19:刮目せよ!
東の国にはないチーズ、オリーブ・オイルが手に入ると知り、将軍オガタは大喜び。
「出来れば葡萄酒も頼む」とリクエストされたが、それはもちろん快諾!
さらに都市計画や石造りの建造物を学びたい東の国の人がいれば、それも受け入れると伝えると「そうであるか!」と膝を叩く。
そもそも都市計画や建造物に将軍オガタは興味を持っていたのだ。喜んで当然だったが……。
「オガタ将軍がルミナリア王国を見たければ、即日でご案内します──と、王太子殿下は仰せです」
これを聞いた将軍オガタはさすがに「うん?」となる。
「即日とは面妖な。そのようなことは出来ぬであろう?」
「セルジュ王太子殿下は、実は魔法を使えます」
「魔法、だと?」
そこで魔法とは何であるかを説明しようとしたが、セルジュが察し、なんと将軍オガタの目の前で魔術陣を展開。
「上様、何やら怪しげな光が漏れています! 何か問題が!?」
「構わぬ」
襖の向こうからの問いかけに、将軍オガタは短く返事をすると、「これは何であるか!?」と興味津々で尋ねる、
「セルジュ王太子殿下は、神仏のような力を使えるのです。今からこの魔術陣を使い、姿を消します」
「何!?」
私の言葉を受け、セルジュは呪文を唱え、忽然と姿を消す。
これにはさすがの将軍オガタでも「なんと……!」と絶句していた。たがすぐにセルジュが姿を見せ、「これはすごい!」となる。
「これは魔法と言われるもので、ルミナリア王国の者たちは何らかの魔法を使えます。この魔法を使えば、オガタ将軍のことも、経由地で休憩は必要ですが、その日のうちにルミナリア王国に連れて行き、また東の国へ帰すことも出来るのです」
「セルジュ王太子殿は最強ではないか! この力があれば、清酒造りの真髄など、簡単に手入れることも出来るのでは!? だがそうはしなかった……」
そこで将軍オガタは、これまでで一番の笑顔になる。
「気に入った! セルジュ王太子殿のその心意気! ここに東の国を代表して誓おう。東の国は、我の命ある限り、友好国である。貴国が望むことあらば、最大限の努力で応えよう」
将軍オガタからとんでもない待遇を提案され、私は急いでセルジュに伝える。
「それはありがたい申し出ですね、アマレット! その誓いはルミナリア王国も同じであると、伝えてください!」
「わかりました!」
セルジュの言葉を伝えながら、しみじみ思ってしまう。
将軍オガタは正直だった。友好関係を築くと言ってくれたが、それは現実路線。決して自分の息子や不確実な未来まで約束することはない。
(天下人と言えば、豊臣秀吉も前世では名が上がるが、彼は自分の亡き後も家臣の忠誠を求めた。でもそれは脆くも崩れ去る。対して将軍オガタは、最初から実現性のないことにはすがらないのだと思う)
それで問題ないと私は思った。
(将軍オガタの目の黒いうちに、ルミナリア王国は東の国と強い絆で結ばれる。そうなれば、自然と次の世代にもその関係性は受け継がれるはずよ。そうなるように、セルジュも私も頑張るわ!)
「実に良き出会いであった。国中の酒蔵に怒られようが、ルミナリア王国と結ぶことは間違いではない。我もルミナリア王国にお邪魔させていただくぞ!」
将軍オガタのこの言葉、セルジュはその表情から察したのだろう。
手を差し出し、オガタに握手を求める。
「おお、これは大陸の挨拶であったな。セルジュ王太子殿、これからも良きに!」
セルジュと将軍オガタが力強く握手を交わした。
◇
この後の宴は、もう祝い酒!
最初こそ家臣や将軍オガタの奥方と側室の紹介もあり、堅苦しい雰囲気だった。だが能が舞われ、狂言が始まると、シンとした雰囲気に変化が起きる。賑やかな感じになってきたのだ。
「本来、宴も儀式の一環で、粛々と膳を食べ進め、お酒を飲むものです。ですが上様は『葬式ではないのだ! もっと笑え!』となりまして……。公家の礼法にのっとった宴は前半まで、能が始まる辺りから、場の雰囲気はガラリと変わります」
そう教えてくれたのはヒラタ! そして彼の言う通りで、幸若舞や舞踊まで始まり、なんと将軍オガタまで、能を始めたのだ!
それは三番叟と言われる舞で、将軍オガタが祝いの席では必ずと言っていいほど、舞うのだと言う。
なぜ祝いの席で三番叟を彼が選ぶのか。それは見ていれば一目瞭然だった。
私は能に詳しいわけではない。
ただ、この宴でいくつか見せてもらった能の中でも、明るく躍動感がある!
「とても軽快で、リズミカルですね」
セルジュがそうささやくが激しく同意!
「しかも動きがダイナミックだわ! 足の動きも強いし、力強さを感じる。さっきヒラタさんがこの舞は五穀豊穣や国の繁栄を象徴すると言っていたわ。オガタ将軍もそれを踏まえて舞っているのだと思う。生命の輝きを目の当たりにしている気分だわ!」
そんな三番叟を舞い終えた将軍オガタはご機嫌でセルジュと私のところへ戻って来て、「どうであったか?」と尋ねた。ここはセルジュと口を揃え、絶賛する。
「そうであったか。よかったか!」
将軍オガタは破顔し、そして――。
「ここは我の十八番を披露せねばならぬな」
そう言って将軍オガタが次に舞って見せてくれたのは――。
「人間 五十年……」
これは!と私は大いに驚くことになる。
(な、どうして! いや、やっぱりそうだったのね……!)
「下天のうちを 比ぶれば~」
前世で私が知る織田信長は、この幸若舞『敦盛』と共に絶命したと伝えられている。でも目の前にいる、まさに「If」の世界の将軍オガタは、この『敦盛』を命の躍動と共に舞って見せてくれている。
(悲壮感なんて、これっぽっちも感じられないわ!)
豪快で凄みを感じる『敦盛』。
本来は人間の儚さを歌うものだが、将軍オガタは、そうとは感じさせない。
(まるで「死なんて恐れぬ。死をはねのける命の輝きに刮目せよ!」と言われているみたいだわ……!)
それはまさに逆境をはねのけ、事態を幾度となく好転させてきた彼の生き様にも通じる。
(彼が天下人になれた理由がよくわかってしまうわね。この圧倒的な存在感、そしてカリスマ性にあるのだわ!)
「夢 幻の如くなり――」
「よっ、ノブマサ様!」
「お館様!」
古参の家臣たちは、オガタが将軍と呼ばれる以前の時のように、親し気に声をかける。
私は前世の記憶があるだけに、この元気な将軍オガタとその家臣を見ていると――。
天下布武を前に、儚く散った革新者と重ね、万感の思いで眺めることになった。
















