こんなに注目を浴びると気分も悪くなるものだ。
鈴葉の彼氏のフリをするという事を自分に対するメリットだけを見て、あっさり受け入れてゴールデンウィークが明けた。
とりあえず俺はバカだ、大バカ者だ。
なんであんな簡単に受け入れてしまったのだろうか。
ゴールデンウィーク中は鈴葉に色んな場所に連れられて、俺の体はボロボロになった。
伸びきった髪は鈴葉の思うようにカスタマイズされ、目元まで垂れかかっていた髪は全て上にあげられてワックスでガチガチに固められた。
俺の目元がクッキリと見えてしまい何かと恥ずかしい。
ファッションだって今までは俺が適当に選んでいたのにも関わらず、イケイケの服屋に連れていかれて緑のYシャツで後ろに大きなテディベアが描かれたものを着させられて、ズボンもベージュのジーパンを買わされ、その他にも色々買わされた挙句、一緒に出掛ける時はそれを着るように言われてしまった。
ここまでプライベートを束縛されるとは思わなかった。
正直、鈴葉の部活が忙しいせいで一緒に出掛ける事が少なくなったから俺の感覚がおかしくなっているのかもしれないが、家の事と鈴葉とのお出掛けを両立するのは難しくなってきた。
そして今日は長期休暇明けの登校日。
鈴葉が言っていたが殿岡に彼氏ハラスメント、通称『カレハラ』をされたら容赦なく俺の名前を出すと言っていた。
それに合わせるように行動しろとのご命令だ。
鈴葉を起こし、朝食を用意した後いつもと同じように鈴葉よりも少し早めに家を出る。
一応、瞬希には事前に説明しないと面倒な事になるかもしれないし。
俺が教室に入るや否や、ざわざわしていたクラスが静まり返った。
今まで向けられるはずの無かった大勢の視線を感じながらも俺は席に座った。
前までは居心地が良かったはず、それなのに今は多くの視線のせいで気持ちが悪い。
『ねえ、あの人誰?』『えっ、あそこの席って……』などあたかも俺を噂するような小さな話し声が聞こえてくる。
カバンを机に置いた後、流石に限界を感じて俺は4組に逃げる事にした。
4組に逃げ込んだは良い物の、こちらでも状況は変わらなかった。
周囲の視線は変わらず、ひそひそ話に関してはむしろ増えている。
「ああもう」と少しイラつきながら、俺は瞬希を探すと奥の方でまた一人椅子に座っていた。
「よう光永、良いゴールデンウィークだったか?」
俺が話しかけると瞬希は少し憂鬱そうに振り返った。
「まあ普通だ。それで、どうした?」
「少し話がある、耳を貸せ」
瞬希が頭をひょいっと俺の方に寄せた。
それを確認して、俺は瞬希の耳に手で隠して音が漏れないようにして囁いた。
「俺、鈴葉の彼氏のフリをすることになった」
「……」
瞬希はリアクションもせずに「ああそうか、頑張れよ」とだけ言った。
驚きもしないなんて珍しいなと思いつつ、俺は「ありがとう、広めるのはやめてくれよ」言い教室を出た。
再度教室に戻るや否や、殿岡と話していたであろう鈴葉が抱き着いて来た。
クラス全員がこちらに注目する。
それもそうか、あれだけ告白されていると噂されている女子がいきなりイメチェンした男子に抱き着いているのだもの。
「えへへ、恭吾くんおはようー!」
「えっと……お、おはよう……」
彼氏と思われる男性にベタ惚れな鈴葉を見て、クラスの奴らは俺が見える限りとんでもない顔をしている。
目を見開いている奴、何かコソコソ話し始める奴、泡を吹きかけてる奴もいた。
変な気持ちになりながらも俺は鈴葉を突き放す。
「朝っぱらから抱き着くな」
「えーだって、あれから全然会えてなかったから嬉しくてさ……」
「そうだけど……」
とりあえず適当に合わせておく。
しかしコイツ、演技が相当上手い。
家での素を出しているだけなのかもしれないが、涙目を自分で作り声もいつものキリっとした声ではなく少したるんとした甘い声になっている。
「だから言ったじゃん美沙、私彼氏作ったの!」
「……えぇ?」
殿岡は呆気に取られているのか口を開けてポカンとしている。
「頼むどいてくれ、それにもう時間だ。鈴葉は席に座れ」
鈴葉は陽気に「はーい」と言い自分の席に戻った。
それを見た他のクラスメイトも徐々に座っていき、担任が来てSHRが始まった。
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授業が終わり放課後、俺は鈴葉に抱き着かれていた。
確かに彼氏のフリをするとは言ったが、こんな事するなんて聞いていない。
家に帰ったらシバいてやりたが、今は彼氏のフリに集中しなければ秘密がバレる。
「鈴葉、今日は部活無いんだろ?」
「無いよー? もしかして一緒に帰ってくれるの?」
「ああ、そのつもりだ。嫌か?」
「全然嫌じゃないよ! 帰ろ帰ろ!」
教室内でバカップルを演じて、俺たちは廊下に出た。
廊下に出ても尚、鈴葉は俺にべったりとくっついてくる。
鈴葉に告ったであろう人物が俺に視線を送る。
痛い痛い、別に俺は彼氏じゃないしあんたらの魅力が無かっただけだろ。
そんなに視線を送るな。
俺はそれっぽい人を睨みつけて、階段を降りた。
校舎を出て、自転車を押しながら鈴葉と歩く。
こうやって兄妹仲睦まじく歩くのは久々の事で新鮮味を感じられる。
「へへっ、お兄ちゃん演技上手かったよ」
「そうか、それは良かった。てか俺は、イメチェンしたせいで色んな人に見られて凄いキモかった」
「それは……みんな、お兄ちゃんの魅力に気づき始めてるんだよ……」
鈴葉は小声でそう言うと両手に力を込めたのか手のひらが震えていた。
「そっか、まあ別に良いよ。例えお前みたいに告白されても俺は断るけどな」
「えっ、それってどんな人でも?」
鈴葉は嬉しそうに軽くぴょんぴょん跳ねながら聞いて来た。
「え? まあそうだな。でも例外としてお前に良い雰囲気の時告られたらOKしちゃうかも」
鈴葉は立ち止り、何か考え込んでいるのか空を見上げた。
やがて考えが終わったのか俺に飛びついて来た。
自転車を押していたため、体制を崩してしまい自転車を倒しそうになった。
「それって、ほんとにほんと?」
「さあ? 誰にも分からんな」
「ふざけんなー!」
軽い力で鈴葉は俺を殴る。
その動作が可愛らしく見ていてなんとも愛らしい。
ほんと、他の人に取られなくて良かった。
なぜかこの時の俺はそんな風に思ってしまった。
お久しぶりです。
投稿が空いてしまいすみません、少しリアルが忙しくて……
次回更新は不明ですが今週には投稿します。
少しでも面白いと思っていただけましたらブクマをして待っていて頂けると幸いです。




