Chapter1-8 アイテムボックス
俺だけバイオ ~剣と魔法の異世界で、俺だけサバイバルホラー~
作者:阿波根サキ
《ITEM BOX》
「……やっぱりか」
蓋を持ち上げると、玲央の視界に格子状の収納画面が展開された。
手元の《アタッシュケース》とは別の保管領域。
その一角に、白いスプレー缶が一本収まっている。
《回復スプレー(回復アイテム)》
「……回復スプレー!」
思わず声が弾んだ。
玲央はすぐに取り出し、缶をまじまじと見つめる。
口元が、勝手に緩んでいった。
「よし……! これはデカい!」
「えっ、何? そんなにすごいの?」
りあが身を乗り出した。
「ああ。ゲームでは、瀕死の状態からでも回復できるアイテムだ」
「瀕死って……死にそうな怪我でも?」
「そうだ。何度これに助けられたか分からない」
体力が底をつき、次の一撃で終わる。
そんな状況を、たった一本で切り抜けてきた。
グリーンリーフの効果は、この世界でも確かめたばかりだ。
なら、こいつも。
玲央は缶を握る手に力を込めた。
先ほどまで、持っているのはハンドガンとナイフだけだった。傷を負えば、それで終わるかもしれなかった。
だが今は、りあがいる。回復アイテムもある。
生き残るための手段が、少しずつ増えている。
「……これが一本あるだけで、全然違う」
「そっか。よかったね、玲央」
りあの声に顔を上げる。
彼女も、ほっとしたように頬を緩めていた。
「ああ。大事に使おう」
玲央はスプレーを、机の上へそっと置いた。
先ほど摘んだブルーリーフの隣だ。
持ち歩く物と、ここへ預けておく物。部屋を調べ終えてから整理しよう。
玲央は再び木箱へ目を戻した。
スプレーのなくなった収納画面には、広い空きが残っている。
持ち歩く必要のない物資を預けるには、ちょうどよさそうだった。
「ねえ、何してんの?」
りあが隣から覗き込んだ。
「アイテムボックスを確認してる」
「……ただの空箱じゃん」
「俺には別のものが見えてるんだ」
「またそれ!?」
りあは呆れた顔をした。
「さっきも空中で指動かしてたし。玲央にしか見えないとか、ズルくない?」
「俺だって、まだ全部分かってるわけじゃない」
「ふーん……」
玲央がいったん蓋を閉じると、りあが試しに取っ手へ手を伸ばした。
「……あれ?」
「どうした?」
「開かないんだけど」
りあは取っ手を引っ張っていたが、蓋はびくともしない。
「さっき玲央、普通に開けてたよね?」
「ああ」
玲央が手を伸ばすと、蓋はあっさり開いた。
「ええっ!? 何それ!」
「俺専用なのかもしれないな」
「マジでゲームじゃん……」
玲央は木箱の中をもう一度確認した。
格子状の収納画面は、どこまでも続いているわけではない。
だが、手元のアタッシュケースより、はるかに多くの物資を保管できそうだった。
もし別のセーフルームにも同じ箱があり、収納内容を共有できるなら便利だ。
ただし、現時点では確かめようがない。
玲央は木箱を閉めた。
そして、机の上のタイプライターへ向かった。
古びた黒い本体。
丸いキー。
紙を挟むためのローラー。
見れば見るほど、あのゲームのものに似ている。
玲央は椅子に座り、キーを一つ押した。
カチャン。
乾いた音が響く。
もう一度押す。
カチャン。
それだけだった。
「……ん?」
「何してんの?」
「ちょっと確認してる」
玲央は本体を調べた。
すると、横に小さなインクリボンが一つ置かれていることに気づいた。
指先で触れると、表示が浮かんだ。
《INK RIBBON × 1》
「……インクリボンか」
玲央はそれを手に取り、タイプライターへセットした。
すると、タイプライターの上に、黒を基調とした半透明の画面が浮かび上がった。画面越しに、向こう側の壁が透けて見える。ユーザーインターフェース――いわゆるUIだ。ゲームのメニュー画面と同じように、情報を確認したり、項目を選んで操作したりするためのものだろう。
《BIO CRISIS》
《COMBAT RECORD》
「……戦闘記録?」
玲央は表示を読み進めた。
《討伐記録》
《GOBLIN × 4》
《獲得可能SP:400》
「四匹で400か……」
これまで倒したゴブリンの数と一致している。
どうやら、魔物を倒すことで戦闘記録が蓄積されるらしい。
そして、インクリボンを使用することで、その記録を確定できるようだ。
「玲央? 何か見えてんの?」
「ああ。新しい機能だ」
「また?」
「魔物を倒した分だけ、ポイントがもらえるらしい」
「ポイント?」
「スキルを覚えるためのポイントだな」
「へえ! レベルアップみたいな感じ?」
「似てるけど、少し違う」
玲央には、レベルという概念がない。
ほかのクラスメイトが持つRPG系の能力とは、根本的に仕組みが違うのだろう。
画面に、新たな表示が現れた。
《戦闘記録を確定しますか?》
《INK RIBBON × 1 を消費します》
玲央は少し考え、確定を選択した。
ガシャン、と重々しい機械音が響く。
カタカタカタッ……!
誰も触れていないはずのタイプライターのキーが独りでに動き始め、インクの匂いがふわりと漂った。
「ひゃっ!?」
りあが飛び上がる。
「ちょっ、何!? 勝手に動いてるんだけど!」
玲央も驚いたが、すぐに画面へ視線を戻した。
《COMBAT RECORD COMPLETE》
《400 SP 獲得》
《SKILL 解放》
「……なるほど」
玲央は新たに現れた項目を開いた。
画面に、スキルの一覧が表示される。
《MAP Ⅰ》
《必要SP:100》
《探索した地形を記録・表示する》
《ITEM ANALYSIS Ⅰ》
《必要SP:200》
《アイテムの基本情報を解析する》
《PARRY Ⅰ》
《必要SP:400》
《タイミングを合わせることで、敵の攻撃をナイフで弾く》
《CASE EXPANSION Ⅰ》
《必要SP:600》
《アタッシュケースの収納容量を拡張する》
《DANGER ALERT Ⅰ》
《必要SP:800》
《接近する危険を警告する》
《ENEMY SCAN Ⅰ》
《必要SP:1,000》
《敵の基本情報の一部を解析する》
その下には、さらに項目が続いていた。
《????》
《未解放》
玲央はゆっくりと一覧を眺めた。
スキルは段階的に強化できる仕組みらしい。
名前の末尾に付いた『Ⅰ』が、それを示しているのだろう。
ただし、次の段階がいつ解放されるのか、どこまで成長するのかは分からない。
「……面白いな」
「何が?」
「スキルを選んで覚えられるらしい」
「えっ、いいじゃん! 何覚えるの?」
「今、考えてる」
玲央は《MAP Ⅰ》に目を向けた。
地図があれば、未知の森を探索するうえで役立つ。
続いて《ITEM ANALYSIS Ⅰ》。
これも魅力的だった。
先ほど手に入れたブルーリーフのように、効果の分からないアイテムは今後も出てくるだろう。性質を解析できれば、無駄な消費や危険を避けられるかもしれない。
「マップが100、アイテム鑑定が200……合わせて300か」
残りは100 SP。悪くない組み合わせだ。
玲央は、ほかの項目にも目を通した。
《PARRY Ⅰ》
《必要SP:400》
「……パリィか」
その言葉には、強く惹かれるものがあった。
玲央は『バイオクライシス4』で、パリィを徹底的に使い込んできた。
敵の攻撃に合わせてナイフを構え、寸前で弾く。RTAでも重要な技術の一つだ。
しかし、それはゲームの話。
現実の戦闘で、刃物を使ってあらゆる攻撃を弾くなど不可能に近い。
このスキルが説明どおりの効果を持つなら、相当な能力だろう。
だが、必要SPは400。手持ちのポイントをすべて消費する。
「……今は優先順位が低いな」
玲央にはハンドガンがある。ナイフは重要な装備だが、主力として使うつもりはない。
それよりも、探索や情報収集に役立つ能力を優先した方がいい。
玲央は再び《MAP Ⅰ》と《ITEM ANALYSIS Ⅰ》に視線を戻した。
この二つを取得するか。
それとも、もう少し様子を見るか。
迷った末に、玲央は画面を閉じた。
「……今は温存だな」
「えっ、覚えないの?」
「まだ何が必要になるか分からないからな」
「もったいなくない?」
「必要になってから使えばいい」
「ふーん。玲央って、そういうとこ慎重だよね」
「ゲームでも、限られたリソースの使い道は重要だからな」
「またゲームの話!」
りあは笑った。
玲央も肩をすくめる。
だが、心の中では別のことを考えていた。
スキルを取得すれば、今までできなかったことが可能になる。それは魅力的だ。
しかし、だからこそ慎重に選ぶ必要がある。
今後、どんな敵と戦うことになるのか分からない。必要な能力が見つかったとき、ポイントが足りなければ意味がないのだ。
玲央は椅子から立ち上がった。
そのとき、机の隅に一枚の紙が置かれていることに気づいた。
古びた紙。端には、乾いた血のような黒い染みが付いている。
「……手紙か?」
玲央は紙を手に取った。
そこには、乱れ、所々かすれた文字で文章が書き残されていた。
――――――――――
【逃げ延びた冒険者の手記】
この手紙を見つけた者へ。
俺が生きて帰れなかったときのために、ここに書き残しておく。もし無事に森を抜けられたなら、俺の代わりに冒険者ギルドへ知らせてほしい。
この森には、普通のゴブリンだけではない。
ゴブリンキングがいる。
奴に率いられたゴブリンの群れに、俺たちは襲われた。
最初は数匹だった。
だが、森の奥から次々と現れ、気づいたときには逃げ道を塞がれていた。
奴らは群れで行動し、まるで一つの生き物のように統率されていた。
セリスが言っていた。
稀に、ゴブリンを率いるゴブリンキングが生まれることがあると。その王の下では、奴らはもはや烏合の衆ではない。一つの軍隊になるのだと。
最初は笑い飛ばした。ゴブリンなんて、知恵も力もない雑魚だ。そんな奴らが群れたところで、たかが知れていると思っていた。だが、今なら分かる。
あれは間違いなく、ゴブリンキングに率いられた群れだ。
ガルドは俺たちを逃がすため、最後まで戦った。
だが、奴らに捕まった。
奴らはすぐには殺さなかった。
逃げようともがくガルドを取り囲み、笑いながら何度も痛めつけた。
あいつらは楽しんでいた。人間が苦しむ姿を見て、心の底から喜んでいやがった。
ガルドの悲鳴が、今も耳から離れない。
あいつは殺された。
ミーナとセリスも捕まった。
二人は生きたまま、森の奥へ連れていかれた。
助けに戻ろうとした。本当だ。
だが、奴らの笑い声を聞いた途端、足が動かなくなった。
俺は怖かった。
殺されることより、あいつらに捕まることが怖かった。
俺は必死で逃げ、岩壁にあった扉へ飛び込んだ。
こんな場所に扉があるなんて知らなかった。何度も通った森なのに、今まで見た覚えがない。
扉の向こうで、奴らが何度も叩いていた。
だが、なぜか中には入ってこなかった。
ここは安全らしい。
部屋の中には、奇妙なものがいくつかある。
隅に置かれた大きな木箱は、どうやっても開かなかった。鍵穴すら見当たらない。
棚には緑と青の草が植えられていた。
逃げる途中で負った傷に緑の草を当ててみると、驚いたことに傷が塞がった。
どうやら、この草には傷を治す力があるらしい。
青い草は何に使うのだろうか?
試してみたいが、何が起こるか分からない。今は触らずにおこう。
だが、水も食料もない。
いつまでも隠れてはいられない。
街にはエレナが待っている。
帰ったら結婚しようと約束した。
次の仕事が終わったら、二人で暮らす家を探すつもりだった。
エレナ。
俺はお前に会いたい。もう一度、お前の顔が見たい。
ガルドを見殺しにして、ミーナとセリスを見捨てて、それでも生きて帰りたい。
こんな卑怯者が幸せになっていいはずがない。
そんなことは分かっている。
それでも、死にたくない。
奴らがいなくなったら、この部屋を出る。
まだ身体が動くうちに森を抜ける。
もし、このメモを見つけた者がいたら頼む。
冒険者ギルドに伝えてくれ。
この森に、ゴブリンキングが現れたと。
そして、まだ間に合うのなら、ミーナとセリスを助けてほしい。
ガルド、ミーナ、セリス。
どうか許してくれ。
――――――――――
文章は震えた筆跡のまま、そこで終わっていた。
玲央は紙を裏返したが、それ以上の記述はない。
この冒険者がその後どうなったのかは分からなかった。
ただ、メモから読み取れることは三つ。
ゴブリンが何者かに統率されていること。
女性が生きたまま連れ去られていること。
そして、この部屋にはゴブリンが入ってこられなかったこと。
「……りあ、これを見てくれ」
玲央はメモを差し出した。
りあは内容を読み進め、ある一文で手を止めた。
「女の人が……生きたまま連れていかれたの?」
「ああ」
「じゃあ……美咲も……」
「可能性はある。でも、まだ何も分からない」
りあは唇を噛んだ。
「……生きてるかな」
「分からない。でも、無事でいる可能性だってある」
「……うん」
りあは小さく頷いた。
玲央は改めて室内を見回した。
岩壁にある部屋。魔物が入ってこられない。
タイプライター。アイテムボックス。回復アイテム。
ここまで揃えば、偶然とは思えない。
そのとき、玲央の視界に文字が浮かび上がった。
《SAFE ROOM》
「……やっぱりな」
「何?」
「ここはセーフルームらしい」
「セーフルーム?」
「魔物が入ってこられない、安全地帯だ」
「えっ! マジ!?」
「ああ。少なくとも、メモにはそう書いてある」
りあは大きく息を吐いた。
「はぁぁ……よかったぁ……」
そのままベッドへ倒れ込む。
「もう、ホント無理だったんだけど。ずっとゴブリンに追いかけられて、足も痛いし、死ぬかと思ったし……」
「よく頑張ったな」
「……え?」
りあが顔を上げた。
「魔力が切れるまで戦ったんだろ。十分頑張ったと思うぞ」
「……何それ」
りあは照れくさそうに笑ったが、ふと眉をひそめ、玲央の顔を見た。
「玲央ってさ、女の子みんなにそういうこと言ってるの?」
「そういうこと?」
「……今みたいなこと」
嬉しかった。けれど、誰にでも言っているのなら、少し面白くない。
りあは緩みそうになる口元を抑え、探るように玲央の顔を見た。
「思ったことを言っただけだぞ」
「……ふーん」
女の子を喜ばせるのに慣れているのか、それとも無自覚なのか。
不思議そうに首を傾げる玲央を見ても、りあには判断がつかなかった。
玲央は首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。
それにしても、セーフルームか。
ここが本当に安全なら、ひとまず休息は取れる。
だが、メモに書かれていたとおり、ここには水も食料もない。
特に水だ。人間は水なしで長く生きられない。
このまま閉じこもっていても、いずれ出ていく必要がある。
「りあ」
「んー?」
「少し周囲を調べてくる。水場がないか確認したい」
「……え?」
りあが起き上がった。
「玲央、一人で行くの?」
「ああ。お前はここで休んでろ」
「……」
りあは黙り込んだ。
「どうした?」
「……行っちゃうの?」
「すぐ戻るよ」
「……でも」
りあは膝の上で両手を握りしめた。
さっきまで明るく話していた少女が、急に幼く見えた。
「……一人は、怖い」
小さな声だった。
玲央は扉に向けていた視線を戻した。
りあは俯いている。
「また、誰も戻ってこなかったらって思うと……」
玲央は少し考えた。
天城たちに置き去りにされたばかりだ。
安全な部屋だと分かっても、一人になることへの恐怖は簡単には消えないだろう。
「分かった。もう少しここにいよう」
「……いいの?」
「ああ。急ぐ必要はないしな」
「……ありがと」
りあは安心したように笑った。
「そういえば、りあ。魔法はどうだ?」
「ん?」
「さっき、魔力がなくなったって言ってただろ」
「あー、それね!」
りあは立ち上がり、片手を前に突き出した。
「ちょっと待ってね」
指先に、小さな炎が灯った。
蝋燭ほどの火だ。だが、確かに魔法が使えている。
「おっ!」
りあは嬉しそうに笑った。
「うん! ちょっと休んだら、結構戻ったっぽい!」
「それはよかった」
「次はウチも戦えるからね!」
「頼りにしてる」
「任せといて!」
りあは胸を張った。
その姿を見て、玲央も少し安心した。
少なくとも、次に魔物と遭遇したときは、一人で戦う必要はない。
玲央はベッドの反対側に置かれた椅子へ腰を下ろし、《アタッシュケース》を開いた。
下段には予備マガジンが二本。右上にはグリーンリーフが一枚。
机の上には、ブルーリーフと回復スプレーが残っている。
いつものゲームなら、この二つは持っていかない。
グリーンリーフは持つ。あとで別のリーフを手に入れれば調合できるし、調合しても占有するマスは増えない。
限られた容量で回復手段を確保するなら、その方が都合がいい。
ブルーリーフと回復スプレーはボックスへ預け、必要になったときに取り出す。
何度も繰り返してきた、慣れた選び方だった。
玲央はスプレーを手に取った。
だが、木箱へ向けかけた手を止める。
――必要になったとき?
次のアイテムボックスが、いつ見つかるのかも分からない。
そもそも、この箱に預けた物を、別の箱から取り出せるのか。
ゲームなら当然だったことを、まだ一つも確かめていない。
この先で大怪我をしたら。
手元のグリーンリーフ一枚では、足りなかったら。
玲央は、握ったスプレーへ目を落とした。
ゲームなら、持ち物の選択を間違えて死んでも、やり直せる。
だが、ここで同じ失敗をすれば、自分か、りあが死ぬかもしれない。
ケースには、まだ空きがある。
今後拾う物のために空けておくより、今ある回復手段を持っていくべきじゃないか。
玲央はスプレーを机へ戻し、隣のブルーリーフも見た。
こちらも、使わずに済めばそれでいい。
必要になってから、取りに戻れる保証はないのだ。
「……両方、持って――」
ドンドンドンッ!
突然、扉が激しく叩かれた。
「ひゃっ!?」
りあが肩を跳ねさせる。
玲央は反射的に立ち上がり、収納画面を閉じた。
手は机の上のアイテムではなく、腰のUSPへ伸びていた。
扉の向こうから、男の声が聞こえる。
「誰かいるのか!?」
玲央は動きを止めた。
聞き覚えのある声だった。
「頼む! 開けてくれ!」
続いて、女の声。
「お願い! 助けて!」
りあの顔から、さっと血の気が引いた。
一度は見捨てられた相手の声を聞いたことによる、生理的な嫌悪と恐怖がその目に浮かぶ。
「……嘘」
「知ってる声か?」
玲央が尋ねると、りあは扉を見つめたまま震える声で答えた。
「……天城?」
扉の向こうで、再び声が響いた。
「誰か! 開けてくれ!」
玲央はUSPのグリップを握り直した。
そして、ゆっくりと扉へ歩み寄った。
カクヨムでも掲載してます。よろしくお願いします。




