6:いろいろと理解する
「アマレット!」
「「アマレット様!」」
「朔太郎!」
「姉様!」
いろいろな声が飛び交う中、私は地面に激突しそうになっていた。
だが、力強く腰を掴まれ、そのままぐいっと体が起き上がることになる。
(セルジュ……!)
そう思い、腰に回された腕をたどり見上げた顔は――。
「スティ……!」
さっきセルジュの声が聞こえたので、彼に助けられたと思ったら、まさかのスティだったとは!
(ビックリしたけどゴルゴン三姉妹の中で、スティが一番の怪力だった。助けられたのは必然で、セルジュは……)
セルジュはどうやら私に体当たりしたらしい少年の首根っこを押さえているが。
「あ、その風呂敷包み!」
「アマレット、ひったくりの犯人はこの少年です」
「朔太郎! なんてことをしているの! 人様の物を盗むなんて、返しなさい!」
少女の凛とした声で、いろいろと理解することになった。
◇
深花寺の境内のあちこちに参拝客がちょっと休めるよう、腰掛けが置かれていた。
そこに座り、話をすることで全員がこの状況を理解することになった。
二人の姉弟の話は私がまず聞いて、通訳を兼ねて、セルジュ、スティ、メディへ伝えることになる。
「なるほど。そちらのレディの名前がお咲さんで、その隣が弟の朔太郎くん。お咲さんの父親は病気の母親と祖母を抱え、借金が返せなくなり、お咲さんを遊郭へ身売りさせることになった。女衒と呼ばれる仲介人にお咲さんは引き渡され、その吉原という遊郭へ連れて行かれそうになったところに朔太郎くんが現れたのですね」
セルジュに問われ、私はこくりと頷く。
「その通りです、セルジュ。朔太郎くんはお咲ちゃんにプレゼントしようと、三年間少しずつ貯めたお金で手に入れた簪を持っていました。そこでその簪を女衒に渡し、『お金を工面して戻るから、待って欲しい。その簪は預ける』と土下座したそうです」
庶民が買うような簪、安物と思われるが、今回はそうではなかった。
「その簪、朔太郎くんが手に入れた時、作り手は無名でした。ですがその簪を売る店が、将軍家御用達になることで、状況は変わりました。簪は相当な値段になっており、女衒も朔太郎くんの提案を半信半疑ながら聞くことにしたようです。ただ女衒は待ちくたびれ、お咲ちゃんにひどいことをしようとしていました。そこでエリーに頼み、止めにはいったのです」
私の話を聞いたセルジュは腕組みをして尋ねる。
「そこまでは同情の余地がありますが、朔太郎くんはお金を工面する……ひったくりをして質入れしてお金を手に入れようとしたのですよね? 庶民には高級品となる東切子のお店に入ったわたし達に目をつけ、店から出てきたところで、購入品を奪った。本来の予定では、それを質屋で買い取ってもらい、女衒のところへ向かうつもりだったわけですね」
まさにその通りだった。そして朔太郎くんは千代田町を知り尽くしており、土地勘もあり、逃げ足も速い。何よりその背格好では人混みで目立ちにくい。セルジュとスティは大苦戦することになる。だがセルジュもスティも諦めず、追いかけた。朔太郎くんとしては、これは大きな誤算。すぐに諦め、質屋で換金できると思ったら、追っ手は収まらない。仕方ないので換金を諦め、そのまま東切子を女衒に渡そうと思ったのだ。
「朔太郎くんが私に体当たりした理由。それは吉原からお咲ちゃんを向かに来た遊郭の者だと思ったから――と本人が言っていました。そして私がお咲ちゃんのピンチを助けたと知り、心から謝罪してくれましたし、東切子のグラスを盗んだことも謝罪しています」
「そういうことでしたか。それでアマレットはその謝罪を受け入れるのですね?」
「はい。朔太郎くん自身、姉であるお咲ちゃんを助けたい一心での行動だったと思います。こんな形ではありますが、関わることになったのです。セルジュにいただいた宝飾品を質入れすることは不本意ですが、でもこの姉弟を助けてあげたい。借金を帳消しにしてもらい、お咲ちゃんの働き先も見つけたいと思っています……勝手を言ってごめんなさい、セルジュ」
私の言葉を聞いたセルジュは、大天使みたいな慈しみに溢れた笑顔になる。
「アマレット。わたしはいつだってあなたの一番の理解者でありたいと思っています。今回、何かの縁があり、お咲さんを助けることになった。そして助けたからには中途半端にしたくない。最後まで何とかしたいと思う気持ちはよく理解できます。そこはアマレットらしいと思います」
そこでスティがハッとした様子となり、セルジュに耳打ちをする。それを聞いた彼は納得顔になった。
「エリーが奴らを尋問し、スティに報告してくれました。この話を聞く限り、アマレットは宝飾品を売り払う必要はなさそうですよ」
「そうなのですか……?」
「ただ確認したいことが二つあり、それがクリアになれば、この姉弟の抱える問題は……解決できると思います。そしてその相手とはこの後、会うことができる」
セルジュの言葉に今度は私がハッとすることになる。
「もしかしてセルジュが確認したい二つのこと、それを聞く相手は――」
「将軍オガタです」
















