2-03 僕の名前は空翔
「ふー」
空翔は大きく息を吐いた。
玉のように流れる汗を拭った。
人との関わりを避けてきた空翔は小さくも大きな一歩を踏み出した。
色々な感情が空翔を襲う。
しかし、空翔はいつものように感情をそらすことをしなかった。
赭莉を探し出して、会うこと。
その目的のために、赭莉の感情の色を追い求めた。
休み時間、隣の教室を覗けば会える。
そう思っていた空翔は、一年B組の教室に向かう。
しかし、赭莉の姿はなかった。
次の機会を待てばよい。
その考えは空翔にはなかった。
空翔の直感が、彼を校舎の屋上へ向かわせる。
暗く沈んだ赤色がそこに在った。
屋上の扉をくぐり、一歩前に出たところで立ち止まる。
空翔は一回、二回と深呼吸をした。
空翔は前を向いた。
空翔の顔に憂いはなかった。
空翔は高坂赭莉に向かって歩き出した。
赭莉は屋上のフェンスにもたれて座っていた。
赭莉が空翔に気付いて空翔を見る。
見ず知らずの人が近づいてくることに赭莉の顔が歪む。
「誰? 何の用?」
空翔はたった一言で答える。
「ほっとけなくて」
空翔は赭莉の前まで来ると、ひざを折った。
空翔の目線が下がり、赭莉の表情がはっきりと見える。
暗く沈んだ赤に、苛立ちの色が混じる。
困惑に固まる赭莉に、空翔は話しかける。
「皐月のことだよね」
赭莉に警戒の色が加わる。
「小学生の時の話だよね」
赭莉の瞳が大きく開かれた。
「……何なの、あんた」
赭莉は逃げ場所を探すように、周囲を見渡す。
再び空翔を見て、睨んだ。
「人と関わると、あの時のことを思い出すの。だから放っておいて」
「その考えは間違っていない。生きるために必要であれば、人と関わらない生き方を選んでいい」
「じゃあ、なんで放っておいてくれないの?」
「僕は今、人と関わることを選んだから」
人との関係を閉じようとする赭莉と、開こうとする空翔。
空翔は立ち上がって姿勢を正した。
「自己紹介がまだだったね。僕の名前は空翔、よろしくね」
空翔は名前を赭莉に渡した。




