2-10 ちょっと待って
「何で、ここまで来るの!」
赭莉は怒りを露わにする。
「来ないで!」
赭莉は近づこうとする空翔を制止する。
「あんたに関わりたくないの! 帰ってよ!」
空翔は表情を変えずに、赭莉の言葉を受け続けた。
赭莉の息が荒くなる。
ハーハーと息をしながら、だんだんと間隔が長くなっていく。
そして、突然。
「あーーーーっ!」と大声をあげた。
周りの視線が二人の集まる。
そんな中、空翔は電池の切れたおもちゃのように固まっていた。
「もういい! 話、聞いてあげるわよ!」
赭莉が話を聞くと告げたが、空翔は固まったまま動きを見せない。
「なんなの、話しなさいよ!」
「ああ、ごめん。突然大きい声を出すから……」
空翔はようやく動き出す。
「それは、ごめんなさい。それより伝えたいことって何?」
*
二人は公園のベンチに座って、お互いを見ずに前を向いている。
「あまり、人と話すのが上手くなくて、遠回りな言い方はできないけど……」
空翔がゆっくりと話し始める。
「気付いてないかもしれないけど、僕たち、小学六年生のときクラスメートだったんだよ」
「えっ」
赭莉は驚き、目を見開いた。
しかし、それ以上は何も言わず、続く空翔の言葉を聞く。
「一カ月前、皐月が倒れた時、僕は皐月の隣の席に座ってた……」
空翔は視線を空に向ける。
「皐月が倒れたのは、僕のせいなんだ」
「皐月に何したのよ!」
赭莉は黙っていられず、声をあげた。
そして、空翔を睨みつけた。
「僕は、感情によって傷つき、そして傷つける。これは比喩でも何でもないんだ」
空翔は赭莉の方を向いて、相手の目を見る。
「だからあの時、僕は身を守るため力を使い、暴発させてしまった」
「力って……なんなのよ!」
「説明より体験する方が早いかな」
「危なくないの? 皐月が倒れたんでしょ」
「このくらいなら大丈夫だと思う……少し使ってもいい?」
「思うって……まあ、いいわ」
赭莉が承諾すると、空翔は精神統一でもするかのように目を閉じる。
空翔の輪郭がおぼろげになる。
そして、数秒後、輪郭がはっきりして元に戻った。
「えっ……なんなのこれ」
空翔は「フー」と深い息を吐き、目を開けた。
「こんな感じの力」
赭莉が空翔を見つめる。
さっきまで疑っていた「力」という言葉を、否定できなくなっていた。
しばらくの沈黙が流れ、再び空翔が口を開いた。
「実はね、この話は一カ月前が始まりじゃないんだ」
赭莉は何も言わなかった。
「小学生時代も一緒、皐月が苦しんでいる時、僕も皐月の感情で苦しんだ。だから、力を使った。その時は赭莉を傷つけた」
「待って、待って!」
赭莉は空翔の話を遮った。
「もう、情報多すぎ! 頭がついていけないよ」
「うん、わかった。聞きたいことがあれば何でも聞いて」
「何で、あのこと知ってるの!」
「その場にいたから」
空翔は淡々と答えた。
赭莉は何か言い返そうとしたが、言葉が出てこない。
やがて諦めたようにベンチの背もたれに身体を預けた。
空翔は少し待ってから、話を再開した。
「あの時起こったことは、皐月が受けるはずだった感情を赭莉が受けたんだ」
赭莉の表情が少し歪んだ。
「僕の経験からだけど他人の感情が入ってくると、心がかき混ぜられて苦しくなる」
赭莉は黙ったまま俯いた。
言い終えた空翔はベンチから立ち上がり、歩き出そうとする。
「ちょっと待って」
赭莉は顔をあげて、空翔を呼び止めた。




