18:調理スタート
今日はいよいよセレノアに移住してくれる農夫を募るための、ライス試食会を開催する。
メニューは、ちらし寿司、この世界の蛤とも言えるChamelea gallinaを使ったすまし汁、筍の煮物、デザート代わりでひなあられ。お酒はちらし寿司にもあう下り酒!
前世であれば、電気もガスもあるので、昼食に合わせ、加工品の筍を使えば、二時間程度で用意ができる。でもこの世界では……。
「おはようございます! 朝食が終わって早々となりますが、今日のライス試食会のため、ご協力をよろしくお願いします!」
朝八時、料理人たちとパティシエ、グラマラス美女三姉妹の協力を得て、私はライス試食会の準備を行うことになる。東の国で手に入れた白の割烹着を私と三姉妹は着用し、頭には三角巾で挑む。
セルジュも協力を申し出てくれた。しかし彼は王太子。執務が優先だった。
(時間ができたら顔を出すと言ってくれたけど、気持ちだけでも十分よ!)
ということで早速、調理スタート。
朝食の準備をしたので、既に竈の火はついている。そこでグラマラス美女三姉妹に米を研いでもらい、料理人に筍の煮物作りに着手してもらう。
筍は鮮度が命なので、土から掘り返したら、そのまま調理して美味しくいただくのが一番。セルジュに頑張ってもらえば、それもできなくはない。だがメインはライスなので、東の国で筍の水煮を入手していた。これを使い、煮物作りとなる。
「昆布と鰹節で出汁を作っていただきます。味付けは、醤油、お酒、みりんでお願いします!」
料理人たちは既に東の国の調味料の扱いに慣れており、「ああ、ダシか」とすぐに着手してくれる。
「「「アマレット様、お米を研ぐことができました!」」」
「ありがとう、スティ、エリー、メディ! しばらく水に浸しておくから、その間にあられを作るわ」
今回はひな祭りというわけではないが、ちらし寿司に貝のすまし汁ときたら、ひなあられだろう。ということで東の国の人に作り方を教わっていた。
「用意しておいたこの干し飯を鍋で炒めるの。スティにお願いしていい?」
「お任せください、アマレット様!」
「パチパチと音がして、お米が膨らむから、そうなるまで炒めてね」
「たまわりました!」
スティは早速、鍋を手に竈へ向かう。
(侍女なのだけど、三姉妹は料理人になれるぐらい、料理に精通しているわね)
侍女として私の身の回りをサポートしてくれる上に料理も作れる。しかもゴルゴン三姉妹になれば戦闘力もアップ!
(セルジュは私のためにすごい侍女をつけてくれたと思うわ!)
セルジュに感謝しつつ、残った二人の姉妹にも協力を仰ぐ。
「エリー、あなたは炒ったお米を絡める砂糖を用意してくれるかしら?」
「はーい! アマレット様!」
「メディは炒ったお米を砂糖に絡めて欲しいの。絡めた後はカリッとした仕上がりにしたいから、風通しのいい場所に広げて、乾燥させてくれる?」
「了解です、アマレット様!」
こうして三姉妹はあられ作りに着手。
料理人は筍の煮物を進行し、厨房には和食の香りが漂う。
スティが干し米を炒め終わり、筍の煮物は弱火で煮込みに突入してから、お米を炊くことになる。料理人は既に何度もお米を炊いているのでそこは慣れたもの。早速取り掛かってくれる。
「手の空いている料理人の方はちらし寿司の具材の準備を手伝ってください!」
小エビを茹で、椎茸の甘煮を作り、かんぴょうを戻し、錦糸卵を作る。蓮根は持ち帰ってすぐ、酢れんこんを作っていたので、それを盛りつければOK。スナップエンドウはないので、さやえんどうを茹で、具材として活用することにした。
「サーモンは焼いてからほぐして使います!」
前世ではサーモンのカルパッチョや寿司ネタでサーモンは当たり前のようにあったのだけど。この世界ではいわゆる刺身用の処理が難しい。冷凍処理ができないので、寄生虫の死滅が難しかった。ゆえにちらし寿司に使うサーモンは、焼き鮭をほぐしたものになる。
(食材は揃ってもこの世界でいろいろな料理を再現するには工夫が必要よね)
そんなことを思いつつも、三姉妹と料理人が頑張ってくれたおかげで、準備は着々と整う。
「お米、炊きあがりました! 酢飯にしますか?」
「ええ、みんなで酢飯を作りましょう!」
そこからは扇子を手にする者、かき混ぜる者、酢を加える者と酢飯作りで大わらわ。酢飯作りは料理人たちが中心となり、あられ作りを終えた三姉妹と私でChamelea gallinaを使ったすまし汁作りに着手する。既に昨晩から砂抜きは終わっているので、空いた竈を使い、出汁に貝を投入。煮込んで塩と醤油で味を調えることになる。
「アマレット、手伝いに来ました!」
セルジュは着ていたジャケットを脱ぎ、白シャツに若草色のベストにズボンという姿で白のエプロンをつける。
(なんだか料理男子!という感じで素敵だわ、セルジュ……!)
胸をキュンキュンさせながら、ちらし寿司の盛り付けを手伝ってもらう。
「セルジュは箸の扱いは完璧ですね」
「ええ。でもこんなに長い箸……菜箸には最初驚きましたよ」
そう言いつつも今は完璧な手つきでボイルしたエビを酢飯の上にのせてくれている。
「筍の煮物の盛り付けが出来ました!」
「すまし汁も器に入れることができましたよ!」
料理人が続々と声をあげ、三姉妹も……。
「あられも盛り付け完了です!」
厨房の作業台のテーブルには完成したちらし寿司、筍の煮物、すまし汁、あられが並ぶ。
「全品完成ね! みんな、ありがとう!」
◇
前世のザ・ひなまつりな料理が完成したが、今は新緑の季節。
宮殿の庭園にテーブルを並べ、白いクロスを敷き、そこに稲作に興味を持つ農夫に来てもらった。独身者もいれば、家族連れもいた。兄弟で参加なんて人もいる中、着席した彼らはテーブルに並ぶ料理に目を輝かせる。
「おおお、これは庭園に食の華が開花している!」
「まあ、本当に彩りが素敵ね!」
この日は魔王とアグネス様も登場し、農夫たちは席から立ち、お辞儀を行う。
「お酒を飲める年齢の方には東の国の下り酒を配ります!」
こうしてお酒も行き渡り、いよいよ試食会の開始となる。
魔王がライスを紹介し、セレノアの開墾と稲作について軽く説明。
「……とまあ、いろいろ話したが、ライスとは何ぞや、は食べるのが一番! そうであろう、アマレット?」
「はい、陛下! 今回はこちらのちらし寿司、デザートのあられ、そしてお酒がライスで作ったものです。今回はライスの産地である東の国の料理として用意しましたが、普段、私たちが口にしている料理へ応用することもできます。それはきっと皆さん、すぐにできるでしょう。今日は産地ならではのライス料理を味わい、ライスへの興味を高めていただければ幸いです!」
私がそう答えると、魔王は「うん、うん」という感じで頷き、セルジュを見る。
「セレノアへ出向き、かの地を移住と稲作が可能であることは、王太子であるセルジュが確認済だ。先般、大規模な聖なる力も行使され、かの地は完全に浄化されている。魔獣は聖なる力を嫌うから、寄り付くこともない。安心安全で稲作に取り組み、暮らしていける。ということで功労者であるセルジュに乾杯の音頭をとってもらおう」
魔王はちゃんとセルジュの頑張りを認めてくれている! その事実に私も笑顔になってしまう。
「陛下、ありがとうございます。僭越ながら、乾杯の音頭をとらせていただきます」
そこで立ち上がったセルジュが盃を手に持つ。
ちゃんとジャケットを着たセルジュはやはり痺れるようなカッコよさ!
「セレノアで新しい食文化が花開くことを願い、そしてライス料理の可能性を教えてくれたわたしの最愛であるアマレットに感謝を込め、乾杯」
「「「「「乾杯!」」」」」
試食会がスタートした!
















