第11話 「僕の全てを見てくれ!」
ウツノミヤタワー内部に入り、展望台まで続く階段を登る蘭と桜、ビオラの3人。
「最初に言っとくけど、この上で待ってるのは昆虫騎士団の幹部だから。油断しないことね」
「えっ、そうなんですか?」
「と言ってもそこまで脅威じゃないわ。アンタ達が前に倒した、クロカタゾウムシくらいの強さだし。まぁ大丈夫でしょ」
「……わたくし達は全く歯が立たず、ヒガンバナさんが単身で倒した敵だったのですが」
「ならちょうどいいじゃない。2人で倒せるくらいじゃないと、今後本当に死ぬわよ」
「蘭さんは、どんな相手か知ってるんですか?」
「ハンミョウって名前の、いけすかないナルシストだって話よ。能力は…………あんまり情報与えすぎるなって、言われてるんだったわ。後は自分達の目で確かめなさい」
「承知いたしました……」
展望台入り口のドアにたどり着く。
蘭がドアノブに手をかけ動かすも、錆び付いているのか、びくともしない。
「あれっ?なに、全然開かないじゃない!」
何度か試してもいっこうに開きそうにない扉。痺れを切らした蘭は、胸元のペンダントを展開させる。そして扉の鍵を切断し、無理矢理蹴飛ばしてこじ開けた。
「よし!開いたわ。行くわよ」
「開いたと言うより、無理矢理こじ開けてますけど……」
「うるっさいわね!なんでもいいのよ!」
乱雑な足音とともに、蘭は展望台内部へ踏み込んだ。後に続き、その背を追う桜とビオラ。
円形の空間は思ったより広く、割れた窓からは、冷たい風が吹き込んでいた。
少し歩いたところで、蘭が足を止める。
その視線の先に、二つの影を見つけたからだ。
「なぜ君は、もっと僕を見ない!?こんなにも美しく輝く、この僕を!」
七色の髪を靡かせ、両手を広げこれでもかと言わんばかりの主張をしている。
彼の身体を覆っているのは、衣服というより外殻に近かった。
布の揺れはなく、縫い目もない。
直線的に区切られた表面が、動くたびに色を変えていた。
「だから、メガネないから見えないんですよ〜!」
七色の男に詰め寄られている少女。
彼女は青紫のショートヘアに、くすんだ色のワンピース、その上からローブを羽織っている。
分厚い本を胸に抱き、泣きながら抗議していた。
「そんなものは言い訳だ!真に美しいものの前に、視力など関係ない!」
「どんなに頑張っても、見えないものは見えないんです〜!派手な色の方ってことぐらいしか分かんないですから〜!」
「足りない!色だけじゃない!僕の全てを見てくれ!」
男の声が、展望台全体に響いた。
「……なにこれ」
蘭の呆れた声に反応した男は、視線をゆっくりと3人の方へ向ける。
「……ああ?」
眉をひそめ、七色の男は首を傾げた。
蘭が一歩だけ前に出る。
「アンタがハンミョウね?」
「そうだとも」
胸を張り、両手を広げる。
「昆虫騎士団幹部、ハンミョウ。そして――この場で最も美しい存在だ」
アイリスが、小さく息を吸った。
「あ、あの……」
七色の男は一瞬だけ視線を外し、すぐに彼女を見下ろす。
「今は黙っていてくれ。せっかく、見る目のありそうな者が来たんだ」
桜は無言で刀の柄に手を置いた。
まだ抜かない。
ビオラは展望台を一瞥し、背負っていたライフルを手に取る。
蘭がため息をつく。
「……なるほど。噂どおり、なんかいけすかないわね」
ハンミョウは、ぴくりと眉を動かした。
「失礼だな。美を前にして、まず感想がそれかい?」
「あいにく、アンタの美になんて、興味ないわ。さっさとその子を返しなさい」
「少しは見る目があると思ったのだが、どうやら節穴のようだね」
ハンミョウの口元が、ゆっくりと歪んだ。
次の瞬間、床を蹴る音が、遅れて響く。
虹色の風が、一直線に走った。




