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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語:東の国

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8:袖振り合うも他生の縁

 将軍オガタが留学生の受け入れを認めてくれた……! しかも稲作作りに取り組むルミナリア王国を応援すると言ってくれたのだ!


 これはもう喜びの気持ちに満たされながら、セルジュに将軍オガタの言葉を伝えることになる。


「ありがとう、アマレット! 東の国の言葉ができるアマレットに、交渉をお任せすることになってしまいました。事前に方針は打ち合わせしていたとはいえ、アマレットが将軍オガタから『イエス』の言葉を引き出してくれたと思います。よく頑張ってくださいました。ありがとうございます、アマレット」


 セルジュに抱きしめられ、その甘い香りで満たされ、万感の想いとなる。


「アマレット殿。あんこだんごが残っている」

「あ、そうでした!」


 将軍オガタに指摘され、勝利の喜びと共にあんこだんごを頬張り、そこで思い出す。


「あ、もう一つ、大切なお願いあります」

「何であるか」


 将軍オガタは煎茶のおかわりを口にしながら、私を見る。


「実は東の国に留学を希望する農夫の中には、稲作だけではなく、清酒に興味を持つ者もいます。清酒造りを習いたいという者もいるのですが――」

「それは無理だ」


 一瞬、何と言われているのかわからなかった。

 これまで将軍オガタはポジティブな反応しか見せていない。それなのに今……。


「清酒を造る酒蔵は、天下人とて手を出せぬ聖域だ」

「え……」

「清酒造りの要となる麹。この麹を扱う蔵人は麹屋こうじやと言われている。麹を作る技法は秘伝。一子相伝、それが無理なら同郷の杜氏仲間で伝えるものだ。外部に漏らすはご法度、麹室こうじむろに外部の人間が立ち入ることは禁じられている」


 これには「そうなのですか……!」と驚くことになる。


 前世で酒造りの知識があったわけではない。よって今、将軍オガタが口にしていることが、前世と同じなのかはわからなかった。


 ひとまず将軍オガタに言われたことを、セルジュに聞かせていると。


「上様、ただ今、戻りました」


 女衒を捕らえに行ったヒラタが戻って来た。エリーの姿も見える。


「おお、近習ヒラタ。ご苦労であった。して、どうであったか?」

「はい。上様の見立て通りで、営業許可をとっていない違法な女衒でした。証文も偽造したものです。それに多くの余罪があるようで……。奉行所で厳重な取り調べを行うことになりました」


 そこでヒラタは一本の美しい簪を取り出す。


(きっと朔太郎くんが女衒に預けた簪ね)


 七宝焼きだろうか。鮮やかな碧色、白、青の花の細工に翡翠が飾られ、実に美しい。お咲ちゃんの艶のある黒髪に飾れば、実に映えるだろう。これを姉のために選んだ朔太郎くんのセンスの良さに唸りそうになる。


「この簪は捕らえた女衒が所持しており、確認したところ、遊郭に売り払う予定の娘……お咲の弟の物であると白状しました」

「なるほど。これが金を工面するまでの間、朔太郎が女衒に預けた簪、であるか」


 将軍オガタは簪を受け取り、「見事であるな」と呟く。私はリアルタイムでセルジュに通訳しながら、「もしかして」と思う。


「オガタ将軍、そちらの簪、朔太郎くんは珠花簪堂たまはなかんざしどうで購入したと言っていました」

「ああ、珠花か! 贔屓にしておったら、あそこの簪、気づいたら安いものでも五両から、なんて高級品になってしまった」


 贔屓……将軍家御用達。高くなって当然ですよ、将軍オガタ!

 それにしても五両……ざっくり計算で五十万ぐらい。


(超高級品! 安い物でその値段なら、あの朔太郎くんが姉のために手に入れた簪はもっと値が上がっていそうだわ。これはまさに無名時代に買った画家の絵が、後から大化けする感じね!)


「それで女衒は、お咲という娘をいくら買い受けたと?」

「五両です」


 不思議だった。簪で五両は超高級と感じたのに。お咲ちゃんの身売りで手に入るのはたったの五両と思えるのだから。


(お咲ちゃんは艶のある美しい黒髪を持ち、目だってパッチリしていた。そんな、五両で済むわけがない。というか借金の返済、どれだけ必要かと思ったけど、五両でいいのね! それなら用立てできるわ!)


 これでも王太子妃なのだ。


 リアルタイム通訳を終えた私は背筋を伸ばし、将軍オガタに伝える。


「オガタ将軍。五両は私が支払います! 女衒のことはしっかり罰してください。そしてこれはお願いになるのですが……お咲さんが働ける場所を紹介いただけると助かるのですが……」


 将軍オガタのヒラタが驚いた表情で私を見る。


「……アマレット殿は、お咲の弟に東切子を盗まれた。事情があるとはいえ、盗人として、朔太郎を奉行所へ引き渡すこともできる。でもそうすることは願っていないのだろう?」

「はい。普段から悪さをしているわけではなく、姉を助けたい一心だったのです。私は朔太郎くんを罪に問う気持ちにはなれません。許します」


 東の国の言葉で話しているが、セルジュは直前の会話、私の表情から何を話しているのか、察してくれたようだ。私の手をぎゅっと握りしめる。まるで励ますように。わたしがついている、味方だと言うように。


「朔太郎を罪に問わない……。なるほど。姉であるお咲のことは、成り行き上ではあるが、助けている。そして女衒は捕らえられた。多くが『もう十分だろう。悪党は捕まった。借金の件は、姉弟とその家族の問題』と関わることを止めても……誰も文句は言わないと思うが」

「東の国では、袖振り合うも他生の縁――という言葉がありませんか?」

「! よく知っているな」

「今回、お咲さんと朔太郎くんと知り合うことになった。これには何か意味があるように思えます。そして誰かを助ける時、中途半端では意味がないと思うのです。きちんと幸せになれるように最後まで見届ける――それが……私の矜持みたいなもので……」


 将軍オガタ相手に何を私は語っているの!と思うが、もう口にして言ってしまった。


(だ、大丈夫かしら? そこまで変なことは言っていないわよね!?)


 汗がダラダラの私に将軍オガタは――。


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