2-12 結構たいへんなんだよ
私立藤嶺学園は、中高一貫教育である。
だが、中学校に入学すれば、必ず高校に進学できるわけではない。
あらゆるところで、競争を促す仕組みが施されている。
学園では成績優秀者への特待生制度のほか、スポーツ推薦枠も相当数用意されていた。
本日、期末テストの成績上位者が貼りだされた。
一覧には、在校生の三分の一にあたる生徒の名前が並ぶ。
普通、貼りだされなかった生徒はこの一覧に名前が出ることを目指す。
(よし)
掲示板には生徒たちが群がっている。
空翔は少し離れたところから、その一覧を眺めていた。
一通り確認した後、その場から去ろうとする。
「やっほー」
振り返った先に静流が立っていた。
「どうだった? 私は、数学だけ名前がこぼれちゃった」
「僕の名前は一つもなかったよ」
「なんで、そんな嬉しそうな顔してるの?」
空翔は静流の疑問に答えず、話題を変える。
「前に、数学自信ないって言ってたね」
「そうなの。中間はなんとか載ったんだけど、今回はダメだった。そういえば、二年は藤宮さん全科目一位だね」
「そうみたいだね、そこらじゅうから『今回も』って噂が聞こえてくるよ」
空翔は静流に問いかける。
「数学、何点だったの?」
「七十点」
「あと二点足りなかったんだね」
「そうよ、よく点数まで覚えてるよね」
「僕は、掲載ラインの五点下だね」
「そうなの、じゃ全科目私の方が上ね、勉強教えてあげようか?」
静流は少し得意げに言った後に、不意に疑問を口にする。
「最後の難しい問題解けたって言ってたよね?」
「そうだね、間違いを解答した」
「なんだ、解けたと言ってたけど、間違いの解答だったんだね」
「うん、正解すると上位者に名前が出ちゃうからね」
「えっ、今なんて言ったの……」
静流は驚きの声をあげた。数回の瞬きの後、空翔を問いただす。
「もしかして、全科目ってことはないよね」
「全科目だよ」
(信じられない! 全科目、わざと間違いを書いたってこと?)
「結構たいへんなんだよ、普通の成績とるの」
「普通の成績って、真ん中の成績を目指すことじゃないんだよ!」
平然と話す空翔に、静流は声を荒げた。
「ごめん、大きい声出ちゃった。あなたの普通にはいつも驚かされるわ」
「そうだね」
「まるで他人事のように言わないでよ」
静流はただ呆れるだけだった。
「もうすぐ、授業が始まるし、先に行くね」
「うん、わかった。今度の土曜、お家にお邪魔するの楽しみにしてるね」
静流は空翔を見送った。
『妖精さんって、信じる?』
ふと、静流の頭に、皐月の言葉がよぎる。
(彼が、妖精さんなのかな?)
静流は、もう一度掲示板に目を向ける。
「皐月ちゃん、結構上の方にいるんだ」




