2:愛でたいのは……
宿からちょっと歩けば沢山のお店があった。威勢のいい売り子さんに声をかけられ、聞くと店内で初鰹の刺身も食べられると言う。そこで入ったお店、そこは武士も利用するような立派なところで、畳敷きの個室に案内された。
もうここはセルジュに胡坐を進め、三姉妹にはマーメード座りで楽にしてもらうことに。そして初鰹の刺身御膳を注文し――。
「はい、お待ちどうさん! 初鰹の刺身御膳ですよ!」
御膳のメニューは、白米、あさりの味噌汁、胡瓜の浅漬け、胡麻豆腐、青菜のおひたし、たけのこの煮物、そして初鰹の刺身。
「異人さんはお酒が強そうだよね! サービスで徳利一本つけておくから、気に入ったらおかわりを頼んでくださいな」
こうして辛口の純米酒と共に、初鰹の刺身を楽しめることになった!
「ではいただこうか」「はい」
「「「「「いただきます!」」」」」
辛口の純米酒で軽く口を湿らせ、次にあさりの味噌汁を口に運ぶ。
(はあ、懐かしい味……)
ルミナリア王国では何度となく味噌汁を飲んでいるが、あさりの味噌汁は、ほのかに磯の香りを感じ、前世での日常の記憶を呼び覚ます。
「すまし汁とはまた違い、この味噌汁は……滋味深い味わいですね」
セルジュがしみじみとそう言うと、グラマラス美女三姉妹も口々に同意を示す。
「なんだか体に良いものを飲んでいる気持ちになります」
「胃袋が温まり、気持ちも和みます」
「貝の小さな身を噛み締めると、じゅわっと旨味が溢れ出て来ます」
スティ、エリー、メディが瞼を閉じ、感動している。
「三人とも、初鰹を食べないと!」
「そうですね。でもその前に、こちらを」
そう言うと、メディが副菜の一つ、青菜のおひたしを食べて驚く。
「薄味なのに、シャキシャキして、青臭さもなく、美味しいです!」
エリーは筍の煮物を食べ、「懐かしい味です」と笑顔になる。
ルミナリア王国でも食べたことを思い出してくれたようだ。
その一方で、胡麻豆腐を口にしたセルジュとスティは……。
「これは……なんというか歯応えは……チーズのようです。ですがチーズとは違い、口の中でなめらかに溶けて行きます。なんという舌触り……!」
「このゴマの風味も驚きです。こんなふうにゴマをいただくのは初めてです!」
二人とも初めての胡麻豆腐に感激している。
こうして無事、副菜の三品を食べ終え――。
「いよいよ初鰹ですね!」とセルジュが瞳をキラキラさせる。
「はい。まずはこの白米と共に楽しみ、お酒の肴用に少し残しておきましょう」
「なるほど。では」
初めて食べる辛子醤油の初鰹。お箸で摘まみ、口の中へ運ぶと――。
春の鰹は脂が少なくさっぱりとした味わい。ここに辛子醤油が絡まると、魚の風味をいい感じに引き立ててくれる。噛み締める度に、ツンと鼻に抜ける辛子の爽快感。もうお酒を飲みたくなるが、ここで白米を投入すると――。
白米のまろやかな甘みが、辛子の風合いをリセットしてくれる。
「東の国のマスタード醤油と初ガツオは、とっても合いますね! まさに大人な味わい。これは貴族が好む嗜好品になりそうな一品です!」
セルジュの意見に三姉妹が賛同する。
「この鼻にくるツンを楽しめるのが、大人の証に思えます!」
「このツンとした瞬間にライスを食べるのが、極意に思えます!」
「ライスでリセットされた後、再びカツオを食べ、またもライス……無限に食べられそうです!」
スティ、エリー、メディはもう箸が止まらない。
「三人とも、お酒のお供の分も残すのよ」
「そうでした!」
そこで漬物と共に白米を食べることになるが「口の中でキュッキュッと音がします!」と胡瓜の浅漬けに三姉妹は驚いている。
こうして食事を終え、後は辛口の純米酒と辛子醤油の初鰹をいただくが――。
「辛口×辛子は正義だと思います!」
つい前世のノリで私が呟いてしまったが、セルジュも三姉妹も、言わんとすることはわかってくれたようで「分かります!」と同意してくれる。
「辛口のお酒が、東の国のマスタードの刺激と絶妙なバランスですね」
セルジュはそう言いながら、くいっとお猪口を開ける。
「もう一本、頼みますか?」
私が尋ねると、セルジュは「頼みましょう!」と頷く。
そこからは五人で徳利を……何本空けただろう?
追加で酒の肴になる塩辛や奈良漬けを頼み、いい感じで飲んでしまった。
満足して外に出ると、通りは真っ暗かと思いきや、そんなことはない。
手に提灯を持ち行き交う人も多く、通りには飲食店も多い。
軒先の提灯の明かりもあるし、今の季節は窓を開けているお店も多かった。
二階の窓からは笑い声と共に、明かりも漏れていたのだ。
「なんだかそぞろ歩きをしたくなるわ」
独り言のように呟いたのに、セルジュは「ではぐるりと一周してから戻りましょうか」と提案してくれる。
「気候もちょうどいいですし、明かりも通り沿いを歩けば、軒先のランプ(提灯)もあります。三姉妹(護衛)もいますし、少し散歩をしてもいいでしょう」
「ありがとうございます、セルジュ!」
優しいセルジュにエスコートされて歩き出すと、チラチラとこちらを見る人がいる。セルジュは長身なので目を引く。その上で髪は黒いがその瞳は金色。
(老若男女問わず、セルジュに見惚れているわ!)
私はそう思ったのだけど、セルジュは……。
「東の国の人たちは、大陸の人々のようにじっと見ることはありません。でも……先程からチラチラとアマレットのことを見ている男性が多いです……」
「!? 私ではなく、セルジュのことを見ているのだと思います」
「そんなことはありません! アマレットは自分の美しさをもっと自覚してください!」
セルジュの可愛い抗議を聞きながら、通りを眺めると、何だか少し雰囲気が変わっている。
軒先の提灯の数が増え、これまでのシンプルな白地のものから、赤や黄色でサイズも大きい。通りがぐんと明るくなり、すれ違うのも身なりのいい旦那衆。
「なんだかエキゾチックな音色が聞こえますね」
スティに言われ、私はそれが「三味線や太鼓の音である」と教える。
「先程の通りの食事の香りとは違い、香の匂いもしますね」
セルジュの言う通りで、二階の窓には吊るされている香炉が見えていた。
「ここは花街と言われるエリアで、芸者と呼ばれる、三味線という楽器の演奏、舞踊と呼ばれる踊り、唄などの芸事を披露してお金を得る人たちのお店があります。飲食店のある通りより、華やかですよね」
私の言葉にセルジュと三姉妹は「なるほど」と頷く。
「お酒を楽しみ、美しい女性の芸事を楽しむ。身分の高い男性や裕福な町人の遊びの一つでもあるのですが……セルジュは興味、ありますか?」
「興味はないと言ったら、嘘になります。東の国の文化をわたしはしっかり知っているわけではないので、見るものすべてが興味深いです。……ただ、その花街の芸者。それは紳士が楽しむものに思えます。そしてお金を払ってまで見る芸であれば、それはとても素晴らしいのでしょう……。ですがわたしは見知らぬ女性が楽器を演奏し、歌ったり踊ったりする姿を見るより、アマレットを愛でたいです」
大変真面目な表情で私への愛をストレートに表現するセルジュ!
これには全身が熱くなり、顔はおそらく真っ赤になっている!
「さすが殿下! なんて一途なのでしょう!」
「やはり殿下には、アマレット様だけ、ですよね♡」
「アマレット様を愛でる殿下を、愛でたいです!」
スティ、エリー、メディがとんでもないことを言い出すから……。
東の国で過ごす夜は甘々に更けていく――。
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