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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語:東の国

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18:真髄

 一般的な清酒造りの製法は教えても、肝となる真髄は明かすつもりはない。これに対し、どうすればいいのか。


(将軍オガタはセルジュならわかると言うけれど……)


「アマレット。オガタ将軍にはこう伝えて欲しい。清酒造りは葡萄酒と変わらないほど、長い歴史を持つのでしょう。清酒造りの『一麹、二もと、三造り』と言われる真髄は、昨日今日で生み出されたものではない。何世代にも渡り、試行錯誤を重ね、時に手痛い失敗を得て、会得した叡智のようなもの。それを突然現れた異国の者に、簡単に教えたくないというのは当然です。学びたい者を受け入れてくれる。それだけでも僥倖です。後はその学び手次第でしょう。一世代では無理かもしれない。でも諦めず、学ぶ姿勢を持つことで、その真髄は――教わるのではない。自らの経験で得る――ということですね」


 これには「あああ、そういうこと!」と、私が膝を打ちたくなっていた。


(これぞ職人における子弟関係、技は師匠から盗め、という奴だわ!)


 結局、手順を習い、それで簡単に同じことができ、再現できるかというと……。

 そうではない。

 料理でもそう。

 レシピはわかっている。言われる通りにやってみた。でも上手くいかない。


 この上手くいかない、の部分が経験値の差だと思う。微妙な火加減の調整。グラム表示されているが、その数字ピッタリではない微妙な塩梅。そのわずかな差で、味わいは変わる。


 それは学ぶのではなく、体験を重ね、経験で覚えて行くことなのだ。


 鍛冶職人がその技を手で記憶するように。清酒造りの真髄は麹を、酒母を、もろみを見て育て実感する必要があるのだ。


(そもそも真髄は学ぶものではなかったのね……!)


 私はセルジュの言葉を通訳し、それを聞いた将軍オガタは――。


「あっぱれ、であるな。よもや夫婦揃って只者ではない。ルミナリア王国はこんな後継者がいるならば、安泰だな。……実に羨ましい」


 将軍オガタは既婚者で子どもいるはずだけど、跡継ぎの資質に悩んでいるのかしら?


 そんなことを思いつつも、今の言葉をセルジュに伝えると、将軍オガタが再び口を開く。


「清酒造りを学びたい人間がいれば、受け入れよう。だが、東の国へ来るなら、骨を埋める覚悟はした方がいい。うまく行けば、真髄を会得し、帰国ともなろう。だが真髄を理解できず――ということもある。そこは理解いただきたい」


 これに異論はない。セルジュも同じと思い、すぐに通訳して伝える。


「宴の前に、懸案事項は無事解決した――と言いたいが、これで終わりではなかろう、セルジュ王太子殿?」


 将軍オガタの一言に「え、まだ何かあります!?」と私は聞きたくなるが、今の言葉をまずは通訳してセルジュに伝える。


 するとセルジュの表情が引き締まった。


 甘々な顔のセルジュには身も心も蕩けさせられるが、キリッとした顔には体の芯が痺れそうになる!


「アマレット。いよいよ切り札のカードの出番です。将軍オガタは聖域に手を入れてくれました。彼と懇意にしている酒蔵だから、学びたい異国の者を受け入れることになったと思います。でも東の国の各地に酒蔵があり、そこにニシムラ氏のような杜氏がいるはずです」


 私は交渉成立で「万歳!」の気持ちだったが、セルジュは冷静に今の状況を分析していた。


「東の国いる多くの杜氏は、ニシムラ氏への、酒蔵への将軍の介入を良しとは思わないでしょう。つまり将軍オガタは多くの酒蔵からの反感を買ったのです。酒蔵では蔵人がいて、家族がいて、その数は相応なもの。親類や縁者、友人・知人まで含めると、将軍オガタに対するネガティブな意見を持つ者はかなりになります。酒蔵と取引のある酒屋なども考えると、もっとでしょうね。つまりオガタ将軍は多大なるリスクを背負い、わたしたちの要請に応じてくれたのです。将軍オガタが何も得ずに、酒蔵に介入したでは済みません。見返りが必要です。そしてこれは個人的な交渉ではなく、国同士の交渉」


 そこで深呼吸したセルジュは将軍オガタへのメッセージとして切り札を切った。


「清酒造りを学ばせていただく代わりに、東の国とルミナリア王国で大規模な貿易を開始しましょう。人・モノ・金の全てにおける交易です。まずは東の国にはないチーズ、オリーブ・オイルを届け、その製法を教えます。都市計画や石造りの建造物を学びたい東の国の人がいれば、それも受け入れましょう。そして将軍オガタがルミナリア王国を見たければ、即日でご案内します」


 セルジュの言葉に私は目が点になる。都市計画は防衛計画と複雑に絡むので、大陸では機密扱いにされることが多かった。建造物もそれが要塞であればその建築技術は秘匿される。でもそれを教えていいと言っている。


(でも最大はこれ、「将軍オガタがルミナリア王国を見たければ、即日でご案内します」って、魔術のことを、ルミナリア王国が魔族であることを明かすのよ!)


「セルジュ、今の言葉をオガタ将軍に伝えていいの!?」

「魔族であると伝えると怖がられるかもしれないので、魔法を使えることにしましょうか」

「!」

「オガタ将軍の英断に応えられるカードはこれが最善です」


 セルジュが王者の風格を感じさせる余裕のある笑みを浮かべた。


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