1-11 藤宮紫乃Ⅱ
昼下がりとは違う、1時間目直後の静けさ。
図書室は紫乃ひとりの空間だった。
今日も、図書室の住人は本を片手に思索にふける。
紫乃が授業に出ないことは、学校側も黙認していた。
授業が必要ないほど優秀であることも、その理由のひとつだった。
その図書室の空気が変わる。
扉が開いた音が、図書室の静けさに溶け込んで、空気がゆっくりと“整い”を見せる。
しかし、整いながらも、ほんのわずかに急くような空気が混じる。
気配の主が持つ、独特の波長が室内に満ちていく。
少年が入ってきた。
空気の層が静かに整う、その感覚は、昨日、貸出帳簿に残っていた“字の癖”と同じだった。
迷いのない線。
抑えられた力。
必要なものだけを残す静けさ。
指向性を持つその気配に、紫乃の皮膚がわずかに粟立つ。
(……間違いないわ)
そして何より、紫乃の胸の奥で“直感”が静かに形を取る。
(……この子は強さを内に秘めている)
紫乃は確信する。
四条空翔だと。
少年は本棚から、ほとんど見もせず一冊の本取ると、紫乃に気づかず席に着く。
少年は本を開くが、視線は前を向いて焦点は定かではない。
しばらく、紫乃は少年の後ろ姿を観察する。
それから、紫乃は空気を乱さないように、そっとその背へと歩み寄っていった。
絨毯に足音が吸い込まれ、彼女自身もまた気配を消す。
紫乃はそっと口を開く。
「空翔くん?」
少年の肩が、わずかに揺れた。
驚きの揺れ。
彼はゆっくりと振り返った。
「……藤宮紫乃です。図書委員をしています」
紫乃は少年に自己紹介をした。




