歓迎会
二日目。
勉に強引に誘われ競馬場に。
誘ってくれるのはありがたいが人が多いから嫌なんだよな。
だから競輪もボートもオートも券は買うけど直接見には行かない派。
たまにどうしても行く用事がある時は我慢してる。
それにしても勉の奴昨日に続いて今日も不調なのだろうな。
馬を見ずに別のところを観察しているよ。パドックはどうした?
「おい! そこ! 行け! 」
競馬場ではカップルがイチャイチャしていることも少なくない。
茂みに隠れて好き放題するのが奴らだ。
それを今までは羨ましく見て来た。
だが今は違う。僕はもう立派な億万長者候補。
当然女にだって不自由しないさ。
「いつまでやってるんだよ勉! そろそろ帰ろうぜ。
モテないからって冷やかすのはよせ。永利がいるだろう? 」
つい上からで言ってしまう。だが勉は冗談だと思って気にしてない。
いけないいけない。怪しい行動を取れば疑われるし狙われる。
ここは現実の世界に似せたゲームの世界。
この勉だって僕の知る勉とはちょっと違うのかもしれないしな。
「だって悔しいだろう? 」
有り金全部叩いて一文無しだからそれは同情するよ。
もちろん僕もないさ。でもそれは見た目だけ。
「仕方ないだろう。たまにはそう言うこともあるよ」
「そうだな。悪い! 俺トイレ行って来るわ」
勉が消えるとアリスが姿を見せる。
「ええ最終レースは見事に外しましたが第三から第六が大当たりです。
結果一億ほどの儲けとなりました」
「そうか。ありがとう」
アリスには密かに買うように命じていた。
それが功を奏し一億の利益がでた。
ただ所持金の一万は付き合いで消える。
悔しいが金が増えたのは正直嬉しい。
これって意外にも簡単に稼げるのでは?
おっと危ない。そう簡単なはずがない。
今回はたまたま運がよかっただけ。
ツイてるからってこの一億をつぎ込むような馬鹿な真似できない。
冷静に冷静に。常識で考えれば分かることだ。
慎重さと冷静さが求められる。
「悪い待ったか? さあ帰るぞ」
どうやら勉は僕を何一つ疑ってない様子。
いやこれが逆に危険な兆候であると分かっている。
「よし飲んで帰るか? 」
帰りの電車賃ぐらいしか持ってないくせに戯言を抜かす。
「ダメだよ。今日は冷え子さんの歓迎会だから早く帰れって永利が…… 」
「分かってるよそんなこと。お前いつからそんなに真面目になった?
今日だって有り金全部叩いたろう? それなのに平然としてやがる。
お前の変わりようは異常だよ。まさかいいことあった? 」
さっそく探りを入れる勉。仲間だと思っても気が抜けない。
ここは落ち込んでる勉のためにもラッキーな話をしてやるか。
「永利が僕の部屋で着替えてた。ツイてるだろう? 」
「はあ? 嫌なことを言えとは一言も」
せっかくの二人っきりの秘密を伝えたのに勉は興味がないよう。
負け過ぎておかしくなかったか?
「嬉しいだろう? 嫉妬してる? 」
「お前口軽いな。あれは永利の手だ。
恐らく永利はお前から匂いを嗅ぎ取った。だが直接は聞けない。
だから下着姿でお前を誘ったのさ。俺だってたまにあるぜ。
そんな時はいつも大勝した時だ。まさかお前本当に…… 」
まずい。嗅覚の鋭い永利とそれを理解してる勉によって疑われ出している。
これは早いところ次の手を打たないといくら儲けても奴らにタカられる。
「すると武蔵は何か大きな儲けがあったってことだよな? 」
勉は頭は悪いのにその手のことには回転が速い。
嗅覚も鋭いが追い詰めるのもうまい。
「いやだからリピートくじが…… 」
どうにかごまかすがそんな匂いには釣られないと勉は不気味に笑う。
「まあいい。お前が稼ごうがどうしようが。
俺はギャンブルで大勝ちすればいいんだ」
勉はこう言うところがあるので助かる。
まだ奴は完全には積んでない。余裕があるから言えること。
これがもっと苦しくなったらろくでなしに変身するんだろうな。
「それにお前が儲けたと言ってもたかが知れてる。一万か二万だろう? 」
「勉…… 」
「いいって。それで永利にプレゼントしてやれば彼女も喜ぶさ。
ついでに告白すればもしかしたらうまく行くかもな」
いい加減なことを言う勉。
しかし分かってるんだ。永利がその程度では靡かないと。
冷え子歓迎会。
「改めまして稗田未依です。どうぞよろしく」
勉はやる気なしだが他の者は熱烈に歓迎。
「あれ…… 冷え子って言うのは? 」
「この子はいつもヒエーが口癖で何にでも驚く困った子だから冷え子。
今日からこのシェアハウスの住人。皆もよくしてあげてね」
「よし何でもいいや。乾杯! 」
勝手に始める。まだ最年長が帰って来てないのに。
と言うか待ってると日が変わるので仕方ないか。
乾杯は僕の役目なんだけど勉がフライングする。
「乾杯! 」
「それで勉はどれくらい? 」
「五百円」
表情が冴えないがこれが今月分だからと笑えない。
どうせ嘘に決まってるんだよな。どこから借りて……
うげ…… 僕に借りに来ないか? それは嫌だな。
「それで武蔵君はいくら稼いだの? 」
歓迎会と言ってもささやかなもの。
から揚げにポテト。ピザやポテチに酒のつまみぐらいなもの。
後で大家さんがチキンを焼いて来てくれるそうだがそれが限界。
もしかしたら天ぷらぐらい付くかな? デザートは果物だろうな。
「一億…… 」
ポテチをツマミながらご飯を食べる。うん全然合わないや。
「ほらビールも」
「いやノンアルコールで」
どうもビールが苦手でサワーかワインかノンアルコールを選んでいる。
「一億? 武蔵君本当なの? 」
永利が大慌てで冷え子がヒエーと。
いいコンビだな。だがそれくらい大したことないさ。
もう僕はこんなところで貧乏生活してないのさ。ただの億万長者だ。
だがそんなことを言えば狙われるのは目に見えている。
「冷え子付き合ってあげれば? 」
どうやら永利は本気にしてない。
「ひえええ…… ご勘弁ください」
緊張してるんだろうがその言い方だと一億でも無理と言われてるよう。
僕はそこまで魅力ないのか? ふざけるな!
だがそんな感情はリッチな僕には相応しくない。
「ははは! こいつだって負けたのさ。一億じゃないぞ。一万負けた。
まったく何を格好つけてるんだか。見栄を張るなよ武蔵! 」
勉は寝転ぶとマンガを読む。おいおい歓迎会中だぞ。
「そう一万円をお馬さんのお食事代にと」
「それは偉いね武蔵君。尊敬しちゃうな」
永利はやはりまだ感づいてない。この様子だと勉もだろう。
本当に鈍感な奴だな。僕はもう億万長者なのさ。
続く




