1-05 新田皐月Ⅲ
■ 現在:保健室
皐月は胸に手を当てた。
教室でのあの感覚は、あのときと同じだった。
優しい気配、心地よさと安心感。
その余韻が、胸の奥で静かに広がっていく。
(妖精さんが……また来てくれたの?)
もうずっと来てくれなかった妖精さんが再び現れた。
妖精さんには、もう会えないだろうと考えていた。
あのときの助けてくれたことに感謝を伝えられるんだと、期待が静かに膨らむ。
今度こそ、「ありがとう」と伝えようと。
皐月が思いにふけるなか、保健室のドアが静かに開いた。
「皐月……!」
高坂赭莉だった。
皐月の顔を見るなり、赭莉はほっと息をついた。
けれど、その手はかすかに震えている。
指先に血の気がなく、冷たく見えた。
「……大丈夫?」
赭莉は少し落ち着かない様子を見せながら、皐月の体調をたずねた。
「うん。ちょっと、びっくりしただけ」
対する皐月は落ち着き静かに答えた。
そして、皐月が微笑むと、赭莉は安心したように頷いた。
でも、目を合わせる時間が短い。
視線が落ち着かず、どこか怯えているようにも見えた。
赭莉は皐月のベッドのそばに立ち、言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「……ねえ、皐月。今日のあなたの教室……なんか、変じゃなかった?」
皐月は驚いた、自分だけじゃなかった。
赭莉は隣の教室に居ながら異変を感じていたことを知った。
しかし、皐月は赭莉の様子をみて、自分と違ったもの感じ取っているのだと思った。
それは以前に、妖精さんと触れ合っていた時の思いと同じものだった。
「赭莉も……何か、感じたの?」
「……」
皐月の問いに、赭莉は答えを返さなかった。
代わりに、皐月の手に触れようとして──
一瞬ためらい、それでもそっと手をのばし皐月の手を握った。
赭莉の手は冷たく、細かく震えている。
皐月は、握られた手の温度を確かめるように指を少し動かした。
震えているのは赭莉の手か、自分の手か。
その境目が、次第に不確かになっていく。
白い光が、二人の間に薄く揺れていた。




