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ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~  作者: 一番星キラリ@受賞作続刊発売決定:商業ノベル&漫画化進行中
第三弾のその後の物語:東の国

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2:愛でたいのは……

 宿からちょっと歩けば沢山のお店があった。威勢のいい売り子さんに声をかけられ、聞くと店内で初鰹の刺身も食べられると言う。そこで入ったお店、そこは武士も利用するような立派なところで、畳敷きの個室に案内された。


 もうここはセルジュに胡坐を進め、三姉妹にはマーメード座りで楽にしてもらうことに。そして初鰹の刺身御膳を注文し――。


「はい、お待ちどうさん! 初鰹の刺身御膳ですよ!」


 御膳のメニューは、白米、あさりの味噌汁、胡瓜の浅漬け、胡麻豆腐、青菜のおひたし、たけのこの煮物、そして初鰹の刺身。


「異人さんはお酒が強そうだよね! サービスで徳利一本つけておくから、気に入ったらおかわりを頼んでくださいな」


 こうして辛口の純米酒と共に、初鰹の刺身を楽しめることになった!


「ではいただこうか」「はい」

「「「「「いただきます!」」」」」


 辛口の純米酒で軽く口を湿らせ、次にあさりの味噌汁を口に運ぶ。


(はあ、懐かしい味……)


 ルミナリア王国では何度となく味噌汁を飲んでいるが、あさりの味噌汁は、ほのかに磯の香りを感じ、前世での日常の記憶を呼び覚ます。


「すまし汁とはまた違い、この味噌汁は……滋味深い味わいですね」


 セルジュがしみじみとそう言うと、グラマラス美女三姉妹も口々に同意を示す。


「なんだか体に良いものを飲んでいる気持ちになります」

「胃袋が温まり、気持ちも和みます」

「貝の小さな身を噛み締めると、じゅわっと旨味が溢れ出て来ます」


 スティ、エリー、メディが瞼を閉じ、感動している。


「三人とも、初鰹を食べないと!」

「そうですね。でもその前に、こちらを」


 そう言うと、メディが副菜の一つ、青菜のおひたしを食べて驚く。


「薄味なのに、シャキシャキして、青臭さもなく、美味しいです!」


 エリーは筍の煮物を食べ、「懐かしい味です」と笑顔になる。

 ルミナリア王国でも食べたことを思い出してくれたようだ。

 その一方で、胡麻豆腐を口にしたセルジュとスティは……。


「これは……なんというか歯応えは……チーズのようです。ですがチーズとは違い、口の中でなめらかに溶けて行きます。なんという舌触り……!」

「このゴマの風味も驚きです。こんなふうにゴマをいただくのは初めてです!」


 二人とも初めての胡麻豆腐に感激している。


 こうして無事、副菜の三品を食べ終え――。


「いよいよ初鰹ですね!」とセルジュが瞳をキラキラさせる。


「はい。まずはこの白米と共に楽しみ、お酒の肴用に少し残しておきましょう」

「なるほど。では」


 初めて食べる辛子醤油の初鰹。お箸で摘まみ、口の中へ運ぶと――。


 春の鰹は脂が少なくさっぱりとした味わい。ここに辛子醤油が絡まると、魚の風味をいい感じに引き立ててくれる。噛み締める度に、ツンと鼻に抜ける辛子の爽快感。もうお酒を飲みたくなるが、ここで白米を投入すると――。


 白米のまろやかな甘みが、辛子の風合いをリセットしてくれる。


「東の国のマスタード醤油と初ガツオは、とっても合いますね! まさに大人な味わい。これは貴族が好む嗜好品になりそうな一品です!」


 セルジュの意見に三姉妹が賛同する。


「この鼻にくるツンを楽しめるのが、大人の証に思えます!」

「このツンとした瞬間にライスを食べるのが、極意に思えます!」

「ライスでリセットされた後、再びカツオを食べ、またもライス……無限に食べられそうです!」


 スティ、エリー、メディはもう箸が止まらない。


「三人とも、お酒のお供の分も残すのよ」

「そうでした!」


 そこで漬物と共に白米を食べることになるが「口の中でキュッキュッと音がします!」と胡瓜の浅漬けに三姉妹は驚いている。


 こうして食事を終え、後は辛口の純米酒と辛子醤油の初鰹をいただくが――。


「辛口×辛子は正義だと思います!」


 つい前世のノリで私が呟いてしまったが、セルジュも三姉妹も、言わんとすることはわかってくれたようで「分かります!」と同意してくれる。


「辛口のお酒が、東の国のマスタードの刺激と絶妙なバランスですね」


 セルジュはそう言いながら、くいっとお猪口を開ける。


「もう一本、頼みますか?」


 私が尋ねると、セルジュは「頼みましょう!」と頷く。


 そこからは五人で徳利を……何本空けただろう?


 追加で酒の肴になる塩辛や奈良漬けを頼み、いい感じで飲んでしまった。

 満足して外に出ると、通りは真っ暗かと思いきや、そんなことはない。


 手に提灯を持ち行き交う人も多く、通りには飲食店も多い。

 軒先の提灯の明かりもあるし、今の季節は窓を開けているお店も多かった。

 二階の窓からは笑い声と共に、明かりも漏れていたのだ。


「なんだかそぞろ歩きをしたくなるわ」


 独り言のように呟いたのに、セルジュは「ではぐるりと一周してから戻りましょうか」と提案してくれる。


「気候もちょうどいいですし、明かりも通り沿いを歩けば、軒先のランプ(提灯)もあります。三姉妹(護衛)もいますし、少し散歩をしてもいいでしょう」

「ありがとうございます、セルジュ!」


 優しいセルジュにエスコートされて歩き出すと、チラチラとこちらを見る人がいる。セルジュは長身なので目を引く。その上で髪は黒いがその瞳は金色。


(老若男女問わず、セルジュに見惚れているわ!)


 私はそう思ったのだけど、セルジュは……。


「東の国の人たちは、大陸の人々のようにじっと見ることはありません。でも……先程からチラチラとアマレットのことを見ている男性が多いです……」

「!? 私ではなく、セルジュのことを見ているのだと思います」

「そんなことはありません! アマレットは自分の美しさをもっと自覚してください!」


 セルジュの可愛い抗議を聞きながら、通りを眺めると、何だか少し雰囲気が変わっている。


 軒先の提灯の数が増え、これまでのシンプルな白地のものから、赤や黄色でサイズも大きい。通りがぐんと明るくなり、すれ違うのも身なりのいい旦那衆。


「なんだかエキゾチックな音色が聞こえますね」


 スティに言われ、私はそれが「三味線や太鼓の音である」と教える。


「先程の通りの食事の香りとは違い、香の匂いもしますね」


 セルジュの言う通りで、二階の窓には吊るされている香炉が見えていた。


「ここは花街と言われるエリアで、芸者と呼ばれる、三味線という楽器の演奏、舞踊と呼ばれる踊り、唄などの芸事を披露してお金を得る人たちのお店があります。飲食店のある通りより、華やかですよね」


 私の言葉にセルジュと三姉妹は「なるほど」と頷く。


「お酒を楽しみ、美しい女性の芸事を楽しむ。身分の高い男性や裕福な町人の遊びの一つでもあるのですが……セルジュは興味、ありますか?」

「興味はないと言ったら、嘘になります。東の国の文化をわたしはしっかり知っているわけではないので、見るものすべてが興味深いです。……ただ、その花街の芸者。それは紳士が楽しむものに思えます。そしてお金を払ってまで見る芸であれば、それはとても素晴らしいのでしょう……。ですがわたしは見知らぬ女性が楽器を演奏し、歌ったり踊ったりする姿を見るより、アマレットを愛でたいです」


 大変真面目な表情で私への愛をストレートに表現するセルジュ!

 これには全身が熱くなり、顔はおそらく真っ赤になっている!


「さすが殿下! なんて一途なのでしょう!」

「やはり殿下には、アマレット様だけ、ですよね♡」

「アマレット様を愛でる殿下を、愛でたいです!」


 スティ、エリー、メディがとんでもないことを言い出すから……。

 東の国で過ごす夜は甘々に更けていく――。


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