ペイオフ解禁
シェアハウスのきれいなお姉さんで世話焼きの永利。
頭はそこまでよくないが冷静で機転が利く。
そんな彼女にロックオンされ危うく正体を見破られるところだった。
僕だってできるなら皆にパッと奢ってやりたい。
でもそうすれば集中砲火を浴び皆からむしり取られるだろう。
今回はどうにかなったが営利が目をつけたのは間違いない。
だから急いでこの六億円をどうにかしないとならない。
「お疲れ。ちょっといい」
終えるとすぐにアリスが姿を見せる。
「おい! 勝手に出て来るなよ! 気づかれたらどうする? 」
「心配しないで。私は見えても動きは見えないし声も聞こえない。
話せるのもあなただけ。私はあなた専属の案内人」
どうやら周りからはただの人形として映るらしい。なら問題ないか。
「何か用? もっと前なら手伝ってもらったのに」
「手伝い系は料金が発生しますので。詳しくはナビゲーター関連を見てね。
それであの永利って子には気をつけなさい。どうも狙ってるみたい」
さっそくアリスの忠告が入る。でもどこにそんな根拠があるんだ。
大体言われなくても分かってるって。他の者に悪口を言われたくない。
永利は僕の憧れの人だから思い出は美しいままでいたい。
「大丈夫。理解のある優しいお姉さんタイプだから。それにいつか結婚も」
「はいはい結婚するつもりはないから。男はどうして簡単に引っ掛かるの?
悪いことは言わない。諦めてお金を増やすことを考えなさい」
どうやらアリスは永利の本性が分かるそう。しかし僕にはそう見えない。
いつも優しくしてくれるお姉さんだ。いつかきっと結婚できるさ。
「それでどこに行く? 」
まだアリスは動けと言うが戻って来たらもう外出などしたくないよ。
「今日は疲れたからこれくらいで」
いろいろあり過ぎて頭が追いつかない。ゆっくり落ち着いて整理してから。
まずは六つに分けたケースを置いておく場所を決める。
一つ目は家でいいとして。二つ目は駅前のコインロッカーかな。
そこまでは疲れたけど今日中にやるとして残りの場所を考えないと。
明日にはすべて完了しそこから金儲けを加速させればいい。
総額が二億を切るとゲームオーバー。
この世界で命を落とした時点で利益が確定する。
少なくても三日前には次のステージに進む必要がある。
それが超ハードモードを選んだ者の宿命であり試練である。
乗り越えた先に素晴らしい億万長者の未来が待っているのだ。
ルール上はそうらしいが例外もあるよう。
どうやら僕の行動に異常が見られた場合に発動するらしい。
そう言われてもよく分からないが。
それからハードモードは決して金銭や金儲けだけに留まらないそう。
「慌てずに休む。間違ってない戦略。ただ気をつけて。
目に見えない料金が発生してる場合があるから常に確認するように」
適切なアドバイスをくれるとアリスの姿が見えなくなった。
よし今日はシェアハウスの奴らから金を守るとしよう。
では再開。六億を分けたからコインロッカー以外の隠し場所を探すと。
「なあアリスどこがいいかな? 」
こちらから呼び出すのは初めて。反応してくれるか?
「もううるさいな! 今寝ようと思ったところなのに。
それで何の用? もう眠いんですけど。非常識な男ね。
それだから貧乏だしバカだし女から相手にされないのよ! 」
とんでもなく不機嫌なアリス。そこまで言わなくても……
女の子にモテないは言い過ぎだよ。永利がいるし。
毎日行き帰りが一緒になる女の子だって。
「本気であの女があなたを好きなると思う?
無理に決まってるでしょう? 目を覚ましなさい! 」
助言を受ける。反論は許さないそう。
「まあいいや。呼び出したのは隠し場所を一緒に考えてもらおうと」
どう言われようと役割を果たしてくれればそれでいい。
「はいはい。銀行にでも預ければ? 水銀以外なら定期でなければいい訳だし」
「おお! それは確かに。思いつかなかったよアリス」
「バカ! 冗談に決まってるでしょう? ペイオフ解禁も知らないの?
一千万以上預けると行員が勝手にお小遣いにしていい制度があるの。
どこの銀行だってやってるんだから。もちろんこっちの世界でのお話ね。
そちらの世界でもあったと思うけど。遅れてない? 」
遅れてるはずがない。ここはいわばミラー世界なのだから。
ちょっと違う程度と理解してるぞ。そうでなければ僕はここにはいない。
恐らく都内の高級タワーマンションの最上階辺りにいるはず。
ははは…… 楽しく行こう。争いは好まない。
おっと…… つい金持ちの未来にタイムスリップしたかのよう。
うまく行けば来月にはそれくらいにはなってるだろうさ。
有言実行タイプの億万長者候補者さ。今なら金もあるしな。
待てよ…… これがゲームの世界ならこのまま持ち逃げも可能?
いや危険過ぎる。ここはもう少し様子を見るか。
「それでどうすればいいのアリス? 」
「庭に掘っておいた穴に来て。私の生まれ育った世界に通じてるの。
故郷をあなたに見せたい。さあ行きましょう」
アリスが強引に引っ張って行こうとする。
「冗談はそれくらいで。何を考えてるアリス? 頼むよ」
「では福祉施設に全額寄付するのはいかがでしょう?
アリス基金財団はあなたのような方を待っていました」
どうやらアリスは本気らしい。故郷も福祉施設も実在するのか?
アリスはこの世界の人間。だから契約とは別に金を得ようとしている?
それは違法ではないのか? 信頼が大きく揺らぐ事態だ。
もしかしたら僕はとんでもない奴と手を組んだことに。
「基金は実際億万長者になって元の世界で何不自由なく暮らせてから」
「でしたらランダムに私が隠しましょうか? 」
意外な提案。それは持ち逃げか? 信用しろと言うのか?
僕はそこまでバカでも間抜けでもないぞ。
「安心して。任務は着実に遂行するから」
頼もしいアリス。これなら任せておけるかな。
「分かったよ。それなら任せるとしよう。でもきちんと…… 」
その時だった。バンと勢いよくドアが開く。
「武蔵君! 新しい仲間の…… 」
笑顔の永利の表情が一瞬で凍り付く。
まずい。会話を聞かれたか?
残念ながらもう口封じするしかない。
続く




