1:こうやって
畳敷きの白書院では、将軍と謁見するにあたり、かしこまる……前世の現代の言葉で表現するなら、正座する必要があった。私はすんなりできたが、セルジュとグラマラス美女三姉妹は……。
「こうやって座るの」
私が正座した姿勢を見せると、「「「「!?」」」」と四人は大いに驚く。
(それはそうよね。椅子に座る文化で床には座らないから……)
それにセルジュは特に脚が長いので、正座が大変!
私自身、転生して椅子文化で育ったのだけど、前世では祖母と同居していたので和室もあった。そこで普通に正座もしていたので、例え体つきと文化が西洋にどっぷりつかっていても、自然と正座ができてしまった。
「よろしければ外国人使節団向けに用意している椅子が御座います。お使いになりますか?」
案内役に問われ「お願いします」と伝えると、背もたれもなく、座面が低い椅子を用意してくれた。
(将軍は胡坐で座る。外国人使が椅子に座った時、視線が将軍より上にならないよう、工夫されているのね!)
「……椅子があるのは助かるけど、背もたれもなく、こんなに低いと……脚が……」
やはり脚が長く、長身なセルジュは苦戦している!
(イケメンが右往左往する姿、それはそれで珍しく、眼福♡)
なんて思っていると、奏者番が登場し「御成り」と告げる。
他の正座している家臣は一斉に平伏の姿勢となり、私もそれに習い、低い椅子に座るセルジュと三姉妹は姿勢を正す。
「ほうほう、これが大陸の最も西から来た者たちか! なんと! 髪色は同じであるが、黄金の瞳をしている! そちらの姫は宝石のような瞳ではないか。側仕えの女子も織物のような髪の色じゃ」
白書院に入って来た将軍オガタはまだ若く、異邦人である私たちに興味津々な様子。黒い瞳を輝かせながら私たちを見た。さらにオガタのその口髭と顎髭、太い眉を見た私は思う。
(ううん!? 何というか前世で有名な某戦略シミュレーションゲームに登場する織田信長に似ている!?)
「通訳はそちらの姫がすると聞いている。早速、頼む。我が名はノブマサ・オガタ。この東の国の将軍だ。遠路はるばるよう来てくださった。貴国の文化や風習に強い興味がある。いろいろ話を聞かせてくれと伝えて欲しい」
「かしこまりました!」
将軍オガタは宣言通りで、異文化への興味関心が深く、手土産として持参した葡萄酒&蒸留酒、ドラジェ、ハードチーズを喜び、製法や作り方を熱心に尋ねた。さらにセルジュに夢中になって質問していたのは、「石造りの城とはどんなものなのか」「都市はどのような作りなのか」と建造物や都市計画の話。
その様子を見るにつけ、東の国が覇権を求め、大陸の国々と戦争を始める可能性は皆無だった。自国の発展に注力しているように思えた。
(もしも将軍オガタが実は信長をモデルにしていたなら、ここで武器のことを熱心に聞くはずよ。やはり似て非なるものなのね。でもきっとゲームの製作陣の中に信長好きがいて、彼が天下統一をした世界として、この東の国を登場させたのかもしれないわ!)
決して“第六天魔王”ではない将軍オガタは、「大陸の西の国にはどんな楽器がある?」「一曲、歌って欲しい」なんてことも言い出す。
将軍との謁見、緊張でピリピリするかと思いきや。
オガタが好奇心旺盛なおかげで実に和やかだが……。
「上様、そろそろ時間です」
奏者番にそう言われた将軍オガタは「もう時間か!」と驚くが、それは私たちも同じ!
(稲作や清酒造りを学ぶための留学生の受け入れの話なんて、一切できていない!)
通訳が必要になると、会話には時間がかかってしまう。
(私の方で時間配分を考えればよかったわ……)
そう思うが、通訳することに集中してしまい、そこまで気が回らなかった。
「アマレット、大丈夫です」
セルジュは自信満々な声でそう言って慰めてくれる。
(何か考えがあるの、セルジュ……?)
そう思ったら。
「申し訳ない。我が質問ばかりしてしまい、客人の話を一切聞けていない。明日、城下町を案内しよう。そこでだんごでも食いながら、そちらの話を聞こうではないか」
将軍オガタが実に画期的な申し出をしてくれる!
「こんなかしこまった場所で話すより、そなたたちも寛げるであろう?」
私はすぐにセルジュに将軍オガタの言葉を伝え「ぜひ、そうしてください」と返事をすることになる。
(なるほど。将軍オガタの会話は大いに盛り上がった。そしてオガタはまだ話足りていないし、私たちが何を話すのか、興味を持っている。だから再度の会談を提案されると、セルジュは予想したのね!)
私は焦ってしまったが、セルジュは冷静に場を読んでいた。
(さすがセルジュだわ! その有能さに益々惚れてしまうわ!)
頬が緩みそうな私に将軍オガタが尋ねる。
「宿はどこに?」
「楢崎屋に泊まります」
「そうか。で、あるならば、その近くに旨いだんご屋がある。明日の八つ時に楢崎屋に人を向かわせよう」
セルジュに伝え、八つ時……十四時頃に将軍オガタと会うことが決定した。
◇
無事に謁見を終え、楢崎屋に戻ると、空はまだ明るいがそろそろ夕餉の時間である。
「せっかくなので、東の国でしか食べられない物を食べたいですね」
楢崎屋は、朝食は簡単なものを出してくれるが、夕食の提供はない。
でもそれは納得。
周囲には沢山飲食店があるし、芸者のいる花街も存在している。
「セルジュ、今は季節的に初鰹の季節です。宿の人に聞いたら、初鰹の刺身を楽しむといいそうです。辛子醤油で楽しむ初鰹の刺身がおススメと聞きました!」
鰹と言えば、タタキのイメージが強かった。刺身で食べる時も辛子醤油より、生姜のイメージが強い。ゆえに辛子醤油で楽しむ初鰹の刺身は私も初めてなので、食べて見たかった。そしてそれは私の表情に出ていたようだ。
「アマレットのその表情を見たら、絶対に辛子醤油で楽しむ初鰹の刺身を食べるしかないでしょう!」
セルジュの言葉にグラマラス美女三姉妹もこくこくと頷く。
こうして夕餉のいい匂いが立ち始めた町へと繰り出すことになった。
















