4:お土産
「はぁ~」
「アマレット、そう落ち込む必要はありません。スティもメディも“凶”を引きましたがあの通り。まったく気にしていません」
それはまさにセルジュの言う通り。
境内に到着し、無事参拝を終え、お楽しみで引いたおみくじ。
その結果は……。
セルジュは奇跡の大吉で、周囲の人々から拍手が起きるぐらいだった。大吉は滅多に出ないらしい。そしてエリーは吉。で、スティ、メディ、私はまさかの凶だったのだ!
「待ち人来たらず……やはり私は結婚に向いていないんですよね~」とあっけらかんな表情のスティ。「あ、私も縁談整わず、と出ました! そもそも結婚願望はないので無問題です!」とメディ。
一方の私は「しばし時を静かに待て」の言葉が特に脳裏に残る。
(これってもしかしてセルジュと夜の過ごし方の変化はまだ待ちなさい、ということかしら?)
「アマレット様が落ち込む気持ちはよ~くわかります。何しろこの後、将軍との交渉があるのです。それで凶を引いたら、落ち込みますよね」
エリーに言われ「そうだった!」と私は顔を青ざめさせるが……。
「アマレット、問題ないです。わたしが大吉という最強の運勢を手にしているのです。一緒にいるアマレットの凶など吹き飛ばしてみせます」
「セルジュ……!」
深花寺に併設された庭園を散策し、花菖蒲を眺めていた。しかし優しいセルジュに慰められ、キュンキュンしてしまい、正直花より彼のことばかり見てしまう。
「参拝と散歩も終わったので、一休みしましょうか。そこに“おいなりさん”なるものが売っているようです。アマレット、“おいなりさん”は知っていますか?」
「! おいなりさん! はい、知っています。今朝、豆腐田楽をいただきましたよね? あの豆腐を薄くスライスして、油で揚げたのが、油揚げなんです。この油揚げを甘辛いタレ……いつもの出汁、醤油、砂糖、みりんで煮詰めて、それを袋状にします。その中に酢飯を詰めたのがおいなりさんです!」
「なるほど。ビネガーのライスは美味しいとわかっていますし、今朝食べた豆腐田楽も旨かったです。そうなるとそのおいなりさんは、絶対に食べるべきでしょうね」
私は「はい! 食べて損なし、旅の思い出になります!」と請け負う。
(というか、いなり寿司、懐かしい! まさかこの世界でいただけるとは思わなかった。食べたい!)
「アマレット様、どうして“おいなりさん”と呼ぶのですか?」
エリーに尋ねられた私は、よくぞ聞いてくれましたと答える。
「実は東の国では、狐が神様の一人なの。そして狐の神様は稲荷神と呼ばれている。その神様が好きな食べ物、それがおいなりさん。稲荷神を祭る祠においなりさんをお供えする人もいるのよ」
これを聞いたセルジュと三姉妹はとっても驚いている。
「狐といえば、害獣と言われ、人間界ではずる賢い動物として扱われていませんか? それが東の国では神なのですね」
セルジュの言葉に三姉妹もこくこくと頷く。
「神聖化され、お供えまでされているなんて!」とスティが言えば、「狐も気に入る味なんて、どんな味か気になります」とメディが応じる。
「とにかく気になる食べものであることに変わりません。皆でいただきましょう!」
こうしておいなりさんこと、いなり寿司を買い、お店の軒先の縁台に腰掛け、早速いただくことになる。
「! これは……甘みとしょっぱさに、ビネガーの効いたライスが掛け合わされ、ちらし寿司を彷彿とさせる摩訶不思議な美味しさです! ちらし寿司のように、沢山の具材が入っているわけではない。それなのに匹敵する旨さ……。これは……追加で購入してきます。皆もまだ食べられますよね?」
まずはお試しと一人一個で購入していた。しかしその美味しさに、セルジュがおかわりを買いに行く気満々。そして今回食べたいなり寿司は、一口サイズに近い。ゆえにおかわりに異論はなく「「「「殿下、よろしくお願いします!」」」」だった。
結局、セルジュは五つをぺろりと平らげ、女性陣も三つ食べて満足。本当はまだ食べられそうだが、この後、将軍オガタとだんごを食べるのだ。余力を残すことになった。
「程よく満足です。煎餅もいただきましたからね。……あちらに美しいガラスの食器でしょうか。売っているのですが、あれを母上と父上のお土産にどうでしょうか?」
ちょうど縁台に座り、通りを挟んで見えているのは前世で言うなら江戸切子のお店!
(この世界では……東切子と言うのね)
前世の記憶で知る江戸切子と言えば、赤や青をメインに、ピンク、水色、紫、グリーンとカラフルなものが多かった。でも今、見えている東切子は透明なグラスに幾何学模様が彫られているもの。
「セルジュ、あのグラス、葡萄酒のグラスだわ!」
「本当ですね。しかも模様がとても美しいです」
セルジュのエスコートで店頭へ向かい、並べられている美しいガラスのグラス、盃、鉢などを眺める。気持ち的には店ごと買い取りたいぐらい! セルジュとじっくり見て、魔王夫妻のお土産として、東切子の葡萄酒のグラスを手に入れることにした。
「お会計はこちらへどうぞ」
店内に入り、お会計を済ませると、立派な桐の箱に入れてくれる。
さらにその桐箱を風呂敷に包んでくれたのだ!
「お買い上げ、ありがとうございます」
「私が持ちますね!」
スティがそう言い、風呂敷包みを抱え、店を出る。
まさにその瞬間。
「えっ」
スティが声に出した時には、その手元から風呂敷包みが消えている!
あまりにも咄嗟のことで、スティが包みを落としたのかと思い、地面を見るがそこには何もない。
「ひ、ひったくりです!」
ようやく事態を呑み込んだスティが叫んだ。
















