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【完結】すべて予定通りなので、苦しむのはあなた達ですけど?  作者: 逆立ちハムスター


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4

完璧だ。声の震え、間の取り方、悲劇のヒロインとしての美しさ。すべてが私の理想通りに表現できた。この演技力、アカデミー賞ものよ。

鉄格子の外で、息を呑む気配がした。

そっと視線を向けると、白髪混じりの無骨な老兵士ティトゥスが、私の姿を食い入るように見つめ、その皺深い顔をくしゃくしゃに歪めていた。彼の目からは、ボロボロと大粒の涙が溢れ落ちている。


(よし! ティトゥスさんの好感度、一気にMAXに到達! これで明日からの食事は一番いいパンと温かいスープにグレードアップ確定ね!)


ティトゥスは声をかけることもできず、ただ口元を覆って嗚咽を噛み殺し、逃げるようにその場を立ち去っていった。彼はこの後、看守室で「あんな純真な令嬢が罪人であるはずがない……!」と一人で涙を流し、私に協力する決意を固めるはずだ。


独白シーンを無事に終えた私は、「ふう」と一息ついてベッドに腰掛けた。

泥だらけのドレスは少し冷えるが、これも後少しの辛抱だ。

なぜなら、今夜のメインイベントはこれからなのだから。


深夜。

地下牢が完全な静寂に包まれた頃。

コツ……コツ……と、硬質なブーツの音が回廊に響き始めた。

看守の巡回ではない。もっと洗練された、無駄のない足音。

私はベッドから立ち上がり、鉄格子から数歩下がった暗がりに身を潜めた。


足音が、私の牢の前で止まる。

松明の光を背に受けて立っていたのは、漆黒の外套を目深に被った長身の男だった。

彼がフードをゆっくりと下ろすと、そこに現れたのは、夜の闇の中でも輝きを失わない黄金の髪と、苦悩に満ちたアメジストの瞳。

皇太子、アウレリウス。

帝国で最も尊い身分である彼が、お忍びで、大逆罪の容疑をかけられた令嬢の牢獄に単独で足を運んできたのだ。


(あああああっ! 殿下! 深夜の秘密のお忍び面会! このシチュエーション、何度読んでも最高に胸キュンするやつ!!)

私は脳内でペンライトを両手に持ち、激しく振り回していたが、顔面は徹底して「裏切られた絶望と冷たさ」を維持した。


「……何の御用ですか、殿下」

私は氷のように冷たい声で言った。

「このような薄汚れた地下牢は、次期皇帝であらせられるあなた様がお越しになるような場所ではありません」


私の拒絶の言葉を聞いて、アウレリウスの端正な顔が苦痛に歪んだ。

(くぅ〜! その顔! 『愛する女から冷たい目を向けられる俺』にダメージ受けてるその表情、最高すぎる!)


「ルキア……」

アウレリウスは絞り出すような声で私の名を呼んだ。その声には、日中の大広間で見せた絶対零度の冷酷さは微塵もなく、ただ不器用な青年の痛切な感情だけが乗っていた。

「すまない。昼間は、あのように振る舞うしか……公の場では、ああするしか道がなかったのだ」


彼は鉄格子を力強く握りしめた。革手袋越しの指が白くなるほどに。

「私は信じている。君たちウァレリウス家が、父上に刃を向けるはずがないと。この事件の裏には必ず黒幕がいる」


(知ってる! 第一皇子派の宰相一派の陰謀でしょ? 殿下が裏でめちゃくちゃ証拠集めに奔走してくれてるの、読者わたしは全部知ってるから!)

私は内心で激しく同意しながらも、首を横に振った。


「お戯れを。私と家族を捕縛するよう命じたのは、殿下ご自身ではありませんか。今更そのような言葉を並べて、私を嘲笑いに来られたのですか?」

「違う! 嘲笑うなど……私は、君を……ッ!」

アウレリウスは何かを言いかけ、しかし言葉を飲み込んだ。

今の彼の立場では、公式に大逆罪の容疑者となっている私に「愛している」と伝えることは許されない。ここで私に甘い言葉をかければ、逆に私を政治的危険に晒すことになると、彼は深く理解しているのだ。


(ああ、このもどかしいすれ違い! お互いに惹かれ合っているのに、立場がそれを許さない! 殿下、そこで言葉を飲み込むの、正解! 恋愛小説のセオリーとして完璧な焦らしよ!)


アウレリウスは深く息を吐き出し、感情を押し殺した。

「……今は、何も言えない。だが、私を信じてくれ。必ず真実を暴き、君を……君の家族をここから出してみせる。だから、それまでどうか絶望しないでくれ」

彼は鉄格子の隙間から、私の泥だらけになったドレスを見つめ、痛ましそうに顔を歪めた。

「こんな場所に君を閉じ込めることになって、本当にすまない……」


いや、擬似体験みたく、ふかふかの藁ベッドで超快適なんですけどね。

とは口が裂けても言えない。私はうつむき、何も答えないという最大の拒絶を示した。


しばらくの重苦しい沈黙の後、アウレリウスは「……夜風が冷える。これを」と短く言い、鉄格子の下にある小さな差し入れ口から、何かを押し込んだ。

そして、踵を返し、振り返ることなく足早に去っていった。

彼の背中が見えなくなるまで、私は彫像のように動かなかった。


完全に足音が消え、地下牢に再び静寂が戻ったことを確認した瞬間。

私は「ふううううっ!」と息を吐き出し、その場にへたり込んだ。


(心臓もたない! 至近距離でのアウレリウス殿下、破壊力高すぎ! あの切なげな瞳、ちょっと潤んでたよね!? ブルーレイ画質どころか、フルダイブVRの特等席でこれを味わえるなんて、前世でどれだけ徳を積めば許されるの!?)


私は興奮冷めやらぬまま、差し入れ口に置かれた包みに手を伸ばした。

包みを開けると、中には清潔で柔らかな純白のドレス(サイズは私にピッタリ)と、上等なウールのショール。そして、まだほんのりと温かい、厨房のメイド長が特別に焼いてくれたであろう甘いハチミツのパンが入っていた。もちろんミントラベリー(一粒で口内を浄化する魔法のミント)も入っている。


(ほらキタ! 殿下、私服の差し入れは看守に怪しまれるからって、わざわざ自分のマントの下に隠して持ってきてくれたんだよね。健気すぎる……!)


私は純白のドレスを胸に抱きしめ、ハチミツパンの甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだ。

悲劇のヒロインとしての試練は、まだまだ始まったばかりだ。

明日には、第一皇子の差し金である悪徳尋問官による「厳しい取り調べ」が待っている。


「ふふっ……忙しくなるわね」


冷たい地下牢の暗闇の中で、私は誰にも見えない満面の笑みを浮かべ、ハチミツパンを一口かじった。

絶望のどん底という名の、最高のアミューズメントパーク。

私のシナリオ通りの輝かしい未来は、まだ序章のページをめくったばかりなのだ。

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