エピローグ
乾杯で飲んだ下り酒。
「おおお、何とも切れのある味わいではないか」
「すっきりしていますね。辛口の白の葡萄酒みたいだわ!」
魔王とアグネス様が大喜びしているが、農夫たちも「こんな美味しいお酒は初めて口にした!」「これがライスのお酒か。旨いな!」と口々に感想を口にする。しかもお酒好きが多いようで、この乾杯であっという間に飲み干してしまい、「おかわり!」になっている。
滑り出しは上々で、いよいよ料理に箸を伸ばすことになる。
参加している農夫のほとんどが、和食が初めてだった。まず貝のすまし汁を口にして「なんて味わい深いだ!」と感動している。
「見た目はあっさりした感じなのに、複雑な旨味を感じますね。これは……いつもの出汁を使ったのですか?」
セルジュに尋ねられ、私は「はい!」と頷く。
「東の国では蛤という貝を使うのですが、今回、この大陸で手に入るChamelea gallinaという貝を使いました。この貝は蛤に比べると薄味です。蛤の旨味を再現するために、昆布と鰹節の出汁を活用することを思いつきました。その結果、Chamelea gallina×昆布×鰹節で相乗効果が出たと思います!」
これにはセルジュだけではなく、魔王夫妻も、農夫たちも「「「この絶妙な旨味は、至高の組み合わせの賜物!」」」と同意してくれる。
続けて筍の煮物を口にすると……。
「この歯応えは実に心地いい!」
「後味でほんのり感じるえぐみも美味しいわ!」
魔王とアグネス様は筍の煮物も気に入ってくれた。
「これはお酒が飲みたくなる」
「タケノコの煮物をつまみながらの一杯。東の国、さすがだ!」
農夫たちも口々に筍の煮物、さらには下り酒とのペアリングを絶賛してくれる。
(遂にちらし寿司よ! この料理の特徴は、一品の中に、塩味、酸味、甘味、全ての味が詰まっているところ。様々な具材が合わせる料理があっても、三つの味が一皿で実現されている料理はそうないわ!)
「何だ、これは!」と驚愕なるか「これは、何だ!?」と喜びになるか。もうドキドキだった。
隣に座るセルジュがちらし寿司を食べる様子をじっくり観察してしまう。
「これは……驚きです! シイタケやかんぴょうの甘さがあったと思ったら、サーモンと卵に塩味を感じます。相反する味わいなのですが、そこに他の具材とビネガーの効いたライスが交わると……不思議です! 完璧なハーモニー。まるでピタリと揃った極上の演奏を楽しんだような気持ちになります……!」
セルジュがそう声を上げると、魔王も「これもまたこれまで食べたことがない味だ! アマレット、旨いぞ!」「彩も綺麗でお味も最高。私、パン好きでしたが、ライス派に変わりそうだわ!」とアグネス様も喜んでくれる。
「王妃様のいう通り、オレンジ、イエロー、グリーンの色味で、まるで花畑みたいだ! 味もとにかく美味しい! ライスと具がよくあっている!」
「初めて食べたライスがこれなら、作りたくなるというもの。俺はセレノアに行くぞ!」
「俺もだ!」「わしも行くぞ!」「僕も!」
もう農夫たちも次々と移住とライス作りを宣言してくれる。
「そうとなったら祝い酒だ! 下り酒をもっと飲ませてくれ! ライスの酒は最高だ!」
「わしはこの下り酒のような酒も作りたい!」
「東の国人に、稲作、ライス料理、酒造りを学びたい!」
そんな声まで上がる。
「アマレット、これだけ移住希望者がいるのです。間違いなく、セレノアでの稲作は成功します。こうなると東の国への農業留学を本格的に考えてもいいかもしれませんね」
セルジュに言われ、私は強く頷く。
「留学は絶対に実現するのがいいと思います。お酒作りも、そう簡単なことではないので、現地で学ぶのが一番かと」
「村の開墾はすぐには終わりませんからね。留学希望者を募り、数ヶ月単位で滞在してもらうといいかもしれません」
きっちり技術を身につければ、ルミナリア王国で稲作だけではなく、清酒作りも始まるかもしれない!
「父上、馬車道も整備し、王都との往来もしやすくしましょう」
「そうだな、セルジュ。留学の件と合わせ、おまえに一任しよう」
魔王もとても前向き!
ルルシャは、魔王は滅びたと思っているし、これから自身はレイールとの結婚で頭がいっぱいになり、魔の国なんて、アウト・オブ・眼中になるだろう。ルルシャという聖女に討伐されるリスクはなくなり、ルミナリア王国は安泰だった。
(もしここで平和に胡座をかいていると、文明として停滞するけれど、そこはセルジュのいう通り。ライスから始まる食文化の変革でこの国はより良くなるはずよ!)
結果としてこの試食会は大成功だった。帰り際に、セレノアに移住を希望する人に名前を書いてもらったところ、ほぼ全員が名前を記入。さらに東の国への留学は独身農夫の多くが希望していた。
(前世と違い、東の国は鎖国をしているわけではなかった。ただ、遠いのだ。ゆえに大陸の西側の国との交易が少ないが、留学は受け入れてくれるはず)
正直、東の国まで行くと、ルミナリア王国が魔族の国とはわかっていない。カタカナの異邦人の国……ぐらいの認識しかなかった。そう言った点では偏見の目もなく留学できる。
「アマレット、これからしばらく、東の国に足を運ぶ機会が増えそうです。留学のことなどを話し合うため、将軍とも謁見することになるでしょう。王太子妃として、サポートいただけますか?」
「もちろんです! 東の国の文化には多少知識もありますから、セルジュの外交がうまく行くよう、全力で支えます!」
私の言葉にセルジュは輝くような笑顔になる。
「アマレットがいてくれたら、わたしはどんなことでも頑張れます!」
「私もセルジュがいる限り、全力で頑張り、あなたを支えます!」
愛する人がいて、お互いを認め、支え合う。そうすることの喜びを教えてくれたセルジュに、想いが溢れた私は……。
その引き締まった胸に顔を寄せる。
セルジュはそうするのが当たり前とばかりに優しく私を抱きしめてくれた。
お読みいただきありがとうございます!
いろいろ一件落着です〜
東の国について書きたいものがあるので、一週間後の夜公開を目指します!
週末に頑張りますのでお時間くださいませ☆彡
















