5:そうね、そうしましょうか
まさかの東の国でひったくりにあうなんて!
すぐに店を出て、ひったくり犯の姿を探すが……。
「子どもでした! 少年です! くすんだ藍色の衣装を着ていました!」
スティに犯人の特徴を聞き、「よく見ていた!」と思うのと同時に、子どもが盗んだの!?とショックを受けることにもなる。
「……これだけ人が多いと、魔術を使うのは危険です。巻き込まれてしまう人が出ます。……ここは追いかけるしかないでしょう」
それはまさにセルジュの言う通りだったので、私はこくこくと頷くことになる。
もしゴルゴン三姉妹の力を使っても、石化する人が大勢出てしまうし、大騒ぎになるのでそれも無理だった。
「スティはわたしと一緒に犯人を。唯一顔を見ているので。エリー、メディ! アマレットのことをきちんと見守るように!」
「「「かしこまりました、殿下!」」」
セルジュとスティはものすごい勢いで走り出すが、昼間のこの時間、大勢の人が通りを歩いている。その間を縫って、背の低い子どもを探して追いかけるのは……かなり難しいと思う。
(やっぱり凶を引いたせいで……)
こんな時、泣きっ面に蜂が起きやすいのかしら?
「ひょ~! 別嬪さん!」
「異人さんだぁ、見て見ろよ!」
鼻の頭を赤くした酔っ払いに絡まれ、辟易することになる。
「石化します?」
「一瞬で済ませますよ」
エリーとメディに問われ「そうね、そうしましょうか」と一瞬答えそうになるが、「酔っ払いは相手にしない方がいいわ」と応じることになる。
「綺麗だなぁ」
「目がガラス玉みたいだ」
たとえ酔っ払いではなくても、女性が三人だけで、しかも異国の者となると、注目を集めてしまう。
「ちょっと人目の付かない所へ移動しましょうか。セルジュは……」
「殿下なら絶対にアマレット様を見つけられます」
「スティも殿下と一緒なので、我々姉妹が連絡をとることもできます」
エリーとメディの答えを聞き、このまま東切子を売るお店の軒先でセルジュとスティが戻るのを待つ必要がないとわかった。そこで深花寺に併設されている庭園の方へ戻ると、手入れに使う道具をしまうような小屋を発見。その近くにはまったく人がいないので、そこへ向かうことにしたが――。
小屋が近づいた時、声が聞こえてきた。
「や、やめてください……」
「こっちは暇を持て余しているんだ」
「お前の弟、金を持ってくると言いながら、とんずらしただけじゃないか?」
「父親と同じでお前を捨てたんだよ。諦めろ」
まだ若い女性と男三人による不穏な会話。
なんとなく想像できるのは、両親が借金の返済のために、娘は売られた。だが弟は姉を助けようと「お金はなんとか自分が工面する!」となったが、まだ戻って来ていない……。
「「アマレット様……」」
エリーとメディが私を見る。
言葉はわからなくても不穏な空気を感じ取ったのだろう。
ここは東の国で、私たちは異邦人だった。
(さっき私が想像したこと。それが正解とは限らない。もっと全然違う事情があるのかもしれない)
まさに逡巡していると――。
「や、いや!」
「静かにしていろ!」
「お前は売り物だ。最後まではしない」
「そうだ、これぐらいならいいだろう!」
聞こえなかったふりなんてできない!
目で合図をすると、エリーが頷き、小屋の裏へと向かう。
「なんだ、お前!」
「おい、異邦人だぞ!」
「く――」
呆気ないものだ。エリーのひと睨みで全員、石化状態。
「ロープを見つけました!」
メディは小屋の中に入り、ロープを見つけてくれた。
急いで裏に回ると石化した男三人をエリーが木に立てかけている。
「エリー、ロープがあったわ!」
「よく見つけたわ、メディ!」
男三人を木と共にロープでぐるぐる巻きで結わきつけると、エリーが少女の石化を解く。
「あ、あの……」
石化すると前後の記憶があやふやになる。
黒髪に、かなり傷んだ桃色の着物に浅葱色の帯という姿の十代後半の少女は、おどおどした瞳で私たちを順番に見た。
「怖がらなくて大丈夫よ。ご両親の借金で遊郭に売り飛ばされそうになっていたのよね?」
私が優しく声をかけると、少女はハッとして、力強く頷く。
「……! そうです。でも弟がお金を何とかするからって……。でも弟はまだ十三歳です。酒屋で十歳の頃から丁稚奉公をしていますが、給金なんてほとんどないはず。私は体の弱いおかあちゃんとおばあちゃんの看病で奉公には出ていなくて……。というか私……」
そこで少女の瞳がぐるぐる巻きにした男たちがいる木の方へ向きそうになったので、メディが自身の体でそれを隠す。
私は少女を立ち上がらせ、ひとまず移動する。
「弟さんはお金を持ってここに来ることになっていたの?」
「はい。八つ時までに深花寺の境内にお金を持って来られなかったら、私は……吉原に連れて行かれることになっていました……」
遊郭の名前だけは吉原で一致しているのね……なんて思っている場合ではない。
(一体、借金はどれぐらいなのかしら?)
助けるかどうか迷ったが、男たちが少女に手を出そうとしているとわかったら、見捨てるなんてできなかった。
(助けると決めたなら、中途半端なことはできない。借金を立て替えて、少女の働き先を見つけてあげないと)
お金の工面は質屋で身に着けている宝飾品を売ればいいかと考えていたら。
「!」
いきなりものすごい勢いで体当たりされ、私の体は地面に激突しそうになり――。
















