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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語:東の国

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3:朝チュン……?

 チュン、チュン。

 トン、トン、トン……。


 まな板に当たる包丁の音。


(今日の朝ごはん、何かな。本当は和食より、私もチカちゃん家みたいに洋食がいいのになぁ)


 ゴーン。


(うん……? 鐘の音……?)


 コケコッコー。


(??? ニワトリ!? マンションでニワトリを飼っている人なんていた??)


 ビシャ、バシャッ。


(水を撒いているのかしら?)


 聞こえてくる水音に、宇宙のような夜空が脳裏に浮かぶ。


 セレノア。


 そこでハッとして目を開けると、目の前には実に愛らしい黒猫の寝顔。


「ブラックローズ……セルジュ!」

「みゃぁ(アマレット)!」


 腕を伸ばしその体を抱き寄せる。

 温かく小さい癒しのもふもふ。


「なぁ~(どうしたのですか、アマレット)?」

「……一瞬、ここが東の国であることを忘れて……。セルジュを抱きしめて、ここがどこであるか思い出すことができました」

「みゃおん(アマレットはわたしの大切な妃です!)」


 セルジュは両手を伸ばし、そのぷにぷにのピンク色の肉球で私の頬にぺちぺち触れる。


(ここがどこかは一瞬吹き飛んでいたけど、セルジュを見たら、すぐに思い出せたわ。それなのにこんなふうに心配するなんて! なんて愛いのかしら!)


 その動作が愛らしく「セルジュ~」と悶絶し、その顎の下あたりに顔を押し当てると……。


「ふにゃぁ~(くすぐったいです……!)」


 今度はセルジュが悶絶したと思ったら、その姿が人間の姿に代わり……。


「「「失礼します。おはようございます、アマレット様!」」」


 扉ではない和室。襖が開いたと思ったら、グラマラス美女三姉妹が身支度の準備のために顔を覗かせた。そして布団には上半身裸のセルジュ、そしてその彼に腕を伸ばした状態の私。


「失礼いたしました! あと三十分後に出直します!」

「殿下はそんなに遅くないと思います、スティ!」

「十五分後に出直します!」

「スティ、エリー、メディ! 大丈夫だ! アマレットの準備を頼む」


 セルジュはそう言うといつもながらの神業の速さでちゃんと用意していた浴衣を羽織り、足早に退出した。


 ◇


 もう朝からドキドキだった。


(これまでセルジュは感極まると人の姿からブラックキャットに変わってしまうことがあった。でもその逆もあるなんて……!)


 驚いたがセルジュの裸体は正直、芸術品。エロさより純粋に「美しい……」とため息ものだった。


 朝食のたくあんをポリポリと噛み締めながら、そこで気付く。


(セルジュと私。すでに結婚している。でもそういえば……)


 ブラックキャット姿のセルジュを一緒に眠ることは多々ある。一緒にナイトティーを飲み、その後セルジュがブラックキャットの姿になり、私が彼を抱き寄せベッドで休む。セルジュの執務が忙しく、先に休んで朝、目覚めると、ブラックキャット姿の彼が枕元で丸くなっている。そんなことはあるが、世間一般で言われる夫婦の営みは――。


「ひゃあ、何です、これは!?」

「すごくしゅっぱいでひゅ……」

「た、種が入っていますよ!」


 今日もそれぞれ赤、黄、青と信号機カラーのワンピース姿のスティ、エリー、メディは、初めての梅干しに仰天している。


「それは梅干しよ。ライスと一緒にいただくと絶品。種は食べないで」

「「「なるほど~」」」

「セルジュは大丈夫ですか?」

「ええ、私はアマレットの食べ方を観察して真似をしたので、美味しく梅干しもいただけました」


 そう言ってニコニコ微笑むセルジュは魔族ではなく、大天使にしか見えない。

 そのセルジュと……。


(いやいや、私、朝からなんていう妄想を!)


 コホンと咳払いをして、豆腐田楽を口に運んだ。


 ◇


「八つ時まで時間があるので、千代田町を代表する深花寺しんかでらへ行きましょうか? 花菖蒲が見頃の庭園も併設されているそうです!」


 私の提案に異論はなく、深花寺へ向かうことになる。

 白水色のセットアップを着たセルジュと共に、セレストブルーのドレスを着た私は馬車へ乗り込んだ。


(東の国では将軍オガタの政策により、馬車が導入され、千代田町には馬車道も整備されている。そこは鎖国がないぐらい驚きだわ!)


 なにせ前世で馬車が活躍した時代は、ほんの二十年ほどしかないからだ。


「東の国は様々な乗り物が行き交っていますね。馬車があれば、騎乗のサムライもいる。女性は駕籠に乗っている人が多く、庶民はほぼ徒歩です。……この脚力はすごいことだと思います」


 大陸の馬車文化を導入しつつも、馬車に乗るにはお金がかかる。ならばと庶民は元気に千代田町を歩き回っているのだ。この健脚ぶりにセルジュが驚くのは……納得だった。


 宿から深花寺までは約三キロで、皆、徒歩で向かっている。だが私たちは馬車文化圏の人間なので、馬車を頼んでいた。


「あ、セルジュ、見てください! 深花寺が見えてきましたよ!」


 寺の入口となる門の左右には、風神と雷神像が飾られている。

 そしてその周辺にはお土産物屋……ではなく、お茶屋などの飲食店以外にも、芝居小屋や見世物小屋などの遊興施設も揃っていた。


「ここで馬車を下りて、あの通りを向かうのですね?」

「はい! 駕籠もありますが、お店や芝居小屋もあるので、眺めながら徒歩で向かうのでいいかと。ちなみに深花寺は千代田町の大聖堂みたいなもので、町の人々が毎日のように祈りを捧げています。あとこのお寺ではおみくじがあるので、引いてみましょうか!」


 馬車を下り、参道をのんびり歩くことになる。

 煎餅を焼く香ばしい匂い、豆腐田楽の味噌の香り。

 飴屋がリズミカルに飴を切る音も響く。太鼓の音も聞こえている。

 走り回る子供や犬もいれば、駕籠が勢いよく走り抜けて行く。

「芝居が始まるよ~」と芝居小屋の呼び込み、「さあさあ、海を渡って来た珍しい動物を見て行かないか~」と客引きが声を張り上げる。


「芝居小屋……演劇、ですよね? 見て見ますか、アマレット?」

「ええ、いいですよ」


 境内へ向かう参道を楽しむのは前世もこの世界も変わらない。

 芝居小屋をのぞき、煎餅を食べ、お土産を買う。

 観光気分を存分に楽しむことになった。


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