2-04 もう大丈夫だと思っていた
知らない男子が突然現れた。
名乗らない。
『ほっとけなくて』と言う。
皐月との関係を知っている。
小学生時代の出来事まで知っている。
そんな少年が今、目の前にいる。
名前は、空翔。
少年は人と関わらないのも選択肢であると言う。
赭莉は関わらないを選択する。
赭莉は立ち上がり、屋上の扉に向けて歩き出した。
少年のことを見ないようにして。
*
教室に戻った赭莉は授業を受ける。
いつもはうるさいくらいに響く、熱血教師の声が遠い。
五感の全てが働かなくなっていく。
赭莉の心は内へ、内へと沈んでいった。
怖かった。
ずっと、怖かった。
皐月に謝ったあの日まで。
皐月が赦してくれたかどうかは判らない。
でも、皐月との関係は前より良くなった。
だんだんと、あの時のことは考えなくなる。
でも、不意に思い出す時がある。
得体の知れない涙がこぼれる時もあった。
そんなことも、中学生になってからはなくなった。
もう大丈夫だと思っていた。
ある日、いつもと違う出来事があった。
あの時、隣の教室から奇妙な波が押し寄せてきた。
その後、私の心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた。
体が、ガタガタと震えているのが判った。
喉が渇いてくるの感じた。
そして、頭の中は真っ白になった。
怖い。
あの時の恐怖がまたやって来た。
『皐月ちゃん!』
遠くで、誰かが誰かを呼んでいる気がした。
教室の外、廊下が騒がしかった。
『誰か、保健室へ連れて行って!』
私は、ハッとして、声がする方を向いた。
皐月が女子生徒に支えられながら、B組の教室の前を通り過ぎていった。
私は、保健室を訪ねて皐月の様子を見に行った。
皐月は大丈夫だった。
なのに私は大丈夫じゃない。
それでも、授業を受けた。
部活にも参加した。
そして、部活帰り。
『その子、赭莉の友達だったよね』
『知ってることがあるなら教えてくれないか?』
やめて!
その後、どうやって家に帰ったのか覚えていない。
皐月が会いに来る度、あの日を思い出す。
人と話すと皐月の話題が出るんじゃないかと怖くなる。
私は、できるだけ人と関わらないで過ごしてきた。
それなのに……。
あの人は、何者なの?
『僕の名前は空翔』
空翔……。
「コラ、高坂! 何回呼んだと思ってる」
熱血教師の叱責が飛ぶ。




