第10話 「蘭さんって、意外と優しいんですね」
迫り来るハネカクシの群れを難なくいなす桜。
「霞艶武ーー神楽舞!」
1人、2人と切り倒していく。
左右に散り、桜の攻撃を躱したハネカクシは、ビオラの的となる。
「トゥシュ、ドゥヴァ、イェデン」
ビオラの正確な弾丸が、ハネカクシの逃げ道を塞いだ。
「おい!誰か、どっちかを止めろよ!」
「お前がやれよ!こっちは手一杯なんーーぎゃ!」
多人数をものともせず、着実に人数を減らしていく桜とビオラ。
「相手が弱すぎるのかしら?……いや、前に会った時より、2人とも強くなってるわね」
切り取った右足の切断面を眺めつつ、桜とビオラの戦闘を横目に見る蘭。
「予想より早く終わり…………やめときなさい。アンタらの相手はあの2人よ」
視線を一切動かさず、蘭は後ろに迫る影に警告する。
「高みの見物ってか?同胞の痛みを思い知れ!」
蘭の後ろに立った1人のハネカクシが、蘭の頭上目掛けて刀を振り下ろす。
蘭は軽いため息を吐くと、十字型の刃を振るった。ハネカクシの刀が届くより早く、蘭の刃が両腕を切断した。
「ああああぁぁ!!」
その場に倒れたハネカクシが、痛みに耐え転げ回る。蘭は切り落とされた両腕を持ち上げ、左右の切断面を見比べる。
「うーん、どっちも美しいわ。あっ、ちょうど終わったみたいね」
蘭が振り返ると、桜とビオラがその場にいたハネカクシを一掃していた。
「ふぅ。ビオラさんのおかげで、難なく倒せました。ありがとうございます」
桜は刀を鞘に納めながら、ビオラに微笑む。
「えへへー!桜お姉ちゃんの役に立てた!」
ビオラも嬉しそうに、桜に笑顔を返す。
「はいはい!浸ってるとこ悪いけど、ちょっとこっち来なさい!」
蘭が手を叩き、桜とビオラを手招きする。2人は少し困惑した表情を見せるも、蘭の下へ駆け寄った。
「どうされました?ウツノミヤタワーへ行かなくて良いのですか?」
「はぁ?アンタ、このままほったらかして行く気なの?正気じゃないわ!」
「このままって……何かあります?」
桜もビオラも、蘭の言葉の意味が分からず辺りを見渡す。周囲にはさきほど倒したハネカクシが地面に横たわっているだけで、それ以外は何もなかった。
「嘘でしょ?もういいわ!その場で両手を組んで、目を瞑りなさい!……早く!」
蘭に圧倒され、2人は訳も分からず蘭の指示に従う。
「全く……!」
2人が両手を組み、目を瞑ったのを確認した蘭は、自身を両膝を折り地面につけた状態で、手を組む。
「ーー千紫万紅……カトレア」
瞬間、真っ白な光が辺りを覆い尽くした。
桜とビオラは、両目を閉じていても感じる光に、思わず瞼を閉じる目に力が入る。
光が収まったのを感じた2人は、すぐに目を開く。
目の前には、先ほどまで倒れていたハネカクシの姿はなく、代わりに辺り一面を、白い蘭の花が咲き乱れていた。
純白の花弁を揺らし、凛々しくもどこか儚げに咲く蘭の花。その美しさに目を奪われた桜とビオラに、一つの疑念が生じる。
「なぜ今、千紫万紅を使ったのですか?」
「もしかして、他に厄介な敵がいたとか?」
「敵なんていないわよ。アンタ達が全員倒したでしょ?ただ埋葬するのが、面倒くさかっただけ」
「埋葬……?」
「だから、アンタ達が倒したハネカクシ共よ!千紫万紅を使えば、能力の一環で全員土に還せるの!後始末してあげたんだから感謝しなさい!」
「蘭さんって、意外と優しいんですね」
「意外ってなによ!……もういいわ!さっさと行くわよ!」
そう言い残すと、蘭はウツノミヤタワーの内部に向かって行く。2人も後を追うように、蘭についていった。




