その募集に応募する、一人の女医がいた。




