13:朝チュン2
チュン、チュン。
雀の声にデジャヴを覚える。
トン、トン、トン。
コケコッコー。
始まりを感じる朝の音に目が覚めると、すぐ横には……。
「!」
いつもならブラックキャットの愛くるしい寝顔で目覚めることになるのに、目の前に見えているのは、今すぐ拝みたくなる美貌のセルジュの顔がある!
(ど、どうして今日はブラックキャットの姿ではないのかしら?)
そこで昨晩のことを思い出す。
昨晩は深川まで舟で向かい、美味しい深川めしを心行くまで堪能した。あ、下り酒も。まろやかでふくよかで本当に美酒だった。そして帰りの舟では幻想的な景色を楽しみ、セルジュとお互いに愛を誓ったのだ。
(そこからは何だか夢見心地だったのよね。お酒の酔いもいい感じに回って。軽く汗を落とすため浴場に行って、その後、部屋にセルジュが来て……)
そこで思い出す。彼の言葉を。
――『わたしは……ただアマレットの横にいて、その笑顔を見られるだけでも満たされます。満たされますが、欲もある。もっと、誰も知らないアマレットを知りたい。わたしだけに見せるアマレットの表情を……望んでしまうのです』
(そ、そうだ。セルジュに私、押し倒してもらえたのだわ!)
つまり昨晩、初夜のやり直しを彼がしようとしてくれて、そして――。
「あ……」
まさに「やちまったなぁ~」だった。
(私、セルジュと初夜のやり直しの途中で、まさかの寝落ちをしてしまったわ……!)
端正な顔立ちで健やかな寝顔を見せているセルジュを見るにつけ、申し訳ない気持ちが高まる。
(私のバカ、バカ、バカ! 大天使みたいなセルジュに“お預け”をするなんて! 何様のつもりなの!? しかも酔って寝落ちなんて最悪過ぎる……! セルジュが「もういいです。あなたとは白い結婚で構いません」なんて言い出したらどうするの!? なんて謝罪すれば……)
いっそここは「朝になってしまいましたが、今からやり直し、どうですか?」と誘ってみる……とか?
(いや、待って! 寝起きなんて口が臭いし、キスがまず無理! あ、歯を先に磨く?)
そこで自分としては静かに起き上がったつもりだが、パチッと目を開けたセルジュと見つめ合う形になる。
「セルジュ」
「アマレット!」
ふわりと抱き寄せられ、ぽすっと彼の胸の中に収まっていた。甘い香りに包まれ、一瞬で幸せな気持ちに満たされる。
「おはようございます、アマレット。ゆっくり休めましたか?」
「お、おはようございます、セルジュ。昨晩は……その、私」
「深川めしはとても美味しかったですし、お酒も進みました。私もアマレットの寝顔を見たら、急激に眠くなり……ぐっすり眠ることになりました」
私が寝てしまい、初夜のやり直しがなくなったこと。今のセルジュの言葉で、怒っていない、気にしていないと伝わってきた。
「東の国の滞在もあと少しです。今回の成果を陛下に報告する必要もありますからね。帰国してしばらくはバタバタもするでしょう。ですがそれもやがて落ち着き、そうなればバカンスシーズンに突入です」
確かにセルジュの言う通り。
留学の許可をもらったのだから、ここは善は急げで動くべきだった。
(それでもバカンスシーズンまでに、諸々は落ち着くと思うわ!)
そこでセルジュは私を抱きしめる腕にぎゅっと力を込める。
「バカンスシーズンに入ったら、アマレットの行きたい場所に行きましょう」
「旅行ですか?」
「旅行を兼ねたハネムーンです。王太子は婚姻後、最大三ヶ月の休暇が認められています」
「そんなに!」
前世では欧米でもなければそんな長期休暇、夢のまた夢、だったので、これにはびっくり。
「急ぐ必要もなく、アマレットも私も若いので、まだ気にする必要はありません。ですが、わたしの次の王太子の誕生も期待されているのです」
これには「あっ、なるほど!」だった。
王族である限り、お世継ぎは個人ごとでは終わらない。国家の一大事扱いになるのはレーガン王国にいても理解出来ていた。
「いずれは跡継ぎについても考える必要がありますが、今はアマレットとのゆっくりした時間を持ちたいです」
「セルジュ……」
「ただ、心だけではなく、体も結ばれた時。アマレットの体に魔族の力が……魔力が巡り、いろいろな変化が起きます」
そこでセルジュは、体も結ばれることで、人間の女性は魔族と同じように不老となり、長寿になるのだと教えてくれた。
その話を聞いた私は、ふとあの日のことを思い出す。
「東の国に初めて行き、温泉宿に泊まった日。セルジュは魔族と人間の寿命の違いについて、考えていました?」
「……はい。まさに考え、その時、アマレットと心身共に結ばれる予定はなかったので……。早すぎる別離を思い、悲しい気持ちになっていました。ですから今、こうして共に長生きできる未来の道筋が見え、嬉しい気持ちでいっぱいです」
そう言って笑顔になるセルジュは、ため息が出そうなほど、美しい!
見惚れる私にセルジュは穏やかに言葉を続ける。
「……最初は、アマレットを客人として迎えることになったので、この件はあえて伝えていませんでした。ですがアマレットは私の真の妃となることを誓ってくださったので……。そしてゆくゆくは結ばれる二人。大切なことなので、伝えさせていただきました」
落ち着いた声音で、優しく説明してくれるセルジュに涙が出そうになる。
「アマレット?」
「どうして……どうしてセルジュはそんなにも気遣いが出来て、優しいの? 王太子なのに! 身分にものを言わせることもなく、自分の我を通すことなく、こんなにも私のことを考えてくれるなんて! 本当は無理していない? 我慢をしていない? ……セルジュが優しすぎて、嬉しすぎて、泣きそうだわ!」
「!? そんな、泣くほどのことではないですよ、アマレット! わたしはただ、大切なあなたのことを考えたら、自然と言われたような行動になっているだけで……。無理も我慢もしていません。……昨日だって、アマレットは酔っているのに、求めてしまいました」
申し訳なさそうにするセルジュを今度は私がぎゅっと抱きしめる。
「セルジュ、あなたは何も悪くないわ! 私もセルジュを求めていた。二人とも同じ気持ちだった。……ただ、私が……飲み過ぎだったと思うわ。ごめんなさい!」
「大丈夫ですよ、アマレット。むしろこれでよかったと思います。酔った勢いで……ではなく、王太子妃として、アマレットに相応しい場をちゃんと整えます」
「セルジュ!」
幸せだった。本当に。
そしてバカンスシーズン。
(どこに行こうかしら? 楽しみが一つ増えたわ!)
















