2-06 伝え忘れたことがあったからⅠ
六時間目の授業中。
空翔は授業をほとんど聞いていなかった。
屋上から教室に戻って来てからずっと赭莉のことを考えていた。
『放っておいて』
赭莉の言葉が空翔の心をかき乱す。
言葉によるコミュニケーションをあまり経験してこなかった空翔。
言葉によって動く自らの感情の処理に手間取っていた。
普通に相手の気持ちに寄り添うのであれば言葉のままに動くことが正解であった。
しかし、空翔は誰よりも知っている。
怒っていても「大丈夫」と言う。
寂しくても「一人でいい」と言う。
助けてほしくても「放っておいて」と言う。
空翔は、外と内の落差をずっと経験してきた。
ただ、それにどう動くかの経験は圧倒的に不足していた。
助けるのか、それとも放っておくのか。
どちらが正解であるか考える。
空翔は知っている。
相手の言葉を無視して助ける。
状況を無視して、ただ自分の感情のままに行動する。
それが、正しい選択ではないということを。
空翔に正解は出せなかった。
空翔の出した正解は、赭莉の正解にはならない。
それは、空翔の正解を赭莉に押し付けることになる。
助けるために動いたことが、より相手の状況を悪化させることもある。
それを、空翔は何となく感じていた。
(僕が決めるんじゃない)
空翔が赭莉のいじめを止めることに大きく関わっていたこと。
一カ月前に、空翔が暴走したために今の赭莉があること。
そして、もう一つ……。
(赭莉には、伝えてないことがあるんだ)
空翔は決断する。
(伝えるべきことを伝えないままで終われない)
終業のチャイムが鳴った。




