1・旅立ち
「__________ぅぁぁぁぁああああああッッ!?」
凄まじい叫びとともに勢いよく飛び起きる少年は、夢の中で体験した不気味な落下の感覚に、思わず絶叫していた。
心臓が尋常ではない速度で脈を打ち、瞳孔は大きく開かれ背筋には大量の冷や汗の感触すらある。
荒い息を吐きながら、周囲を見渡す。
そこはいつも通りの自分の部屋だった。
カーテンが半開きになった窓から差し込んでくる陽射しはまだそんなに強くないため、恐らく早朝くらいなのだろう。
耳を澄ましてみると、微かに小鳥が囀る音色が聞こえてきたため、目を閉じて体の力を抜く。
暫くそうしていると徐々に先程までの嫌な感覚は拭い去られ、何時もの平和な朝がやってきた。
「……はぁ」
小さく溜息をつき、ブランケットを体の上から退かす。寝惚けた脳内は悪夢のせいですっかり覚醒してしまっており、視界もはっきりしている。
手の甲で額の汗を拭い、伸びをしてベッドから降りた少年は窓の方へ向かった。半開きのカーテンと共に窓も大きく開け放つと、少年の金の髪が日光を反射して輝く。
透き通る輝きを宿した双眸は、珍しい蒼色。絹で編まれたローブの様な衣服に包まれた華奢な身体に、艶のある瑞々しい純白の肌。しかし、可憐な少女を思わせる美貌の持ち主の少年には、人間とは違う1つの点があった。
尖った、耳。
精霊族と人間のハーフである、半精霊族特有の耳である。
繊細な細い指で、無意識に木の葉の様な耳を触りつつ、金髪蒼眼の少年は目を閉じる。
爽やかな朝の微風の香りを吸い込み、安息のひと時を味わう彼の耳に、小さな物音が聞こえた。常人であれば聞こえない程度の、小さな音。
しかし半純血の精霊族である少年にとっては、耳を傾ける迄もなく聞こえる程度のものだ。
「......メリーさん、起きたかな」
階下で発生した音の正体は、この家の主であり少年の面倒を見てくれている老齢の女性______メリー=ウッドが起床したことによる生活音だった。
彼女は純血の精霊族であり、少年とも血の繋がりはない。それにも関わらずなんだかんだで、少年が赤ん坊の頃に実の親に捨てられてからこの16年間、一生懸命世話を焼いてくれた恩人なのである。そのため、その恩に報いようと最近は少年が家の掃除や食事作りを行っているのだが、やはり今までの癖が抜けないらしい。
いくら「遅く起きてもらって構いませんよ」と告げても、メアリーは早く起床して家の仕事を熟そうとするのだ。
彼女より早く起きなくては面目無い、とばかりに思考を切り替える少年。
シーツを整え、部屋に置かれた小さな箒で軽く埃を払って掃除をする。支度を済ませて自分の部屋を出ると、階段を下りて庭に向かう。メリーよりも先に庭についたことを確認すると、様々な種類の花が咲き乱れる豪奢な庭園の中にある小さな道を辿り、昔からある古井戸に向かう。
井戸を覆っている木の蓋を取り外し、滑車をガラガラと動かす。すると冷水が満杯に汲まれた桶が上がってくるため、ゆっくりとした動きでそれを取り外す。
手を冷たく澄み切った水に思いっきり突っ込み、何とも言えない気持ちよさを味わいつつ洗顔をする。そして腰に挟んだ布で顔を拭いていると、不意に背後から声をかけられた。
「おや、アベル。もう起きてたのかい?」
自分の名を呼ぶ声に少年______アベル=ヴァイステーランは手を止めて振り返る。
そこには杖をついた老女がゆっくりとこちらに歩いてきていた。眼鏡をかけ、長くなった白髪を後ろで束ねたメリー=ウッドはこの精霊族の村の中で最長寿の女性である。
基本的に精霊族は寿命が長く、最低でも150年は生きると言われているが、メリーはまさかの320歳。年功序列を非常に重視するこの種族では最も尊敬するに値する人物であり、高々16年しか人生を歩んでいないアベルからすれば、本来は頭が上がらないほどの存在なのだ。
そんな彼女からの質問に、金髪の少年は肩を竦めて敬語混じりに答える。
「あはは、ちょっと夢見が悪くて。すぐに退くから先に顔を洗っておいてください、僕はその間に食事を作っておきますよ」
「いいのかい? でもアベル、今日はお前が『冒険者』になるために旅立つ日じゃあ……」
「あぁ……別にいいですよ、最後の日だからってサボりたくもないですし」
微笑みを浮かべたアベルは場所を譲り、いそいそと台所へ向かう。
すっかり意識が覚醒した彼の手さばきは鋭く、てきぱきと朝食を準備していく。家事には人一倍厳しい家主に鍛えられたため、その素早さは一流の宿屋の料理人にも劣らないと評価されるほどである。
しかしこれはアベルにとって、この家で作る最後の食事なのだ。
先ほどメリーが口にした『冒険者』という言葉。
それは読んで字のごとく、冒険をする者という意味である。
しかしこれからアベルがなる『冒険者』とは、未開の大陸を目指して航海し数々の森林を潜り抜け、猛獣と相対し栄誉を手にする_______といったものではない。
『迷宮』。
遥か昔、まだ精霊族ですら存在していなかった太古の時代からあった、謎の遺跡。
そこは神秘のヴェールに包まれた場所であり、同時に『魔物』と呼ばれる異形の化け物が跋扈する、立ち入ってはならない恐ろしい場所だった。
しかし。
とある放浪をする旅人が侵入し、中を支配していた魔物を薙払って内部を探索したときのことだった。
彼は偶然にも、倒した魔物から様々な種類の遺留品を発見したのである。
例えば、どんなに高価な布でさえも匹敵することない至上の柔らかさを持った『堕鳥の皮』。
例えば、他のどんな宝石でさえも敵わない輝きを持つ、魔物の生命としての根幹たる『魔晶石』。
さらに迷宮は何十層にも分かれており、深く行けば行くほど未知の植物や鉱石の種類は増し、説明不可能な光で照らされた階層の中には、大海や山脈を模した広大なものすらもある。
そう、迷宮とは______まさに神秘の宝庫なのである。
いつしか迷宮の周辺には、魔物の地上進出を防ぐため数々の都市が築かれていった。
そこに集まる者は様々だ。
夢を追い求める者。
あるいは、悲願を叶えようとする者。
または、一攫千金を求める者。
各々の欲望のために、あるいは他者のために。
そんな彼らはいつしか、『神秘』を開拓しようとする不遜かつ勇敢な______『冒険者』と呼ばれるようになったのである。
無論、アベルも『迷宮』の誘惑に取りつかれた者の一人である。
基本的に精霊族は他種族との交流を好まず、ましてや人間など蛇蝎のように嫌っている。そんな啀み合う双方の混血であるアベルは、村の中でも敬遠される存在だった。
そんな彼は、迷宮に夢を求めたのだ。
様々な亜人族や人間が集い、共に歩む楽園のような場所に。
碌に村から出たこともない世間知らずではあったが、この決意を機に独り立ちをしようとも考えている。そのため少し前から密かに準備を始め、メリーから外の世界に関する知識を授けてもらい、ひっそりと村を後にしようと計画していた。
その実行日がまさに今日なのである。
そんなことをボーッと考えつつ、妙に高揚した気分で食事を完成させる。
ちょうどメリーがやってきたため、共にテーブルに品を並べて最後の食事を始めた。
「それにしても、この村でアベルはよく頑張ってきたよ。ただでさえ半精霊族だのなんだのって皆から遠ざけられてたのにねぇ。そんなお前が『冒険者』になるって言いだしたときはほんとに吃驚したよ……」
「まぁ、今までの生活がそんなに苦しかったわけでもなかったですし。あっ、そうだ、もし迷宮で一儲け出来たらメリーさんに仕送りしますよっ」
「……あのねぇ、アベル。何度も言っているけど、迷宮っていうのはそんなに甘いものじゃないんだ。私も昔ちょっとだけ冒険者をやってたことがあるけど、毎回の探索には命の危険が必ず伴うんだ。下手なパーティを選んだりすれば、それこそ一発で即死なんてこともあるんだよ」
「う、うん。わかってるよ、メリーさん」
「それにお前は、【魔術】もほとんど使えない。もしかしたら都市で才能を発現させることが出来るかもしれないけど、それでも心配なんだよ……」
【魔術】。
己の深層意識を世界の中枢______深奥に接続し、干渉しあう力を制御して魔力を操り、既存の物理法則を超えた現象を引き起こす奇跡の技。元々才能としてこの力を自在に振るうものもいれば、零能に生まれ一切習得できない者もいると言われている中で、アベルはどちらかといえば後者に属していた。
『火』や『水』を始めとする主要五大属性に対する適正は皆無、唯一扱える魔術と言えば癒しの力を操る『治癒』系のものが数種類程度。精霊族は魔術の扱いに長けた種族と言われているが、やはり人間との混血のアベルには本来開花するべき才能がそもそも存在しないらしい。
これらはかつて魔術師として冒険者稼業を行っていたメリーが診断した、確かな情報なのだ。それにもかかわらず、アベルが冒険者になろうとしているのには理由があった。
こればかりは同居する老女にも告げず、ずっと胸に秘めてきたことだった。
そんな思いを微塵も素振りに出さず、アベルは笑顔を浮かべて明るく振舞う。
「大丈夫だよ、メリーさん。治癒魔術さえ使えればなれる『役職』もあるんでしょ?」
「『治癒術師』のことかい。でも、あの役職はちょっとねぇ……」
「えっ、なに?」
「いや、なんでもないよ。アベルがなりたいっていうなら口は挟まないつもりだからねぇ」
意味深な微笑みを浮かべ、肩を竦めるメリー。
そんな彼女の様子を見て一瞬眉を顰めるが、そんな疑問の心は冒険者になる自分への期待によってすぐに拭い去られるのだった。
~1~
食事が終わり、片付けの仕事をメリーに奪われたアベルは部屋に戻って着替えをしていた。
寝間着を脱ぎ捨てて、クローゼットの中から折り畳まれた一枚布を取り出す。絹で作られたそれは肌触りがよく、少年の柔肌と擦れても全然不快感を感じない高品質なものである。
その奇妙な形に加工された布を半分に折りたたみ、上部に開けてある穴に首を通す。左肩で紐を結び、膝が隠れる程度の短い丈を微妙に調整して腰で帯を巻く。
これは精霊族の伝統的な『フェレ』と呼ばれる装束である。
右肩から脇、さらに右胸を露出するという大胆なデザインであり、それに気恥ずかしさを感じたアベルは僅かに顔を赤らめる。
そんなこんなで姿見で布の位置や帯の締め具合などを微調整し、完璧に着付けをこなすことが出来た。
純白のフェレが少年の持つ美しい金髪と相まって、これ以上ないほど映えている。
所々に翠昌石が埋め込まれ、金の刺繍で複雑な模様が小さく編まれたこの衣装は、着用者への衝撃をある程度緩和する魔術師の道具______『魔装』としても機能する。
最後に外出用の薄いマントを羽織る。胸の前で紐を結び、軽く埃を払う。そして傍に置いてあった背負い袋を左肩で背負う。
冒険者になるのに必要な資金や最低限の装備を入れた旅用のバッグである。駄々をこねてメリーが持っていたものを譲ってもらったのだが、これが案外使いやすい。背負い心地も悪くない。
「……よしっ、と。これで準備万端かな」
辺りを見回し、部屋の中に残したものがないか探す。しかし大分前から綿密に用意してきただけあって、咄嗟に思いつく限り忘れ物は一切なかった。
最後に部屋を出る瞬間、一瞬立ち止まる。
16年間過ごしてきた日々を思い返し、心悲しい気分になる。
幼少期の時代を回顧し、思いを馳せるアベルは、ふと自分の頰を涙が伝って行くのを感じた。
「……でも、僕は冒険者になるって決めたんだから」
固い決意を口にして涙を拭い、部屋から出ようとした。
まさにその瞬間だった。
ガタンッッッ!!、と。
突如、部屋を去ろうとしたアベルの後ろから聞き慣れない大きな音がした。
その拍子に思わず素っ頓狂な声を上げ、振り返る。
「ひぃっ!? なっ、なに!?」
音の正体は窓だった。
正確にいえば、ついさっき鍵をかけたのをしっかりと確認した窓が大きく外側に開いていたのだ。幽霊や怪談話が苦手なアベルは恐る恐る窓に近寄り、外を覗き込む。もしや誰かが外から開けたか、とも考えたがすぐにその考えを打ち消す。
この窓は外開き、基本的に内側からしか鍵の開け閉めができないようになっている。
となると、一体誰が開けたのだろうか。
「……えっ、ちょ、怖い! 出発前に心霊現象は洒落になんないよ!?」
まるで兎のようにびくびくしながら窓を閉め、今度こそしっかりと鍵をかける。ガチャガチャと乱暴に動かし、鍵が勝手に空いたりしないか確認する。
よし、と納得したアベルは部屋の出口へ向かう。
途中で何度も後ろをバッと振り返り、何者かがいないかどうか確認しながら警戒心を緩めていく。
しかし最後のドアを閉める、その一瞬まで窓をじっと見つめる。ついさっき起こった不可思議な現象に首を傾げつつも、自分の部屋への別れを呟いてその場を後にする。
部屋を出て廊下を渡り、階段を下りながらアベルは今まで過ごしてきた日々を思い出す。
一生戻ってこれない訳ではないが、精霊族のこの村から『迷宮』がある都市______冒険都市ドゥノワールまではだいぶ距離がある。
片道行くのでさえ、馬車を使っても丸一日はかかる距離なのだ。そう簡単に行き来することはできないだろう。さらに言えば、少なくとも、冒険者として安定した収入を得られるまで帰る予定はない。
玄関に出て靴を履き、ドアから外に出る。
そこには庭仕事をするためのエプロンに身を包んだメリーが立っていた。
その右手には、何か袋を握っているようだ。見たところ球体の何かが入っているらしい。
それが気になったアベルは、別れの挨拶を切り出されるよりも早く彼女に尋ねた。
「あの、メリーさん。それはなんですか?」
袋を指さして首を傾げるアベルに、年老いた精霊族は大事そうに無言で袋を手渡す。
「いいかい、これは『妖精の実』という魔装……いや、どちらかといえば遺留品だね。後生大事に温めてきたけど、もう私には必要ないからアベルに渡すことにしたよ。できれば使わずに済むことを願うけど……万が一、何かあったらこれを使うといいよ」
「万が一……って?」
「その時になればわかるさ」
「っていうかそもそも何が入ってるんですかね!?」
「開けてみればわかるさ」
「えっすごい気になる!?」
あっけらかんと肩を竦めるメリー。
どうやら中身の正体を教えるつもりはないようだが、とにかく何かしらの重要なものだということは理解した。後で馬車に乗り込んだら開けてみよう、と思いつつ受け取った袋を背負い袋に詰め込む。
それを見たメリーはうんうんと頷き、今度は虚空に手を翳して何事かを呟いた。
「『我はディア=ストースの法に従う者なり。かの原理は空間を捻じ曲げ異なる地と地を繋げる道しるべ、すなわち我が意に従い門を開放せよ』」
空間を操る系統の魔術だ、と目を丸くするアベル。
その瞬間、メリーが掲げた左手の辺りの空間がねじくれた。
大仰な魔術詠唱とともに、虚空から現れたのは一本の杖。
ステッキのようにも見える長杖の先端には、アベルが一度も目にしたことがないような美しい輝きを放つ翠色の宝石が埋め込まれていた。しかしそれ以外には装飾はなく、歩行補助用のちょっと洒落た杖といえば納得しそうな代物である。
メリーはその杖を掴み、軽く振るとこれもまたアベルに手渡した。
「これは私が現役の『魔術師』として冒険してた頃にちょっとだけ使ってた杖だよ。冒険者の連中はワンドって呼んでるけどね」
「杖……ってたしか、魔術を効率よく扱うための魔装の一種ですよね?」
「正解だよ。なんだったけかな……確か『銀の杖』とかいう名前だったはずだね。全属性の魔術に対応してるから、もちろん治癒系の魔術もこれを通して扱えるだろうよ」
「あてりーあ、ろっど? な、なんかすごいもの貰っちゃった感じですか!?」
「いや、私が買った時はちょっと耐久値が高いくらいのただの杖だったよ」
「えぇ……」
どうやら掘り出し物とか伝説の一品とか、そういったわくわくする展開ではないらしい。
落胆しつつも杖を受け取ったアベルは、両手で持ってみたりくるくる回したりして扱い心地を試してみる。すると思いのほか馴染む、というか物凄く扱いやすかった。
一瞬、直接殴打するのにも使えそうだなと物騒なことを考えたが、治癒術師になるであろう自分が直接戦闘担当になるわけもないか、とその考えを心の中で否定する。
冒険都市につく前から武器(?)装備が手に入ったのは僥倖だ。
冒険者の装備は一様にして高価で、それを手に入れるまでに『迷宮』で命を落とす初心者が何人もいるらしい。このような杖でも、ひとたび都市に行ってしまえば手持ちの金額では到底手が届かない代物に変貌することだろう。
純粋にありがたく思ったアベルは、メリーに対して頭を下げた。
「なんか、いろいろとありがとうございます。僕の我儘で村を出ていくっていうのに、こんなに良くしてもらって……なんていうか、本当に感謝します」
「やけに他人行儀だね、アベル。この私が渡した装備を使うんだから、向こうであっさり死んだら承知しないからね?」
「はっ、はい!」
勢いよく返事をして、もう一度激しいお辞儀をする。
その様子を見たメリーは微笑むと、遠くから一台の馬車がやってくるのを確認した。
アベルの出発用に呼んだもので、御者には十分な金額を渡しているため詐欺などの危険性もない。最近は馬車を使う富裕層を狙った犯罪が横行しているため、わざわざ要人警護の経験がある御者を雇ったのだ。
メリーはかつて冒険者として数々の死線を潜り抜けてきたため、『迷宮』の恐ろしさはよく分かっている。
パーティが全滅して命辛々逃げ延びたこともあるし、深層の山脈地帯で迷って飢え死にしかけたことさえある。
かつて魔術師の中では強者と称されていたメリーでさえこの様なのだ。
こんな気弱く涙を直ぐに流す______か弱い少年に果たして冒険者は務まるのだろうか。
一抹の不安を抱えつつも、老女は安心させるようにアベルの肩を叩いて到着した馬車に乗せる。
彼は泣きこそしなかったが、不安と期待が入り混じったような複雑な表情を浮かべていた。
無理はない、ここから先は何が起きるか分からない正真正銘のギャンブルと同義なのだから。
「じ、じゃあメリーさん、お元気で! また今度、絶対会いに来ますからねー!」
「その時は美味しいお土産も頼んだよぉ」
「あっはい!」
馬車に乗り込んだ少年は、窓越しに手を振り続けた。
道を曲がり、自分を育ててくれた恩人の姿が完全に見えなくなってから馬車の窓が開けられることに気付き、一瞬平坦な目になると思いっきり窓を開けた。初夏のまだ涼しい爽やかな風が吹き込んでくる。
金髪を風に棚引かせながらアベルは思った。
(冒険都市、ドゥノワール。そこで冒険者になって、いつか、いつか______)
______英雄に、なりたい。
記念すべき第一話ということでちょっと張り切りました。
予想以上にせかせかした進行だったと思いますが、どうだったでしょうか。
第二話も近々投稿する予定なので、楽しんで読んでくださったのなら幸いです。
一応、魔術詠唱などの中に一部「なんだこりゃ」という語句があったと思うのでここで解説させていただきます。
・ディア=ストースの法
魔術に関する理論の一つ。ストースという魔術研究学者が発表した理論であり、大気に漂う魔力の残滓を通じて空間と空間を接続する術式を確立させた。




