2-23 和解
「皐月」
赭莉が静かな口調で皐月を呼ぶ。
二人の間には、まだ、目に見えない壁があった。
小学校時代に謝罪をし、皐月がそれを受け入れたあとも、その壁はそう簡単に消えるものではなかった。
皐月は、まっすぐに赭莉を見つめた。
「保健室のあの時から、赭莉と……ちゃんと話さなきゃいけない気がして」
赭莉の胸がズキリと痛む。
皐月に悪意を向けたときから、理由もわからず、ずっと胸を締め付けていた苦しみを思い出す。
「ごめんなさい、皐月」
赭莉の声が震える。
「謝って済むことじゃないのは分かってる。でも、私……どうしても、あなたに言わなきゃいけないことがあるの。言い訳に聞こえるかもしれないけど、私の、最低な本心を」
皐月は黙って耳を傾けた。
「私ね、ずっと寂しかったの」
赭莉の瞳から、ついに涙が決壊した。
「小学生の時、私たちはいつも隣にいた……でも、ある時から、あなたがどんどん遠くにいっちゃう気がしたの。私を拒絶して、逃げているように見えて……それが、悲しくて……」
声を震わせ、赭莉は言葉を絞り出す。
「だから、あなたをいじめた。最低だよね。無理矢理にでもこっちを向かせようとしたの。卑怯で、自分勝手なワガママだった。本当に……ごめんなさい」
赭莉は頭を深く下げ、肩を震わせて泣いた。
その言葉を受け止めた皐月の目からも、静かに涙がこぼれ落ちていた。
皐月は、自分の胸の奥にある、ずっと隠してきた思いを見つめる。
「……逃げてたわけじゃ、ないんだよ」
皐月の優しく、だが確かな声が響いた。
「私ね、赭莉が眩しかったの。いつも明るくて、自分の色を持っていて、みんなの中心にいて。それに比べて、私は何も持っていなくて……。隣に立つのが、怖かった」
皐月は一歩、赭莉へと歩み寄った。
「赭莉を拒絶したからじゃない。私は赭莉みたいに、みんなの中心にいられる性格じゃなかったから……。少しだけ後ろから、ずっと一緒にいたかった」
皐月は赭莉の手を握りしめた。
「それが……赭莉をそんなに傷つけていたなんて、気づけなかった」
皐月は赭莉の手を離した。
皐月と赭莉は顔を見合わせる。
「皐月……」
「下駄箱で靴がなくなった時ね」
皐月はそっと胸に手を当てた。
「世界が急に冷たくなって、息ができなくなった。その時、誰かが私の背中をそっと押してくれたの。すごく温かくて、心地よくて……私はそれを『妖精さん』だって信じた」
皐月は一息ついて、目線を少し上げた。
「その温かさに包まれた時、分かったの。私を包んでくれたその感覚は、昔、赭莉が私の手を引いてくれた時の温かさに、すごく似てた。……私は、赭莉の温かさが大好きだった。だから、私は赭莉を嫌いになれなかったの。……また、一緒に歩きたい」
「皐月、ごめんなさい!」
「赭莉、こっちこそ、ごめんなさい」
「ズズズ」
横で静流も泣いていた。




