3:適所適材
セルジュを王都からセレノアへ移住させ、中央で実権を握りたいと考えたリオニール公爵とシェリーヌ。この親子は農夫を買収し、セルジュがセレノアへ行くべきだと主張させたが……。
マーカス・ターナー侯爵。
現役騎士団の副団長が、セレノア辺境伯に指名される。ターナー侯爵は、魔獣もならず者も黙らせることができる武力の持ち主だった。これなら農夫たちは何も言えないだろう。
そう思い、一度目の説明会から十日後。第二回の説明会が行われることになった。
この二回目の説明会は、一度目の説明会に参加できなかった者に加え、新たに移住を希望する者、もう一度説明を聞きたいもの、前回の宿題の答えを聞きたい農夫が集まった。
前回の宿題――他でもない。王太子であるセルジュがセレノアへ移住するのか。その答えを知りたい農夫が集まることになった。
説明会の会場となっているホールは第一回と同じで満席。ホールに並べられた席は埋まっていた。
一度目の説明会での経験を踏まえ、無駄をなくし、必要なことに的を絞り、話を進めた結果。前回よりスムーズに説明は終わった。そして質疑応答の時間を迎える。
「ではここからはお集りの皆さんからの質問を受け付けますが、その前に。前回、宿題になった件について、王太子殿下よりお話がある」
司会を務めた宰相がそう言うと、セルジュが用意されている演説台へと向かう。
「前回、宿題になっていた件ですが、今回、初参加の方もいる。そこで何が議題だったのか。簡潔に説明しましょう」
セルジュはそこで、あの農夫たちが語ったことを、改めて伝える。
「セレノアは聖なる力が使われたことで、魔獣が寄り付かない地となった。しかし絶対に魔獣が現れないとは言い切れない。強力な魔獣が現れる可能性は捨てきれないはず。さらに言えば、魔獣ではない、ならず者が現れる危険もある。そんな危険からセレノアの移住者を守れる者が必要なのではないか。さらにいえば、セレノア稲作計画の指揮をとるのはわたしです。ゆえにわたしがセレノアに移住すればいいのでは――という意見を前回もらうことなった。今日はその答えについて、話したいと思う」
そこで一呼吸を置き、セルジュは話を再開させる。
「まずセレノアでの稲作は、我が国にとって大きな事業となる。ライスについて東の国の方に話を聞いた。水田というのは、常にそこに水を張るため、雨が少なくても、水問題で悩むことがない。さらに用水路やため池も同時に整備することで、地域一帯の水資源の安定につながる。干ばつ時の水不足に頭を悩ませることがなくなるんだ。王都でもし干ばつが起きても、セレノアからライスの支援も届けることができるようになる」
農夫たちは過去に干ばつで悩んだことが何度もあるのだろう。セルジュの言葉に「それは助かる」と強く頷く。
「しかも稲は病害虫に強い。水田だから雑草も生えにくく、害虫も繁殖しづらくなる。つまり干ばつの影響を受けにくく、病害虫の被害も少ないとなれば、安定した収穫を見込めるわけだ。そしてライスはまだこの大陸では珍しい。大量に生産できたら、近隣の国々に取引を持ち掛けることもできる。人間界とはこれまで断絶状態だったが、新たな国交が生まれるかもしれないんだ。しかもライスにより、新たな食文化も生まれる。ライスの腹持ちの良さは働く者たちを励ましてくれると思う」
農夫にとって天候の影響、病害虫は常に頭を悩ます問題。そこから少しでも解放されるのは、願ったり叶ったりである。そしてすでにライスの味を知っているし、新たな食文化についてはみんなよく理解していた。様々な可能性をライスがもたらす。それはセルジュが言う通りなので、皆、力強く頷く。
「稲作が、ライスが、我が国を変えるかもしれない。それゆえにわたしもセレノア稲作計画に力を入れている。ゆえにセレノアの地で働く皆のことは、きちんと守りたいと思う」
そこでセルジュが皆を見る。
「わたしは強い魔力を持つが、魔獣との戦闘経験が豊富というわけではない。さらに人間との戦闘は父上が、現魔王陛下により幕を下ろすことになった。わたしは戦場に出た経験を持つわけではない。ならず者相手にどこまで戦えるかは未知数とも言える」
これには農夫たちは「そう言われてしまうと……」という表情になる。
「適所適材という言葉がある。わたしがセレノアに駐在するより、彼に任せるのが適任かと思う」
そこでセルジュがホールの出入り口の扉の方へ視線を向ける。同時に、扉が開き、そこに姿を現したのは――。
銀髪のサラサラの長髪に白金色の瞳、シャープな顎のラインの整った顔立ち、筋肉はあるが長身であり、バランスのとれたこの体躯の青年こそ、騎士団の副団長だ!
「皆、彼が誰であるか。知らぬ者はいないだろう。凱旋パレードでこの姿を見ているはずだ。そう、マーカス・ターナー侯爵、そして我が国が誇る最強騎士団ドラゴンアークの副団長、彼こそが初代セレノア辺境伯に任命される」
これには一部の農夫を除き、「おおっ!」という興奮の声と共に立ち上がる者が続出。
「ターナー副団長!」
「副団長が辺境伯に!」
「セレノア辺境伯万歳!」
騎士団の副団長として、マーカスの人気は絶大だった。彼がセレノアに行くと言うだけで、移住希望者がさらに増えそうだ。
「まさか副団長が……」
リオニール公爵の息のかかる農夫はたちもざわめく。
(どうやらセルジュの策は成功ね!)
そう安堵した時。
「いや、異議ありだ」
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