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「明日の正午、帝都の中央広場で公開処刑が行われる。それを止めるためには、明日の朝、大聖堂で開かれる『御前会議』の場で、兄上の罪を白日の下に晒し、公的な裁きを下さなければならない」
アウレリウス殿下は、私の肩を掴む手にさらに力を込めた。
「だが、兄上も死に物狂いだ。会議の場には兄上の私兵や、買収された貴族たちが大勢集まるだろう。証拠があるとはいえ、危険な綱渡りになる。……ルキア、お前はここに残れ。この離宮は安全だ。私が必ず、お前の家族を助け出してみせる」
殿下の言葉は、私を危険から遠ざけようとする、純粋な優しさと庇護欲からくるものだった。
普通なら、ここで「はい、殿下。信じてお待ちしております」と涙ながらに見送るのが、ヒロインの正しい姿だろう。
だが、私は知っている。
(ダメよ。ここで私が安全圏に引きこもってたら、あの『大聖堂の断罪イベント』の激アツなCGスチルが見られないじゃない! それに、私が自ら証言台に立ってこそ、第一皇子を完全に論破する爽快な逆転劇が完成するのよ!)
私は、殿下の温かい手をそっと外し、一歩後ろへ下がった。
そして、ピンと背筋を伸ばし、真っ直ぐにアウレリウス殿下の瞳を見つめ返した。
「いいえ、殿下。私も参ります」
「なっ……何を言っている! 危険だと言ったはずだ! 大逆罪の容疑がかかったままのお前が公の場に姿を現せば、兄上の兵にその場で斬り捨てられる可能性すらあるんだぞ!」
殿下が声を荒らげる。その後ろで、オクタウィア様とリウィアも「ルキア様、なりません!」と必死に引き止めようとした。
「危険など、百も承知です」
私は静かに、しかし決して揺るがない声で言い放った。
「お父様とお兄様が、無実の罪で命を奪われようとしているのです。ウァレリウス家の娘として、愛する家族を見捨てて、自分だけが安全な場所で息を潜めているなど……私には耐えられません。それに、」
私はそこで一度言葉を切り、最も美しく見える角度(※鏡の前で何度も練習した)で、悲壮な決意を込めた笑みを浮かべた。
「私が直接、第一皇子殿下の『目』を見て、告発の言葉を突きつけなければ、彼が心から罪を認めることはないでしょう。殿下……どうか、私を戦場へとお連れください」
沈黙が、サロンを包み込んだ。
アウレリウス殿下は、私の真っ直ぐな視線に射抜かれたように立ち尽くしている。彼の瞳に、驚き、戸惑い、そして……隠しきれないほどの深い愛情と敬意が浮かび上がっていくのを、私は確信した。
(よし! 『守られるだけの女じゃない、共に戦う女』アピール、完璧に決まった! 殿下の好感度ゲージがぶっ壊れる音が聞こえるわ!)
「……わかった。そこまで言うのなら、もう止めはしない」
長い沈黙の後、アウレリウス殿下は観念したように息を吐き、そして、どこか誇らしげに微笑んだ。
「だが、絶対に私のそばから離れるな。お前の命は、お前の家族の命と同じくらい……いや、それ以上に、私にとってかけがえのないものなのだから」
「殿下……」
私は感動に声を詰まらせ(る演技をし)て、深く頭を下げた。
「オクタウィア。ルキアを連れていく準備をしろ。リウィア、ルキアにふさわしい、ウァレリウス公爵令嬢としての正装を用意してやってくれ。罪人としてではなく、告発者として、堂々と大聖堂の扉をくぐるための服を」
「ハッ! かしこまりました!」
「承知いたしました、殿下。腕によりをかけて、ルキア様を美しく、そして気高くお支度させていただきます」
リウィアは涙を拭い、メイド長としての凄まじい気迫を漲らせて、私の衣装選びへと走っていった。
数時間後。
私は、鏡の前に立つ己の姿を見て、内心で「おおおぉぉっ!」と歓喜の声を上げていた。
用意されたのは、ウァレリウス家のシンボルカラーである深い夜青色のドレス。余計な装飾は一切省かれているが、生地の光沢と完璧なカッティングが、圧倒的な気品を醸し出している。首元には、一粒の純白の真珠が輝く。
それはまさに、これから戦いに赴く「戦乙女」の装いだった。
「ルキア様……とても、お美しいです」
リウィアが、感極まった声で呟く。
「ありがとうございます、リウィア様。あなたのこの一週間のご恩、決して忘れません」
「もったいないお言葉です。どうか、どうかご無事で……ウァレリウス公爵とルキウス様を、必ずやお救いくださいませ」
離宮の玄関を出ると、漆黒の馬車の前で、正装である白の軍服に身を包んだアウレリウス殿下が待っていた。
彼が私を見るなり、息を呑む音が聞こえた。
「……ルキア。お前は……」
「おかしいでしょうか、殿下?」
「いや……美しすぎて、兄上の前に立たせるのが惜しくなってきたくらいだ」
殿下は苦笑しながら、私に向かって優雅に手を差し伸べた。
「行こう。お前の家族を取り戻し、この帝国の腐敗を焼き尽くすために」
「はい、アウレリウス殿下」
私は、その温かく力強い手を取り、馬車へと乗り込んだ。
向かう先は、帝都の中心にそびえ立つ大聖堂。
いよいよ、第一皇子ティベリウスとの最終決戦が幕を開けようとしている。
(待ってなさい、ティベリウス! 私の推し(家族と殿下)を苦しめた罪、公開論破という名の最高のエンターテインメントで、きっちり精算させてあげるんだから!)
馬車の車輪が石畳を蹴る音が、夜明け前の静かな帝都に、反撃の狼煙のように高らかに響き渡っていた。




