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千紫万紅〜終末世界に咲く華乙女〜  作者: 東雲大雅
第三章 春蘭秋菊

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第6話 「待っててくれる敵なんていませんから」

 アイリスが紅鶴(こうかく)を見つけた場所、鬼怒川にきていた。


 岸を渡す橋はかろうじて原型を留めているものの、至る所が崩れかけている。

 川のせせらぎ以外は何も聞こえなかった。


「確かこの辺りで見かけたらしいのですが……見当たりませんね」


 菊は首を振り周囲を見渡す。ヒガンバナとひまわりも同じく視線を動かすも、特段変わったものはなかった。


「ひまわりちゃん、腕時計の反応は?」


「う〜ん、何も反応しないね〜」


 ひまわりが軽く左手を動かす。


「軽く周辺を回ってみましょうか。もし何か見つけても不用意に近づかないように……」


「分かりました」


「は〜い!」


 菊を先頭に、ヒガンバナとひまわりは後ろを歩きながら左右を確認する。

 川岸は視界が開けており、身を隠す場所はない。10分ほど歩くも、目ぼしいものは見つからない。


「今ごろ桜ちゃん達はウツノミヤタワー着いたのかな〜?」


「多分着いてると思うよ。もう昆虫騎士団と闘ってるかも……」


「無理してなきゃいいけどね〜」


「あれが付いているので、死ぬ心配はありませんよ。まぁ、無事といえるかどうかは分かりませんが……」


「……どういう意味ですか?」


 菊の意味深な発言にヒガンバナが反応する。


「そのままの意味ですよ。すぐ貴方方も同じようになります」


「それってつまりーー」


「あ〜〜!あれってアリイスさんの眼鏡じゃない?」


 ヒガンバナが追求しようとした間際、ひまわりが岸辺に光るものを見つけた。

 ひまわりが小走りで近づく。


「ホントだ。……っえ?」


 ヒガンバナが視線を向けるよりも先。菊がひまわりを追いかけて、勢いよく走り出す。その表情に感情はなく、ヒガンバナは一瞬、背筋がゾッとした。


 ひまわりが眼鏡に手をかけようとした時、菊が錫杖でひまわりの足を払う。

 

「うわっ!」


 ひまわりがその場に顔面から転ける。その頭上スレスレを、紅い何かがかすめた。


「今のは……!」


 ヒガンバナは敵意こそ感じなかったものの、その物体がひまわりを狙い、明確な殺意を持って近づいたのだと分かった。


 すぐに辺りを見回すも、何も見つけられない。


「その顔の横についているものは飾りですか?不用意に近づくなと、言いましたよね」


 菊が倒れたひまわりを見下す。


「うぅ……すみませんでした」


 顔についた泥を払いながら立ち上がるひまわり。


「紅鶴の姿は……見えなくなりましたか。少なくとも、この視界内にはいるはずです。ヒガンバナ、貴方が見つけなさい」


 菊がゆっくりとヒガンバナのもとへ歩き、正面で足を止めた。


「私ですか……?でも――」


「貴方の話だと、機獣相手に技は使えなかったけれど、攻撃は躱せていたんですよね?なら、その眼は今も使えます」


「もし見つけれなかったら……」


 俯きながら自信なく呟くヒガンバナに、菊は優しく微笑みかける。


「大丈夫、死にはしません。ただ……その間、貴方も、そしてひまわりも削られていくだけ。わたしが手を出すのは――本当に死ぬ直前、それのみです」


 ヒガンバナはぐっと唇を噛み締める。そして、顔を上げ菊をまっすぐ見つめた。


「分かりました……!もう、私のせいでみんなが傷つく姿は、見たくありません!」


 その言葉が終わるより早く、背後の景色がわずかに歪んだ。


 瞬間、菊が一歩踏み込み、錫杖の先でヒガンバナの胸元を引いた。


「きゃっ!」


 ヒガンバナは体勢を崩し、前屈みになる。その頭上をまた、紅い何かが通り過ぎる。


「ひまわりだけ助けるのも、不公平ですからね。これが本当に最後ですよ。次にわたしが手を出すのは、貴方方が死にかける時です」


「あっ、ありがとう……ございます」


「礼には及びませんが、次からはもっと早く決断することです。貴方が下を向いている間、待っててくれる敵なんていませんから」


「はい……」


 また顔を下げそうになるも、すぐに振り返り、ひまわりに声をかける。


「ひまわりちゃん!これから私が言う方向に向かって、思いっきり殴って!」


「りょーかい!任せたよヒーちゃん!」


 ひまわりは目を閉じ、静かに構える。


 ヒガンバナは目を開き、周囲に視線を走らせた。


(攻撃の瞬間、紅い残像が見えるはず。それを見逃さない!)


 数秒の沈黙。太陽の光を紅く反射し、ひまわりに迫る物体をヒガンバナは捉えた。


「ひまわりちゃん真後ろ!すぐ来る!」


猿臂(えんぴ)!」


 ひまわりは振り返りもせず、背後へ肘を叩き込む。

 鈍い衝撃が走り、確かな手応えが肘から全身へ伝わった。


 その瞬間、空気を裂くような音とともに、何かが地に転がる。


 これまで二人を襲ってきた存在が、ついにその姿を現す。

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