1-13 粗忽者の調査Ⅰ
田中調査事務所は、田中清二が所長を務める、個人経営の小さな事務所。
迷子のペット探しから企業の裏取りまで──
調査と名がつけば何でも受けるその姿勢から、業界内では『調査の何でも屋』と呼ばれている。
所長の清二は読み込んでいた、依頼書から顔をあげる。
「裕志、いつまでここで働くつもりだ」
「そうっすね、何も考えてないです。ここ居心地がいいんで」
「お前、兄貴に似て優秀だったじゃないか、一体何があって……」
「いろいろあって……まあ、詳しくは聞かないでください。俺も、うまく説明できないんで」
「……そうか」
しばしの沈黙の後、清二は表情をあらためて、再び口を開いた。
「裕志、藤嶺学園に行ってSについて調べて来い」
調査内容は学園内に入り、Sについて調査すること—―ただそれだけ。
紙の端は、ホチキス留めされ、依頼書とゴシップ誌が一束にされている。
「Sって……何です? 人ですか? 事件ですか?」
「知らん。変な動きがないか見てこい。何かあったら全部報告しろ」
清二は口頭で一言、指示するだけだった。
裕志は首をかしげながら、バッグを肩にかける。
「わかりました。じゃ、行ってきます」
「おう! 気をつけろよ」
裕志が事務所を出ていく。
清二はその背中を見送りながら、つぶやく。
「まあ、今回も“何もありませんでした”って落ちなんだろうがな」
清二はそう言って椅子にもたれた。
「調査期間は三日間、できる範囲で調査をするしかないよな」
誰も本気にしない話を、誰かが本気で気にしている。
噂話の裏取り。
そんな依頼を、清二は過去いくつか経験してきた。
「調査の何でも屋」の面目躍如だった。




