1-15 探しても見つからないⅠ
田中裕志は、人混みに溶け込むことに長けていた。
生徒たちの視界に入っていても、誰も彼を気に留めない。
それは長年の調査で身につけた、目立たないという才能だった。
裕志は渡り廊下の陰に佇み、女子生徒たちの立ち話に耳を傾けていた 。
「ねえ、1-Aに出る『イケメン幽霊』の話、知ってる?」
「知ってる! 遠くから見てかっこいいと思って教室まで追いかけたのに、中に入ったら見つからなかったってやつでしょ?」
裕志の目が、わずかに細められる 。
尾行劇で、女子生徒は確かに誰かを追っていた。
その"誰か"は、一年A組へ入った。
だが、裕志の視界は"誰か"の輪郭をとらえることはなかった。
さらに、"イケメン幽霊"というゴシップまで登場する。
(一年A組を中心に何かが起きている……)
*
裕志は聞き込みを再開する。
Sという曖昧な情報ではなく、一年A組そのものを対象に。
「一年A組に『イケメン幽霊』が現れた話を調査してて、詳しい話を知っていたら教えてもらえないかな?」
裕志は部活帰りの女子生徒の集団に聞き込みを行った。
「その話、知ってる! 見た人は一人じゃなくて何人かいるって」
「そのイケメンって誰のことだかわかったりする?」
「オジサン、頭おかしいんじゃない! 幽霊だよ正体があるわけないじゃん」
「オジサン……、わかった協力してくれてありがとう」
裕志が、聞き込みを打ち切ろうとした時、別の女子生徒が口を開く。
「1-Aって言ったら、今朝の集団催眠の話があったよね」
「教室にいた全員が、一瞬意識を失っちゃって……。隣のB組にも何人か同じ症状の子が出たんだって」
「確か、A組の子が倒れて、保健室に運ばれて……」
「その子、赭莉の友達だったよね」
皆の視線が、一人の女子生徒に集まる。
視線の先の少女は俯き、「私、先に帰る」とだけ言って、その場を離れようとする。
「ちょっと待ってくれ」
裕志が呼び止め、少女がこちらを振り返る。
「知ってることがあるなら教えてくれないか?」
少女の表情が曇る。
そして、「知りません」と一言告げて立ち去った。
裕志は、彼女が何かを隠しているのではなく、何かに怯えているように見え、それ以上後を追うことはしなかった。




