プロローグ
荒れ果てた大地。
紅蓮に染まった、不気味なほど鮮やかな空。
生物の存在を全く想像できない、無機質的で同時に奇妙な芸術のような世界。
そんな荒野に佇むのは、一人の少年だった。
彼は目の前に広がる凄絶な風景に背筋をこわばらせて、誰に話しかけるでもなく小さく呟いた。
「どこ……?」
少年の知る場所ではない。
いや、そもそも世界にはこの場所を知っている人物など一人もいないのだろう。
なぜなら_______ここは、少年だけの『夢の世界』なのだから。
自然と孤独感と恐怖に襲われた少年は、小さく身震いをする。辺りを見回して自分以外の生きている存在を確認しようとしたその時、突然背後に妙な気配を感じた。
ゾワリ、と。
少年が生まれてこの方、一度も経験したことがないような、不気味な感覚。
恐る恐る、といった調子で振り返った少年は背後に立つ存在を見て、驚愕に目を見開いた。
漆黒のドレスを着た、妙齢の女だった。
まるで誰かの葬式に出ているかのような格好をした女性は、極めてゆっくりとした動作で顔を覆うヴェールを上げた。薄く黒い布を目元辺りまで上げ、その手を止める。
至近距離で微笑む女性の口元は、まるで何かを誘うかのように妖しげな美しさを漂わせている。突然の出来事に驚いて声も出せない少年とは違い、まるで平然としているため、それも相まって不気味というより不思議な雰囲気を漂わせている。
『初めまして、無垢なる少年よ。我が名はライシェス、ライシェス=レイフォーズ。またの名を悲劇と虚無を司る魔女。どちらで呼んでいただいても構いません』
風にドレスをたなびかせながら、女性の口から甘い声色で言葉が発せられた。
よくわからない状況ではあるが、自己紹介をされたため少年も返事をする。
「ぼ、僕はアベル=ヴァイステーラン。あの、ここは一体……?」
『よく聞きなさい、少年よ』
質問を強引に途中で遮られる。
ライシェスと名乗った女性の口調には、僅かではあるが焦燥のようなものが感じられた。
なんというか、何かに急かされているような……?
『あなたに贈り物を授けます。わかりましたか?』
「ぎふ……? はっ、え、なんですか、それ」
『いいから黙って聞きなさい。この先、禍がやってきます。それが具体的に何なのかは私にはわかりませんが、一つだけ言えることがあります』
次から次へと捲し立てる魔女を前に、困惑の表情を浮かべるアベル。
それもそのはず、急に訳の分からない言葉を会話に出されて戸惑わない者がいるだろうか。
そんな少年の様子を見たライシェスは、小さくため息を吐いて言葉をつづけた。
『……あなたはその禍に巻き込まれる。けれどその悲劇は私には見過ごせなかった』
『だから涙を流しましょう、あなたのために』
その瞬間、ヴェールの奥から二滴の大粒の涙が零れ落ちるのをアベルは見た。
その涙が頬を伝って、女性の顎から地面へと落ちる様子が、妙に目に焼き付いた。
ブワッッッ!!、と。
突然妙な浮遊感が体を包んだため、足元を見るアベル。
そこにはいつできたのか、巨大な『穴』が大きな口を広げているではないか。
咄嗟にライシェスへと手を伸ばそうとするが、悲劇と虚無の魔女は微動だにせずその手を払いのけてしまった。突き放されたことに驚きの声を出す暇もなく、落下を開始する。
あまりにも生々しい落下の感覚。
少年は落ちていく。
どこまでも。
どこまでも。
どこまでも__________
女魔王様から来た方はこんにちは、初見の方ははじめまして。
この度【女魔王様は恋がしたいだけ】と同時進行で、こちらの新作も執筆を開始しました。
こちらは、一般的に言う神様視点寄りの文体なので、あちらの物語とはまた違った楽しみ方ができると思います。
できるだけ投稿頻度は早めようと思いますが、春は忙しいので厳しいのが本音です笑
それではいったん、ここで筆をおかせていただきます。
……あ、ライシェスについて書かれたことや会話の中での言葉の一つ一つに注目して、伏線としてとらえておくと後後面白いかもしれませんよ。
それではまた今度!




