↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

<幕間>コードネームS 後編

日本で、公式の研究は一度、途絶えた。

提唱者の論文は笑われ、彼の名は学会の片隅に沈んでいった。


だが、世界は違った。


海の向こうでは、彼の記録を読み解いた研究者たちが、次々と成果を上げはじめた。


脳の外側に生じる微弱な力場。

その揺らぎを捉える計測技術。

力場と感情の相関。

力場の干渉による“現象”。


風もない室内で、コップの水が“ありえない揺れ方”をする──

研究所は騒然となった。

「揺れた!」「動いた!」「再現したぞ!」

そんな声が飛び交い、論文が量産された。

国際会議が開かれ、新しい学問領域が静かに形を持ちはじめた。


その頃、日本はようやく気づいた。

自分たちが、世界から大きく遅れを取っていることに。


だが、日本はこうなるしかなかったわけではない。

自分で選び続けた結果、こうなった。


提唱者を笑ったのも、研究を切り捨てたのも、世界の動きを見ようとしなかったのも、

すべて日本自身の選択だった。


そして今、失われた時を取り戻そうと、日本は焦り、無理をする。


急ごしらえの予算。

拙速な研究所の立ち上げ。

責任の所在が曖昧なままの成果至上主義。

その隙間に、闇の研究が入り込んでいく。


表に出せない実験。

倫理委員会を避ける計画。

提唱者の名を勝手に利用する者たち。

そして、提唱者の“末流”を名乗る者たち。


日本は、仕方なく、闇を抱え込んだのではない。

闇を選び取った、闇に頼る道を、自分で選んだ。



秘密裏に行われる研究が増えはじめた頃から、奇妙な現象が報告されるようになった。


ある計画は、実験直前に主要データが消えた。

あるラボは、深夜に機材がすべて停止し、翌朝には研究棟ごと封鎖された。


どの事件にも、犯人は存在しなかった。

痕跡も、証拠も、動機もない。

ただ、計画だけが静かに潰れていった。


研究員達はこぞって、これこそ思念体外力場という未知の力場の影響だと考えた。

提唱者の言葉を借りて、これらの不可思議な現象を『S事象』と呼びはじめた。


だが、ここから“誤認”が生まれる。


S事象は本来、思念体外力場が引き起こす自然現象のはずだった。

しかし、計画が潰れるたびに、研究員たちは「誰かが意図的に妨害しているのでは」と囁きはじめる。

自然現象と人為的妨害が、徐々に同じ“影”として語られはじめた。


その頃から、関わった幾人かの研究員が同じ証言を残した。


「……先生……」


それが誰を指すのか。

本当に声だったのか、幻聴なのか。

誰にもわからなかった。


だが、その断片は確かに“届いた”という。

脳裏に、直接。


やがて、裏社会の一部で噂が生まれた。


計画を潰す存在がいる。

表に出せない計画を許さない“何か”が動いている。


たった一つの痕跡『SENSEI』。

人々は、自然現象としてのS事象と、計画を潰す“誰か”を同じものと誤認し、その影に名前を与えた。


コードネームS。


最初は裏の世界だけの符牒(ふちょう)だった。

だが、噂は静かに広がる。

学会の片隅へ、行政の会議室へ、そして一般のニュースへと滲み出していった。


誰も正体を知らない。

誰も姿を見たことがない。

だが、闇の計画が潰れるたび、人々は同じように囁いた。


「Sが動いた」


その噂だけが、

世界の表と裏をゆっくりと繋ぎはじめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。