第13話 「言われなくてもっ!」
「桜、くび」
「えっ?」
ハンミョウが姿を消す、その刹那。蘭が短く告げる。
意味を理解するより先に、桜の身体が動いた。構えていた刀を跳ねあげ、顔の前へ。
直後、重い一撃が刀越しに腕へ伝わる。
目の前には、すでにハンミョウが立っている
「おや?反応できないと思っていたけど……意外と美しいんだね」
「次は、あの小さい女の子にしようか」
ハンミョウが地面を蹴り、ビオラに狙いを定める。
「ビオラ、あたま」
また蘭が口を開く。
「……っ!」
声が届いた瞬間、ビオラはその場に崩れるようにしゃがみ込む。
頭上を刃が掠める。
ハンミョウは、すでにビオラの横に立っていた。
「君もかい?……いや、違うな」
ゆっくりと、蘭へ視線を向ける。
「手を出さないんじゃなかったかな?」
「手は出してないわよ。口は出さしてもらうけど」
「とんだ屁理屈だね。まぁ、それくらいのハンデはあってもいいか」
「桜、ビオラ!いつまでボケっと突っ立ってんのよ!?こんなのにいいように言われて、悔しくないの?」
「言われなくてもっ!」
「分かってます!」
桜の斬撃と、ビオラの銃撃。どちらも空を裂くだけで、ハンミョウを捉えることはできない。
気づけば、ハンミョウは元の位置に戻っていた。
「全く、君たちは会話を楽しむ余裕すらないのかい?」
「くっ!また……!」
「目で追えない!」
「はぁ、あれくらいも反応出来ないなんて。アンタ達、あたしがいなかったら本当に死んでたわよ?」
「しかし、あの速さでは……」
「蘭さんは、見えているんですか?」
「見えるわけないでしょ。あんな動き、完璧に目で捉えらるのは、ヒガンバナくらいよ」
「だったら、どうして……?」
桜は困惑した表情を浮かべた。
「相手がどこ狙うかなんて、動く前に分かって当然でしょ。それにーー」
蘭が、指を二本立てる。
「あいつには、欠点が二つある」
「桜お姉ちゃん、何か分かった?」
「いえ、わたくしには何も。ただ、少し気掛かりな点はありますが……」
「この僕に欠点?……はっ、面白い冗談だ!」
「自分で気づいてないわけ?そんな事ありえる?」
「なら言ってみなよ、その欠点とやらを!」
「それ言ったら、この子達に戦わせてる意味が無くなるじゃない。アンタは、ちょうどいい練習相手なんだから」
「この僕が練習相手だと……?」
ハンミョウの笑いが歪む。
「はははっ!その冗談はおかしいな!おかしすぎてーー」
その姿が、消えた。
「殺してしまいたくなるーー」
激しい火花が散る。
蘭の十字型の刃が、ハンミョウのブレードを受け止めた。
「何度も言わせるんじゃないわよ!狙うならあたしじゃなくて、あの2人!」
「……仕方ない。楽しみは最後にとっておこうか」
次の瞬間、桜とビオラの視界から、ハンミョウが消える。
ビオラの右腕が裂けた。傷口から血が滴り落ちる。
「つぅっ……!」
苦痛に顔を歪ませながらも、銃口は下さない。
ハンミョウの動きが止まった瞬間、引き金を引く。
弾丸は、虚しく窓を砕くだけだった。
「ビオラさん!」
「次は君だよーー」
桜の目前に現れたハンミョウ。
振り下ろされる刃。
一太刀目は防げた。だが、ニ撃目が桜の頬を掠める。
「霞艶武ーー御神楽!」
桜の反撃。
しかし、ハンミョウは軽く後退し、それを躱す。
「虹刃斬!」
鋭い踏み込み。
速度と威力が、一気に跳ね上がった。
刀で受け止めるも、押し切られる。桜の身体が、後方へ転がった。
「まだ続けるかい?これで実力の差は、分かってもらえたと思うんだが」
余裕の笑みで待つハンミョウ。
その姿を、ビオラが狙う。桜の元へ駆け寄りたい衝動を、必死に押し殺しながら。
(冷静に……桜お姉ちゃんなら大丈夫)
(欠点……あいつの欠点をーー)
呼吸を整える。
視線を、絞る。
(初動を、捉える!)
ハンミョウが再度、ビオラに急接近する。
「僕の弱点とやらは見つかったかい?」
転がるように回避。
紙一重で刃を避ける。
そしてーー
「……えぇ。一つ、分かったかもしれないわ!」
ビオラの瞳が、わずかに見開かれた。




