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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第三章 春蘭秋菊

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第7話 「ひまわりちゃん、信じてくれる?」

 ひまわりは確かに何かを捉えた感触があった。


 地面に転がる音を聞き、土煙が舞う。それが晴れるも、その部分には何もない。いや、何も見えなかった。


 しかし数秒後、その周囲が僅かに歪んだ。

 蜃気楼のような揺らぎの中から、まず現れたのは――色だった。


 紅。


 羽は朱でも緋でもない。


 一枚一枚が薄い刃のように光を弾き、重なり合うたび、赤の濃淡が脈打つように揺れていた。


 それが翼だと理解したのは、少し遅れてからだった。


 空に広がる紅の層が、静かに形を結び、長い首と脚を伴って輪郭を持つ。

 鶴――そう呼ぶしかない姿でありながら、そのどこにも生き物らしい温度はない。


「あれが、紅鶴(こうかく)……?」


「きれい……」


 ヒガンバナの動揺とは裏腹に、ひまわりは感嘆の声を出す。


「はぁ……。命を狙われていたのに、見惚れるとは神経が図太いのか、鈍感なのか……。ひまわり、あれにレーザーを当てなさい。なんの情報も無しじゃ戦えないでしょう」


 菊が呆れながら、胸元からタブレットを取り出す。


「あっ、そうだった!……よし」


 菊の声に我に帰ったひまわり。左手を前に出し腕時計のレーザーを、目の前の紅い鶴に当てる。


 菊のタブレットが反応し、画面に表示される。


  ───【機獣データ:No.041 紅鶴こうかく)】───

 分類:鳥型機獣(上空種)

 危険度:B+(高速飛翔/不可視接近/奇襲特化)

 主な特徴:全身を覆う紅色の羽毛は、光反射率と屈折率を任意に変化させる化学迷彩繊維で構成されており、特定条件下では完全な不可視状態となる。

各羽が刃状構造を持ち、飛翔時の空気振動によって周囲の視覚情報を撹乱する。


 備考:非常事態に陥ると、高周波と低周波が重なり合った不協和音の鳴き声を発する。


「……と言うわけですから、後は頑張ってくださいね」


 表示された情報を読み終えた後、菊がタブレットをしまう。


「今は姿見えてるけど、また見えなくなっちゃうのか」


 ひまわりの声は、確認というよりも自分に言い聞かせているようだった。


「私が絶対見つけるから。ひまわりちゃん、信じてくれる?」


「当たり前じゃん。頼りにしてるからね、ヒーちゃん!」


 ひまわりは一歩、ヒガンバナの隣へ出る。

 呼吸を整え、両足を前後に開き、肘を引く。いつでも打てる構えだった。


 それが合図かのように、紅鶴はゆっくりと翼を広げる。


 地面から離れたその身体は、羽ばたきというより、空に溶け込むように浮かび上がった。


 長い首が左右に揺れ、視線が彷徨う。

 獲物を選別する、無機質な動き。


 次の瞬間、羽ばたきの速度が落ちた。


 その羽ばたきに合わせるように、紅の翼が背景の空と重なり合い、色を失っていく。


 輪郭が崩れ、紅の層が薄れ、やがて何も見えなくなった。


「来るよ、ひまわりちゃん」


「うん!」


 ひまわりが答えた直後、二人の間を引き裂くような突風が走る。


 ヒガンバナは反射的に振り返った。


「――菊さん!」


「おや?わたしですか……」


 菊は平然と立ち、軽く錫杖を振った。


 叩いたのは空気――否、そこに来ると分かっていた軌道。

 直後、甲高い風切り音とともに、紅い輪郭が弾き出された。


「貴方の相手はあの2人です、よ!」


 錫杖の柄が、今度は背後を正確に突く。


 その衝撃で、紅鶴の姿が一瞬だけ現れた。


 感情のない目で菊を睨みつけると、紅鶴は即座に姿を消した。



 同時刻、ウツノミヤタワーへ向かった蘭、桜、ビオラの3人も同じく戦闘が始まっていた。


 時間はそれぞれが分かれた直後まで遡る。

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