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冷え子

まずい。アリスとの会話に気を取られて気配に気づかなかった。


現実の世界だが昨日まではただの貧乏人で隠し事も特になかった訳で。


だから鍵だって基本掛けない。それが信頼の証。


でも六億もの大金があったのだから慎重になるべきだった。


もう遅いが。少なくても次回からは気をつけよう。



「武蔵君! 新しい仲間の…… 」


笑顔の永利の表情が一瞬で凍り付く。


「いや違うんだ。これは拾ってきたケースに…… 」


「ごめんなさい。そう言う趣味があったの? 」


そう言うと出て行く。まだ挨拶をしてないんだけどな。


うん? そうか。アリスの存在に気づいたんだ。


「どうしよう? このままだとまずいぞ」


頭を抱えるがアリスはきっと大丈夫だと慰めてくれた。


ありのままを言えばいいとアドバイスされる。


これでアドバイスは三回目かな? 何だかいい人っぽいよな。


的を得ているし。当然と言えば当然だが少々意外。


どうやら僕はアリスを誤解していたらしい。さすがは相棒だ。


急いで永利の元へ。



「悪い。驚かせたね。彼女はアリスって言う小動物系の女の子。


穴からやって来た苦労人なんだ。だから優しく見守ってあげて欲しい」


あれ…… ありのままでいいと。それなのにこの微妙な空気は何?


僕には仲間がいない? 恋人もいないのか?


「大丈夫。ちょっと驚いたけど問題ない。武蔵君の趣味も理解しないとね」


慌ててうんうんと繰り返す永利には焦りが見られる。


一体何を勘違いしてるんだろう? ただの小動物だろう?


「趣味? いやあれは本当に僕をサポートしてくれる…… 」


「いいの。喋り出したんだもんね。案内してもらうんだもんね」


どうやらおかしな趣味を持ったと勘違いしたらしい。


きっとお人形さんごっこしてると思われたんだろうな。


そんな訳ないのにいつの間にか僕への見方が変わる。


かわいい後輩で弟のように見てくれていたのに。


これだとそこらにいる可哀想な独身男だよ。



「それでこちら冷え子さん。口癖が独特なんだ。仲良くしてあげてね」


何だかよそよそしいがお姉さんらしさは継続の永利。冷え子に挨拶と。


「僕は武蔵って言うんだ。それで今のが僕の相棒のアリス。


ちょっと厳しいけど的確なアドバイスをくれるから助かってる。


まるでアドバイスに金が掛かってるかと思うほどさ」


あれ…… 何を言ってるんだろう? 最初が肝心のはずだが。



「ひええええ! 」


大げさに怯えて永利に抱き着く。


おいおい。抱き着きたいのは僕の方なんだけどな。


だからって言えない。言ってもどうせ永利は軽くあしらうに違いない。


「いつもこんなだから冷え子さん? 」


「そうだけど…… たぶん武蔵君がちょっと怖そうだったからじゃない」


永利が適当なことを抜かす。



「大丈夫だよ。ほら怖くない」


挨拶ついでに握手っと。


「ひえええ! 」


そう言いながら後ずさりする冷え子。どうやら相当な怖がりらしい。


一人で夜中に風呂に入れないタイプだ。


もちろんそんな彼女のために僕は何でも協力してあげるつもり。


弱点克服だってしてあげたい。



「あの…… 見えますよ」


「ひいい…… お助け! 」


「違うって! そうじゃなくてその…… 」


ダメだ。これ以上は言えない。だから永利に耳打ちをする。


これはこれで大胆だよな。


「えっと…… 見たい? 冷え子のが見たい? 」


「そうそう。って違う! 見えそうだと…… 」


「ひえええ…… 」


うわ…… 完全に引かれたよ。第一印象最悪だな。


取り戻すには時間が掛かりそう。



「おーす! 何を騒いでるんだお前ら? 」


勉が帰って来た。


今日もまたギャンブルで大負けしたんだろうな。


それとも陽気だからプラス? そんなことあるはずないか。


「おい聞いてくれよ! 今日は万馬券を当てたんだぜ。


それを最終レースにすべてぶち込んだらすっからかん。


やってられねえよな武蔵! 」


そんな風に後ろに回ったと思ったら動きを封じられてしまう。


「よし新入りも含めて今日の反省会だ! 」


「いや歓迎会でしょう? 」


「それは明日に回そうぜ。今日は縁起が悪い」


こうしてなぜか男女四名で反省会を始める。



冷え子は永利のお友だちだそう。永利は相当気に入ってるらしい。


いつか二人で住むところを探していたのだとか。


だからようやく今日引っ越して来たと。


「なあお前は明日付き合うよな? 」


さっそくギャンブルの話をする勉。


冗談じゃない。誰が…… いや待てよ。これはうまく行くか?



「それで武蔵君はあのケースに何が入ってるの? 死体とか? 」


永利がふざけるから冷え子が本気にする。


「いや中身は空っぽだよ。ははは…… 再利用しようと思って」


つい余計なことを言ってしまう。


「お前まさか宝くじが当たったんじゃないよな? 」


鋭い勉。そう言えば今朝当たったら奢ると約束した。元の世界でだが。


「いやそれが当たりはしたよ。リピートくじ」


「おいそれなら俺だって。いや十枚も買えば誰だって当たるだろう? 」


「悪い。くじ運がなくて…… 」


「よし。だったら歓迎会と残念会を兼ねて明日…… 悪い。明日は勝つわ」


二人で競馬に行くことが決定事項のよう。


ははは…… 苦笑いしても無駄だろうな。勉はその手のことを忘れない。


「よし行くぞ! 」



こうして一日目はどうにか乗り切った。


勝負は二日目以降と決めている。


それは僕が臆病だからじゃない。興奮状態ではただ損をするだけ。


僕は二億以上稼ぐんだ。そのためには戦略を練る必要がある。


それにしても勉も永利も思った以上にそのまま。


まるで騙されてるんじゃないかと思うほどの再現性。


これがゲームの世界かと思うと感動するほど。


何か違いがあるとすれば冷え子だろうな。


この子はきっとこの世界にしかいない。元の世界では仮にいても無関係。


それとも本当に引っ越してくる予定だったとか?


謎の冷え子の存在が不気味に思えて来る。


ただ悪い子にはどうしても見えない。無害で失礼で臆病なだけ。


                続く

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