プロローグ
セルジュと共に、東の国の将軍と謁見することになった。
稲作について学ぶ、ルミナリア王国からの留学生を受け入れてもらうことはできるのか。清酒作りを学びたいが可能か。そう言ったことを話すため、正式に面会を求めたわけだ。
東の国は、大陸の西の国との交易がほぼない。ゆえに驚きもあるが、興味を掻き立てられたようで、即謁見に応じてくれた。
そこでルミナリア王国からは既に外交使節団が出国している……ということにして(本当はセルジュの魔術で移動)、東の国からの返事を受け取って程なくして、大陸の最東の港を出発。船のルートで東の国に入国した。そして翌日。早速、将軍との謁見が実現する。
謁見場所は千代田城だ。
「将軍の名はノブマサ・オガタ。東の国は、十五年ほど前は戦乱の世だったそうです。ですがこのオガタが、破竹の勢いで全国を統一。今の平和な東の国があるのは、彼のおかげと聞いています」
将軍ノブマサ・オガタ――緒方信政。
前世では聞いたことがない名だった。
東の国は限りなく日本に似ているが、イコールではないことを実感する。
(文化についてはほぼ同じだけど、政治の世界はまったく違っていそうだわ……って冷静に考えれば鎖国をしていないのだから、違って当然だったわね!)
セルジュには「東の国のことならお任せください!」みたいなノリで請け負ってしまったが、将軍オガタについては完全に白旗だった。
「アマレット。将軍ノブマサ・オガタのことをあまり知らない――当然だと思います。そもそも東の国の食文化をここまで知っていることが奇跡だったのです。将軍の人となりやそれ以外をアマレットが徹底的に詳しかったら、逆に不安になります」
千代田城へ向かう馬車の中で、明るいグレーのフロックコートを見事に着こなしたセルジュが、「逆に不安になります」と言い出すので、私は首を傾げることになる。
「だってそうですよね? 東の国の情報なんて、ルミナリア王国にいても、ほとんど入ってこない。それなのにアマレットが将軍オガタについて詳しかったら……。個人的にオガタに興味があるのでは!?と思ってしまいます」
「個人的に興味……。それって」
すると隣に座るセレジュが白のローブモンタントのドレスを着る私をいきなりぎゅっと抱きしめる。
「ダメですよ、アマレット! 将軍オガタにアマレットを渡すつもりはありません!」
個人的な興味=私が将軍オガタを好きということをセルジュは言いたかったようだ。
「そんな! あり得ません! 私が大好きなのは後にも先にもセルジュ一人です」
「! 本当ですか、アマレット!」
「私が嘘をつくと思うのですか?」
「思いません! アマレットを百パーセント信じます!」
そこで私とセルジュは見つめ合う。
(美人は三日で飽きるというけれど、私はセルジュを三千年一緒にいても、見飽きることがない気がするわ!)
ようは恥ずかしくなり、視線をその形のいい額へ移す。
セルジュの額の★は私の化粧道具で隠してある。
★で魔族であるとバレることはないと思うし、そもそも東の国で魔族の認知度はほぼないので気にする必要はなかったが、念のためでそうしていた。
(というか、こんな風に見つめ合ったら、普段ならキスをしていると思うわ!)
だがしかし。
これから将軍に会うのだ。
(私のお化粧が崩れるわけにはいかないし、セルジュの唇にルージュがついていていいわけがない!)
セルジュは一瞬残念そうな表情になるが、唇へのキスの代わりで、頬や額に甘いキスを落とす。
そんなことをしていると千代田城の敷地への入口となる大戸門の手前に到着した。前世とは違い、この東の国では馬車が走っているが、城に入る際は下馬が必須だった。
「アマレット、駕籠が用意されています。三姉妹の分もあるので、駕籠に乗ってください。本丸と言われる将軍のいる場所までは、相当歩くそうです。わたしはこの革靴ですが、ヒールのあるパンプスでは足が疲れます」
「そうですね。駕籠に乗るようにします」
こうしてセルジュは徒歩で、私とグラマラス三姉妹の侍女は駕籠に乗り、千代田城の中を進んだ。
「距離としてはそこまでではないですが、駕籠はスピードを出すことは許されていません。しかもチェックポイントのような場所もあり、そこで通行確認も行われたので、思いのほか時間がかかりましたね」
そこは本当にセルジュの言う通り!
セルジュは魔の国ことルミナリア王国の王太子なのだ。
王太子が来たとなれば、大陸の国々であれば丁重に扱われるが、極東ではそうはならない。特別待遇はなく、一臣下のような扱いになるのは……国としてこの場所で知名度がないので仕方なかった。
「いよいよ城の中にはいるのですね、アマレット」
「はい。そしてどうやらこの沓脱石で靴を脱ぐ必要があるようです」
「! なるほど。脱いだ靴は……」
「番士が預かってくれるそうです」
私は前世記憶があるので履物を脱げと言われても違和感はない。
だがセルジュもグラマラス三姉妹も靴を脱ぐのは寛ぐ時。
公の場で履物を脱ぐなんてないので、大いに驚いているが、「これが東の国の礼儀です。靴を脱いだ状態で将軍と謁見が、ここでは常識」と私が説明すると「「「「なるほど」」」」と四人は頷くことになる。
「これは!」
靴を脱ぎ、城内に入ると、セルジュも三姉妹も初めて目にする畳がある。
廊下も板敷ではなく、畳になっており、四人は「「「「すごい!」」」」と驚くことしきり。
「白書院までご案内します」
キリッとした一重に髷を結い、裃を着用した奉行所の役人が、案内役として先導してくれる。
そしてついに白書院に到着した。
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