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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第三章 春蘭秋菊

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第11話 「僕の全てを見てくれ!」 

 ウツノミヤタワー内部に入り、展望台まで続く階段を登る蘭と桜、ビオラの3人。


「最初に言っとくけど、この上で待ってるのは昆虫騎士団の幹部だから。油断しないことね」


「えっ、そうなんですか?」


「と言ってもそこまで脅威じゃないわ。アンタ達が前に倒した、クロカタゾウムシくらいの強さだし。まぁ大丈夫でしょ」


「……わたくし達は全く歯が立たず、ヒガンバナさんが単身で倒した敵だったのですが」


「ならちょうどいいじゃない。2人で倒せるくらいじゃないと、今後本当に死ぬわよ」


「蘭さんは、どんな相手か知ってるんですか?」


「ハンミョウって名前の、いけすかないナルシストだって話よ。能力は…………あんまり情報与えすぎるなって、言われてるんだったわ。後は自分達の目で確かめなさい」


「承知いたしました……」


 展望台入り口のドアにたどり着く。

 蘭がドアノブに手をかけ動かすも、錆び付いているのか、びくともしない。


「あれっ?なに、全然開かないじゃない!」


 何度か試してもいっこうに開きそうにない扉。痺れを切らした蘭は、胸元のペンダントを展開させる。そして扉の鍵を切断し、無理矢理蹴飛ばしてこじ開けた。


「よし!開いたわ。行くわよ」


「開いたと言うより、無理矢理こじ開けてますけど……」


「うるっさいわね!なんでもいいのよ!」


 乱雑な足音とともに、蘭は展望台内部へ踏み込んだ。後に続き、その背を追う桜とビオラ。


 円形の空間は思ったより広く、割れた窓からは、冷たい風が吹き込んでいた。


 少し歩いたところで、蘭が足を止める。

 その視線の先に、二つの影を見つけたからだ。



「なぜ君は、もっと僕を見ない!?こんなにも美しく輝く、この僕を!」


 七色の髪を靡かせ、両手を広げこれでもかと言わんばかりの主張をしている。

 彼の身体を覆っているのは、衣服というより外殻に近かった。

 布の揺れはなく、縫い目もない。

 直線的に区切られた表面が、動くたびに色を変えていた。


「だから、メガネないから見えないんですよ〜!」


 七色の男に詰め寄られている少女。

 彼女は青紫のショートヘアに、くすんだ色のワンピース、その上からローブを羽織っている。

 分厚い本を胸に抱き、泣きながら抗議していた。


「そんなものは言い訳だ!真に美しいものの前に、視力など関係ない!」


「どんなに頑張っても、見えないものは見えないんです〜!派手な色の方ってことぐらいしか分かんないですから〜!」


「足りない!色だけじゃない!僕の全てを見てくれ!」 


 男の声が、展望台全体に響いた。


「……なにこれ」


 蘭の呆れた声に反応した男は、視線をゆっくりと3人の方へ向ける。


「……ああ?」


 眉をひそめ、七色の男は首を傾げた。


 蘭が一歩だけ前に出る。


「アンタがハンミョウね?」


「そうだとも」


 胸を張り、両手を広げる。


「昆虫騎士団幹部、ハンミョウ。そして――この場で最も美しい存在だ」


 アイリスが、小さく息を吸った。


「あ、あの……」


 七色の男は一瞬だけ視線を外し、すぐに彼女を見下ろす。


「今は黙っていてくれ。せっかく、見る目のありそうな者が来たんだ」


 桜は無言で刀の柄に手を置いた。


 まだ抜かない。


 ビオラは展望台を一瞥し、背負っていたライフルを手に取る。


 蘭がため息をつく。


「……なるほど。噂どおり、なんかいけすかないわね」


 ハンミョウは、ぴくりと眉を動かした。


「失礼だな。美を前にして、まず感想がそれかい?」


「あいにく、アンタの美になんて、興味ないわ。さっさとその子を返しなさい」


「少しは見る目があると思ったのだが、どうやら節穴のようだね」


 ハンミョウの口元が、ゆっくりと歪んだ。

 次の瞬間、床を蹴る音が、遅れて響く。

虹色の風が、一直線に走った。

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