1-18 粗忽者の報告Ⅱ
時は遡り、調査期限の最終日。
裕志はパソコンに向かい、報告書作成している。
建設現場の記述を書こうとして、裕志の手が止まる。
建設現場で起きた出来事を思い返す。
確かに、誰かがいた。
その誰かに命を救われたことは覚えている。
だが、恩人の姿だけが思い出せない。
思い出そうとするほど、その姿だけが指の間からこぼれ落ちるようだった。
記憶の欠落に苛立ち、裕志は頭を掻きむしる。
「良く、助かったな……」
あの瞬間の恐怖は、今でも鮮明だった。
胸が少し苦しくなり、無意識に胸へ手を当てた。
裕志は安堵から、ゆっくりと息を吐いた。
裕志は静かに削除キーへ指を伸ばす。
カタ、カタ、カタ……。
書きかけた一文が、画面から消えていく。
裕志は何度かの見直しを終えて、報告書を印刷する。
「叔父さん、こちらが調査依頼の報告書です」
「所長だ」
「はい、所長」
(毎日一回、訂正が入るな、叔父さん中で何かルールがあるのか?)
清二は裕志から報告書を受け取る。
最後まで読み終えると、机の上へ置いた。
「何もなかった、で終わると思ったんだが……意外と噂話は拾えたな」
「俺も、ひとつ噂話を増やしてしまったかも……」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何でもありません。結局、裏付けは取れませんでしたが」
「それでいい。事実と噂は分けて書け。それが報告書の肝だ」
清二は裕志に報告書を返す。
「ご苦労さん。依頼元へ送っておいてくれ」
「はい」
裕志は報告書を受け取り、小さくうなずいた。
裕志は、依頼元のFAX番号を押し、それから送信ボタンを押した。
FAXが調査報告書を飲み込んで吐き出す。
FAXの送信完了を確認した裕志は、自席へ戻る。
パタン、とパソコンを閉じた。




