2-07 今できることは今しないと
終業のチャイムが鳴ると同時に、空翔は帰り支度を始めた。
「ねえ、今度の週末、時間が空いてるんだけど」
静流が話しかけてきた。
「漆黒に――」
「ごめん。いま、急いでるから失礼するね」
静流の言葉に重ねながら、空翔はかばんを手に立ち上がった。
教室の扉に手を掛けると、静流の方を向いた。
「土曜日、漆黒に会いにおいでよ。じゃあ、またね」
「約束、覚えていてくれたんだ……」
静流は小さく微笑んだ。
廊下に出た空翔は、隣の教室に目を向ける。
「あっ」
赭莉が教室から出てくるところだった。
空翔は赭莉のもとへ向かう。
しかし、放課後の廊下は行き来する人であふれていた。
廊下の真ん中では生徒たちが集まって雑談していて思うように進めない。
「うっ」
空翔はうめき声をあげた。
普段なら避けて通る人ごみから、感情の波が打ちつけてくる。
空翔は込み上げてくる吐き気を抑えて進む。
赭莉は空翔に気付くことなく、小走りで去って行った。
空翔は赭莉の後を追った。
しかし、昇降口に着いた時には赭莉の姿はなかった。
「行っちゃった……」
空翔は下校する人波をじっと見つめていた。
「仕方ないな、また明日にするか」
「そーらーと!」
諦めて帰宅の途に就こうとした時、後ろから空翔を呼ぶ声がする。
空翔は振り返り、声を掛けてきた人の名を呼ぶ。
「真理亜」
「空翔も今から帰るの? だったら一緒に帰ろうよ」
校門をくぐり帰宅する二人。
専ら話すのは真理亜で空翔がそれに応える。
「美樹って酷いんだよ」
「何があったの?」
「夏休みの宿題一緒にしようって。それも夏休みの初日にだよ」
「普通だよ」
「もっと後でいいじゃない」
「今できることは今しないと」
「えー、空翔は私の味方してくれないんだ」
空翔が真理亜の方に顔を向ける。
「真理亜」
「ん?」
「僕、ちょっと寄るところができた」
「そ。晩ご飯までには帰ってきなさいよ」
空翔は歩いてきた道を引き返した。




