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そんじょそこらにいない普通の人  作者: 城日ひろし
第1章

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1-14 粗忽者の調査Ⅱ

藤嶺学園の正門前に立った裕志は、門の大きさに顔をあげて見上げる。

「まあ、入ってみるか」と気軽に歩を進めた。


ちょうどそのとき、制服姿の少年が、裕志の横をすり抜けるようにして校門を通過した。

ただ、すれ違った瞬間、裕志の視界がわずかに歪む。


門衛がいたが、裕志に声をかけてくることはなかった。

生徒たちは裕志を見るが、誰も声をかけてこない。

不審者を見る目ではなく、ただの“風景の一部”として流している。


(落ち着いた学校だな……)


裕志は校門をくぐって、一番近くの校舎へ足を向ける。

校舎へ向かいながら、あたりを見渡す。


「変なところなんてどこにもない」


そうぼやきながら、続けて焦りの言葉が漏れる。


「……何かを見つけないと、仕事が終わらないんだよな」


裕志はSという異変を求めて歩き続けた。


*


裕志が進む道すがら、何人か生徒とすれ違う。

中には、すれ違う時におじぎをする生徒もいた。

肩からバッグを提げた裕志の姿は、どこか頼りない新任教師にも見えたのだろう。


裕志は、たまたま目が合った男子生徒に声をかける。


「君たち、Sって聞いて何か思い浮かぶものはないか?」

「えっ、……Sですか?」


生徒はしばらく考え込んだものの、小さく首を振る。


「いや、ちょっと分からないです」

「そうか、ありがとう」


その後も何人かに同じ質問をすれど結果は変わらなった。


*


聞き込みに失敗した裕志だったが、めげることなく校内を歩き回る。


そのときだった。

廊下の曲がり角で、壁に張りつくように向こう側を窺う女子生徒の姿が目に入った。


裕志は、奇妙な挙動をとる女子生徒の姿を見て足を止めた。


女子生徒の目線の先には誰かいる。

しかし、そこだけ光の屈折が違うかのようにぼやけている。


(何が起こってる?)


裕志は目を擦りながら何度も見る。

ぼやけているのは、女子生徒の前を歩く人影の周りだけ。


女子生徒はあからさまに、前方を気しながら歩く。

数歩進んでは止まり、また進んでは止まるを繰り返す。


「……完全に尾行じゃないか」


しかし、裕志には尾行されている対象がよく見えない。

見えないからこそ、より奇妙に見える。


「……これ、ストーカーってやつじゃないのか? Sって……ストーカーのSか?」


「Sについて調査」という曖昧な指示が、裕志の頭の中で斜め上のストーリーを作り上げる。


裕志は女子生徒の後を追う── いや、追うしかないのだろう。

何の変哲もない学校で見つけた唯一の異常。

裕志はSという異変を探しているのだから。


女子生徒は、影のような“誰か”を追い続ける。

裕志は、異常を求めて女子生徒を追う。


女子生徒は自分の後方を気にしていなかった。

しかし、影は自らの後ろにいる女子生徒の存在を知っているかのように行動する。

時には右、時には左と方向転換を繰り返す。

その行動は、逃走犯が追手から逃れる時のものと同じであった。


そして、影が教室に入っていき、続けて女子生徒も教室に入った。

教室の入り口に掲げられたプレートには『1-A』と刻まれていた。


「静流、今日をお昼一緒に食べようって言ったのにどこ行ってたのよ」

女子生徒に別の女子生徒が話す声が聞こえてくる。


裕志が周りを見渡すと、生徒達が皆、各々の教室に吸い込まれていく。

裕志が、教室の中を伺おうとした時、始業のチャイムが鳴り響いた。


裕志の視界に、これから授業に向かう教師の姿が映る。

裕志は回れ右をして、逃げるように教室から離れた。


「これがSかどうかは知らない。でも、報告する価値はある」

去り際に、そんな一言が漏れた。


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