第8話 「それだけよ」
攫われたアイリスを救出するため、ウツノミヤタワーを目指す蘭、桜、ビオラの3人。
線路沿いを外れ、崩れた街道を歩く。
桜とビオラは、止まらない蘭の愚痴を聞くのに憔悴していた。
「アイリスを助けにいくのは面倒だけど、おかげで菊と分かれることができたわ!」
「そ、そうですか……」
「アンタ達には感謝してるわよ!あー、清々しい!」
「そんなに菊さんと一緒にいるの嫌だったんですか?」
「嫌に決まってるでしょ!あれは人をイラつかせる天才だわ!」
ビオラが桜に近づき耳元でささやく。
「蘭さんと菊さんって周りからは仲悪そうに見えて、実はそうでもないって思ったけど、本当に仲悪かったんだね……」
「わたくしも少し期待してたのですが、その線はなさそうですね」
蘭が勢いよく首だけ振り向く。
「ちょっとアンタ達!聞こえてるわよ!あんなのと仲いいわけないでしょ!ベゴニア様に言われてるから、仕方なく一緒にいるだけよ!」
「ら、蘭さんはそうでも、菊さんは仲良くしたかったり……とかはないですかね?」
「絶対ないわ!あれに好かれてると思うだけで鳥肌ものよ!あたしも菊も同じくらい、お互い嫌いあってるわ」
「でしたら、なぜベゴニア様はお二人を一緒にいさせているのでしょうか?」
「おおかた、嗜好が似てるって思われてるんでしょ。ほら、菊って変な趣味持ってるじゃない?あたしのは、あれに比べればよっぽど崇高な趣味だけど、なかなか理解できるヒト少ないからね」
「それだけの理由で、ベゴニア様は命令するでしょうか……?」
「そんなのあたしの知ったことじゃないわ!……まぁ、1番の理由は分かってるけどね」
蘭の声色が、ほんの僅かに落ちる。
「いったいどういうーー?」
蘭は正面に顔を戻す。歩くスピードは変わらない。
数秒の沈黙。
蘭の足音が、妙に大きく聞こえた。
「放っておいたら、どっちかが死ぬ。それだけよ」
桜とビオラは、その続きを促すことはできなかった。
軽く俯き、言葉を発さない2人に耐えられなくなった蘭は、再度振り返る。
「ちょっと何黙ってんのよ!あたしが変な話したみたいになってるじゃない!」
「す、すみません。なんて答えればいいか分からなくて……」
「そんなの、あぁそうなんですねー。くらいで流せばいいのよ!全く、もうこの話はおしまい!アンタ達は、なんか不満とかないわけ?」
「不満とは……?」
桜が困惑した表情を見せる。
「いつも4人で動いてるでしょ。なら、多少なりともお互いに対して、何か思うことぐらいあるんじゃないの?」
「わたくしは何も……。良き仲間に恵まれたと思ってます」
「私も!……たまに、ひまわりにイラっとする時はあっても、一緒にいたくないとまでは思いません」
「あんまり面白くないわね。まぁ、いいことだし大切にしなさい」
「はい!」
桜とビオラが元気よく返事をする。その顔に満足したのか、蘭は少しだけ口角を上げ、正面に向き直る。
「それはそうと、菊といるとストレスたまるのよ!この前もーー」
そこからウツノミヤタワーに着くまでの時間、2人は蘭の愚痴を延々と聞かされる羽目になった。




