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【完結】すべて予定通りなので、苦しむのはあなた達ですけど?  作者: 逆立ちハムスター


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15

夜明けの光が、大聖堂の巨大なステンドグラスを透かして、色鮮やかな光の粒子を床の大理石に落としていた。

天井が高く、荘厳なパイプオルガンの音が残響するその空間は、本来ならば神への祈りを捧げる聖域だ。

しかし今、そこは血生臭い権力闘争の最終決戦場と化していた。


「——皇帝陛下の御名において宣告する! ウァレリウス公爵、およびその嫡男ルキウス! 両名は国家叛逆ならびに皇帝陛下暗殺未遂の罪により、本日正午をもって断頭台にて処刑とする!」


中央の壇上から高らかに声を張り上げているのは、第一皇子ティベリウスだ。

黄金の刺繍が施された豪奢な衣装を身に纏い、サファイアの瞳を傲慢に輝かせている。その周囲には、彼に買収された貴族たちや、私兵である『赤狼騎士団』が威風堂堂と取り囲んでいた。


壇下の囚人席には、固く鎖で繋がれた私の父・ウァレリウス公爵と、兄のルキウスが立たされている。

二人は長引く拘留のために体力を削られ、衣服は汚れ、やつれていたが、その瞳だけは折れることなくまっすぐ前を見据えていた。


(お父様! お兄様! ううっ、ゲームのグラフィック通りだけど、生で見るとやっぱり辛い……! でも大丈夫、あと数秒で神演出が始まるからね!)


私は、大聖堂の巨大な重厚な木製扉の影で、呼吸を整えていた。

隣に立つアウレリウス殿下が、そっと私の手に自分の手を重ねてくる。


「準備はいいか、ルキア」

「ええ、殿下。……最高のショーにいたしましょう」


私が微笑むと、殿下は頼もしそうに口元を綻ばせ、重厚な扉に向かって手を突き出した。


「——待て!!」


雷鳴のようなアウレリウス殿下の声が、大聖堂全体に激しく轟いた。

ドォン!と音を立てて観音開きの扉が左右に押し開かれる。


静まり返る聖堂内。すべての貴族、兵士、そしてティベリウスの視線が一斉に後方へと注がれた。


朝光を背に受けて歩み出たのは、白銀の正装に身を包んだアウレリウス殿下。

そして、その傍らで深い夜青色のドレスの裾を優雅になびかせる、私——ルキア・ウァレリウスである。


「な、何だと……!?」

ティベリウスが目を見張り、顔を歪ませた。

「アウレリウス……! それに、なぜ大逆罪の容疑者であるルキアがそこにいる!? 衛兵! 奴らを捕らえろ! 国家叛逆の共犯者としてその場で斬り捨てよ!」


ティベリウスの叫びに応じて、赤狼騎士団の兵たちが一斉に剣を抜こうとした。

しかし、その動きは即座に制止された。


「——動くな」


氷のような冷徹な声と共に、アウレリウス殿下の背後から躍り出たのは、氷の女騎士オクタウィア様率いる『黒獅子近衛騎士団』の精鋭たちだった。

一瞬にして赤狼騎士団の前に立ちはだかり、鋭い殺気で制圧する。


「おのれ、アウレリウス! 皇兄である私に刃を向けるつもりか!」

「兄上、刃を向けたのはそちらだ」

アウレリウス殿下は毅然とした足取りで歩みを進め、中央の審判席の前で足を止めた。

「ウァレリウス公爵らの処刑は無効だ。なぜなら、兄上が提示した罪状のすべてが、捏造されたものだからだ!」


ざわ……!と聖堂内に大きなどよめきが広がった。


「戯言を!」ティベリウスが激昂して壇を叩く。「ウァレリウス家から押収された隠し台帳には、毒薬の密輸取引が明確に記されていた! 皇帝陛下の御璽をもって下された裁可を覆せると思うのか!」


(はい来たー! 第一皇子のテンプレ敗北フラグ! 『隠し台帳』と『御璽』のカードを切ってきたわね!)


私はすっと一歩前に出た。

弱々しく、今にも倒れてしまいそうな儚い足取りで。しかし、その瞳には凛とした光を宿らせて。


「……ティベリウス殿下」

私の静かな、だが透き通った声が大聖堂に響き渡った。

「その『隠し台帳』に記された取引相手——『黒山羊商会』なる存在は、この世のどこにも実在いたしません」


「何だと……!?」

「黒山羊商会は、あなたが密輸の罪を我が家に擦り付けるために用意した、架空のダミー会社ですわ。我が家がそのような存在と取引を行うことなど、物理的に不可能なのです」


「くっ……出鱈目を言うな! 一介の令嬢が何を知る! 証拠もない癖に——」


「証拠なら、ここにございます」


私は胸元から、アウレリウス殿下が昨夜手に入れてくださった羊皮紙の一束を高く掲げた。


「昨夜、旧市街の廃教会地下にて、本物の毒薬密輸組織が摘発されました。彼らが隠し持っていたのは……ティベリウス殿下、あなた様の直筆の署名と、皇子印が押された『密輸指示書』ですわ」


「な……っ!?!?!?」


ティベリウスの顔から、一瞬で血の気が引いた。

聖堂内の貴族たちが、一斉にティベリウスへと疑念の目を向ける。


(くぅ〜〜〜っ! 気持ちいい! この『悪役の顔が絶望で歪む瞬間』! 乙女ゲームの断罪イベントの一番美味しいところよ!)


「ば、バカな……! 奴らは証拠を破棄したはず……!」

口を滑らせたティベリウスに、アウレリウス殿下が追い打ちをかける。


「今ご自身で認められましたね、兄上。『奴ら』と直接の関わりがあったことを」

「あ……いや、違う! これは罠だ! アウレリウスが私を陥れるために偽造したのだ!」


往生際悪く叫ぶティベリウスに対し、私は悲しげに首を横に振った。


「ティベリウス殿下。嘘に嘘を重ねるのは、もうおやめください。……あなたが偽造した我が家の台帳、筆跡の癖まで完璧に真似ておられましたが、ひとつだけ致命的なミスがございました」

「ミ、ミス……!?」

「我がウァレリウス家では、三代前の当主の教えにより、重要書類の数字の『7』の横棒には、必ず小さな払いを付ける決まりになっております。ですが、あなたが提出した偽台帳の『7』には、それがございませんでした。……我が家の伝統すら調べ上げずにでっち上げた偽物だという、動かぬ証拠ですわ」


(※ちなみにこの設定、原作ゲームの伏線でも何でもなく、私が昨夜離宮で偽台帳の写しを見た時に偶然気づいた『ウァレリウス家の変なこだわり』である。まさかこんなところで役に立つとは!)


「ぐ……っ……ぬぅぅぅっ……!」

ティベリウスは言い返す言葉を失い、喉を鳴らして後ずさった。


その時、聖堂の奥の扉が静かに開き、車椅子に乗った人物が運ばれてきた。

白髪を蓄え、痩せこけてはいるが、圧倒的な威厳を纏った老人——現皇帝陛下その人であった。


「父上……!? なぜ……お身体が……」

ティベリウスがガタガタと震え出す。


皇帝陛下は重々しい声で宣告した。

「……ティベリウスよ。お前が毒を盛り、余を伏せらせていたことも、すべてアウレリウスからの報告で判明しておる。……お前の皇位継承権を剥奪し、即刻、幽閉とする」


「そんな……! 父上! お許しください! 私は帝国のために——!」

兵たちに取り押さえられ、見苦しく叫びながら連行されていくティベリウス。

第一皇子派閥の貴族たちは蒼白になり、その場にへたり込んだ。


パチ……パチ……パチ……。

誰かが拍手を始めたのを皮切りに、大聖堂内は嵐のような拍手と歓声に包まれた。


ウァレリウス公爵と兄ルキウスの鎖が外される。

「ルキア……! お前が……お前が私たちを救ってくれたのか……!」

駆け寄ってきたお父様とお兄様に、私は飛びついた。


「お父様! お兄様! 無事で……本当に無事でよかった……っ!」

(ううっ、良かった! 二人とも無傷! これでバッドエンド回避! ハッピーエンド確定よー!)


涙を流して喜ぶ私を、周囲の者たちは「なんと健気で勇敢な親孝行の娘か」と感涙の目で見つめていた。


そして——。

騒ぎが落ち着いた後、アウレリウス殿下が私の前に歩み寄り、静かに片膝をついた。


大聖堂の中央、色鮮やかなステンドグラスの光が二人を照らし出す。


「ルキア・ウァレリウス。お前の知恵と勇気が、この帝国と、私を救ってくれた」

殿下は私の手を優しく取り、アメジストの瞳でまっすぐに私を見つめた。


「お前をただ守るだけの存在だと思っていた私を許してほしい。……私は、お前と共に歩みたい。お前のその聡明さと優しさを、生涯かけて守り続けたいのだ」

殿下は胸元から、眩いばかりのダイヤモンドが嵌め込まれた指輪を取り出した。


「私の妃になってくれないか、ルキア」


(ひょ、ひょええええぇぇぇぇっ!?!?!?)

内心の全米が泣いた。どころではない、全米が爆発した。


(プロポーズ!? 大聖堂で!? 皇帝陛下と全貴族の前で指輪パカッ!? スチル!! これ絶対メインビジュアルに使われる超絶豪華スチル場面じゃないですかー!!)


私は赤面し、心臓が口から飛び出そうになるのを必死で抑えた。

だが、ここでパニックになって「ヒャッハー!」と叫ぶわけにはいかない。


私は深呼吸をし、溢れ出る嬉しさを隠すように、少しだけ照れくさそうに、しかし最高の微笑みを浮かべた。


「……喜んで、アウレリウス殿下。あなたの傍に、ずっといさせてください」


殿下が破顔し、私を力強く抱きしめた。

割れんばかりの歓声が、大聖堂に満ちていく。



それから、数ヶ月後。


私は皇太子妃となった。アウレリウス殿下の隣で、最高級の紅茶とケーキを楽しんでいた。

帝国の権力闘争は収まり、私の父と兄は要職に復帰。

私は相変わらず、裏では「筋トレ(体幹強化)」に励み、表では「儚くも聡明な聖女のような皇太子妃」として帝国中で絶大な人気を誇っている。


「ルキア、何を笑っているんだ?」

アウレリウス殿下が、優しく私の頬を撫でる。


「いいえ、殿下。ただ……今の暮らしが、とても幸せだなと思って」

私は殿下の肩に頭を預け、ふふっと微笑んだ。


(三食豪華で、イケメンの旦那様がいて、推し活(殿下鑑賞)が毎日できる……。転生した時はどうなることかと思ったけど、この『悲劇のヒロインごっこ』、大成功だったわね!)

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― 新着の感想 ―
私は皇太子妃となったアウレリウス殿下の隣で         ↑ アウレリウスが皇太子妃になってますよ笑
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