第63話「司令官の裁き」
ゴォォォォォォン……!
アルカンエンジンの動力核で魔法のラクリマが燃焼し、内燃機関の猛烈な轟音が、暗く一直線に伸びる洞窟の隅々まで反響していた。
軍神の古き宮殿の頂上出口がグンダーの風の障壁によって完全に封鎖された今、ヴェルンに残された唯一の解決策は、反対側にある見捨てられた通路へ飛び込むことだけだった。
間違いなく、その道は幾星霜もの間、忘れ去られていたものだ。さらに悪いことに、神々に見放されたその暗闇には、あらゆる種類の悪魔や魔物が潜んでいることを、元騎士は痛いほど理解していた。そこは、宮殿の財宝に手を出そうとする愚かな略奪者を皆殺しにするために設計された、死の落とし穴なのだ。
確かに効果的な防衛策ではある。だが、軍神は予想すらしていなかっただろう。はるか未来において、定命の者たちが「科学技術」という代物を創り出すことなど。
その絶対的なアドバンテージを活かし、年長のドワーフにアルカンエンジンの操縦を短く教え込んだ後、傭兵はフェンリエを自分の後部座席に乗せ、グリムは息子のリリムドールを乗せた。そして四人は、ただ暗闇の最深部へと向かってスロットルを全開に捻り込んだ。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
若者二人の悲鳴が、魔導エンジンの唸り声と、猛烈なスピードによる失神の危機と必死に戦うドワーフのパニックと入り混じる。
魔法の骸骨、疫病をばらまくゾンビ、そして床に描かれた召喚陣から這い出る悪魔たちをヒュンッ!と躱し、さらに無数にある地形の起伏をミリ単位で回避していく。鍾乳石、石筍、奇形に歪んだ壁、そして極端に狭まる回廊が、凄まじい速度で視界の横をブレて流れていく。下層都市のパイプから滴る有毒な油と全く同じ、毒々しい多色に輝く水たまりが床で光を反射していた。
全速力で岩壁に激突さえしなければ、この回廊を抜け出すのは時間の問題だ。少なくとも、ヴェルンはそう賭けていた。
無傷で抜け出せる。戦うことなく、余計な怪我も避けられる。何しろ、目の前にあるものすべてを轢き殺して進めるなら、わざわざ立ち止まって戦う理由などないのだから。
(……僕、死にたくないよぉ……!)
◇ ◇ ◇
「このクソアマ……!よくも僕の腕を……ッ!!」
ラグラムの苛立ちと苦悶に満ちた叫びが、破壊された広場を切り裂いた。
彼は、見事な斬撃によって切断されたばかりの左腕の断面を強く押さえていた。少年は怒りで小刻みに震え、歯をギリギリと食いしばり、緊張した顔には冷や汗が伝っている。普段の気だるげな態度は、今は激痛によって完全に掻き消されていた。
精霊使いの少年は、真っ向勝負において最悪の対戦相手と対峙していた。
オードリーは威風堂々と彼に向かって歩みを進めていた。右手は臨戦態勢に入り、剥き出しの拳の上に致命的な「風の刃」を集中させている。大気を高密度に圧縮し、触れることすらできるほどの濃密な竜巻を形成して。
「これほど若い容姿の者の命を刈り取るのは、痛恨の極みだが……」彼女は口を開いた。その声は穏やかで、氷のように冷たく、そして容赦がなかった。「……悪徒は根絶やしにせねばならん。例外なく、な」
司令官は、標的から数メートルの位置でピタリと足を止めた。
背後では、『黒鋼の刃』の騎士たちの前衛が再編成を行い、自軍の負傷者を救護しながら徐々に後退していた。ただ一握りの致命的な精鋭だけが、一度の号令で即座に介入できる距離を保っている。
「問おう。言い残すことはあるか?」オードリーは尋ねた。
ラグラムは押し黙った。傷口をさらに乱暴に押さえつけると、生身の肉から壊れた蛇口のように鮮血が噴き出した。怒りで濡れた青い瞳が、女騎士を射抜く。顎は敵意に満ちた沈黙の中で固く閉ざされたままだった。
「ならば……」
オードリーは右腕を掲げ、斜めに振り下ろす処刑の構えを取った。手元の暴風がさらに激しさを増し、荒れ狂う竜巻となって夜空の雲へと向かって伸びていく。
その時、少年が突然喘いだ。彼の唇から、高密度の蒸気の筋がシュゥゥゥッ……と漏れ出した。
オードリーの反応は本能的だった。圧倒的な熱波が二人の間の距離を溶かし去ったかと思うと、まさにその一千分の一秒の間に、固く握りしめられた拳が彼女の視界を完全に埋め尽くしたのだ。顔面を粉砕される、その寸前。
ガシャァァァァァンッ!!
金属が粉々に砕け散る轟音が、風の唸りを完全に呑み込んだ。
オードリーは後方へ吹き飛ばされたが、ブーツの底を容赦なく地面に叩き込んだ。ズザザザザッ!鉄の摩擦が石畳の広場を引き裂き、深い溝を刻みながら、彼女は絶大な衝撃の威力を相殺し、辛うじてバランスを保った。
体勢を立て直すと、彼女の目の前に無数の破片が雨のように降り注いだ。砕け散った金属は、彼女自身の右の籠手から出たものだった――あの、竜巻を握っていた手だ。土壇場で迫り来る致死の一撃を防ぐため、彼女は武装したその腕を盾にするしかなく、その過程で魔法の風刃を強制解除せざるを得なかったのだ。
女騎士はゆっくりと手首を返し、掌を観察した。金属はひしゃげたスクラップと化し、手の甲の装甲はひび割れ、内側の革は黒焦げになっている。露出した肌は生々しく焼け爛れ、痛々しいほどの鮮やかな赤色を呈していたが、そこには血の一滴すら流れていなかった。
彼女の氷のように冷たい青い瞳が、再び敵を捉えた。
ラグラムは瓦礫の中に膝をつき、切断された腕を肩の関節へと押し当て、強引に繋ぎ合わせていた。少年の肌は熱を帯びた赤色に染まっている。彼は疲労に喘ぎながら、沸騰するほど熱い蒸気と煙の太い柱を全身から吐き出していた。
(常軌を逸した物理的な腕力……そしてこの放射熱。何らかの技術か、あるいは強化アーティファクトの副作用か……?)
少年の持ち前の青白い肌は、完全に蒸発していた。彼は左手を開いたり閉じたりを繰り返し、感覚を確かめている。接続されたばかりの腕の神経と感覚が、異様な速度で覚醒していく。
鋭く、そして疲弊しきった視線が、再び騎士へと固定された。
精霊使いの少年は、無事な方の手で自身の青みがかったマントを掴むと、荒々しく引き裂き、そのボロボロになった布地を地面へと捨て去った。
(あの装束は……)
引き裂かれた布地の下に、ラグラムは全身を覆う戦闘用のスーツを身に纏っていた。その素材は鱗のような有機的な皮革に似ており、暗赤色とアスファルトのような灰色が融合した不気味な色合いをしていた。
熱が彼の中心から放射され、短い金髪を上昇気流に乗せて巻き上げている。スーツの質感が摩擦に反応し、まるで今にも発火しそうな熾火のようにパチパチと音を立てて明滅した。
炎蛇の鱗。
少年が膝を曲げた。その殺意に満ちた予備動作を読み取り、指揮官は反射的に防御の構えを固める。
ラグラムが、弾かれたように姿を消した。
(なんという速さだ!)
目が慣れていない者には知覚すら不可能なほんのわずかな瞬き(一千分の一秒)の間に、そのシルエットは彼女の真正面に現れた。拳は既に、致命的な一撃を放つべく引き絞られている。
オードリーは右へと跳躍し、数学的な最小の限界ギリギリでその一撃を回避した。あの異常な力の論理的限界を計算しなければならない。その事実の認識が、彼女の戦闘姿勢をさらに硬質なものへと変えた。
ラグラムの拳は虚空を切り裂き、ただの空気を打った。しかし、その一撃が放った純粋な運動エネルギー(圧力)だけで、石畳は壊滅した。ドゴォォォォンッ!!広場の岩や鋼鉄を粉砕し、数メートルにも及ぶ開いた塹壕を穿ったのだ。
その怒涛の突撃の直後、少年は自身の生物学的な限界を突きつけられ、ピタリと硬直した。指揮官の目が、少年の右腕――まさに今の一撃を放ったその腕――を捉える。その腕は骨が完全に粉砕され、力なくダラリと身体の横に垂れ下がっていた。
(己の肉体ですら、あれほどの出力には耐え切れていないというわけか。だが、あの再生力は絶え間なく続いている……奴は、自らの破片を繋ぎ合わせることができる『ガラスの大砲』だ)
少年は顔を女の方へ向けたかと思うと、瞬きする間にその視界から姿を消した。
魔導師はオードリーの死角へと実体化し、回避すら許さぬ速度で攻撃の引き金を引いた。
「司令官殿!!」騎士の一人が絶叫する。
ドゴォォォォンッ!!
破城槌のごとき回し蹴りが女の鎧の側面に炸裂し、女騎士を攻城兵器の砲弾のように吹き飛ばした。その身体が隣接する建造物に激突すると、加えられた途方もない威力の前に、コンクリートと黄金の金属構造物が数秒で粉々に崩れ去る。
その一撃の反動は、ラグラム自身の脚をも粉砕していた。少年は無様にたたらを踏み、自身の脛骨の骨折を自己治癒力で塞ぎながら、どうにか直立を保とうと必死にもがいた。
視界が霞む。全身から噴き出す蒸気が自らの目を眩ませ、胸の内で燃え盛る溶鉱炉が、強烈な方向感覚の喪失という代償を要求してくる。
支えとなる脚に骨の強度が戻ったまさにその瞬間、空を切り裂く報復が舞い降りた。
高度に圧縮された大気の断頭台が、彼を目掛けて振り下ろされたのだ。ラグラムは背骨を限界までねじ曲げ、頭蓋から骨盤まで両断されるのを間一髪で躱すと、新たな跳躍のために足の裏を地面に固定した。
ブチブチッ!!限界を超えたトルクに脚の筋繊維が悲鳴を上げて引き裂かれ、彼は崩壊したコンクリートの瓦礫の中へと倒れ込んだ。
崩壊した建物の残骸の中から、土煙を割ってオードリーが姿を現した。胸当てには蜘蛛の巣状の亀裂が走り、背面の装甲はひしゃげ、マントは灰色のボロ布と化していた。眉に入った深い切り傷から、一筋の黒ずんだ血がツーッと流れ落ちている。
立ち込める煤煙の向こうで、彼女の瞳は倒れ伏す少年の姿を捉えた。
戦場の麻痺するような緊張感は、時としてどれほど百戦錬磨の兵士であろうともその目を盲目にし、手軽な英雄的行為という名のもとに彼らを屠殺場へと引きずり込む。
前衛で孤立していた騎士たちが、包囲網を破って突出した。泥と瓦礫の中に這いつくばる少年を見て、彼らは犠牲を払わずに標的を仕留める「完璧な好機」だと錯覚したのだ。
「近づくなッ!!」司令官は肺の底から張り裂けんばかりの声で命じた。だが、遅すぎた。
ドゴォォォォンッ!!
小隊の足元の岩盤が、間欠泉のように爆発した。街の臓腑から、巨大で凶暴な単眼の環形動物が荒れ狂いながら飛び出し、粉砕機のような歯がびっしりと並んだ奈落の顎で騎士たちを丸飲みにしたのだ。
その悪魔は驚異的な速度で這い回り、主を囲む生きた肉の城壁を形成すると、噛み砕いた兵士の胴体の残骸を濡れたアスファルトにベチャッと吐き出した。
オードリーはラグラムへ向けて、必殺の突進を仕掛けた。保護本能に駆られ、ワームは自らの巨大な質量を女戦士へと投射する。
ズバァァァッ!!
流麗にして淀みない一閃。風の刃が、その巨大な筋肉の塊を完璧に左右対称の二つへと両断した。オードリーはその致命的な前進を一センチたりとも緩めることなく、崩れ落ちる怪物の半身をスロープ代わりに駆け上がり、少年の首元へと迫る。
ワームの切断された頭部が崩れ落ちる。ドシャァッ……!溢れ出す体液の音が広場を満たした。
宙を舞う中、オードリーは竜巻の刃を再構築し、その斬撃の中心を疲弊しきった敵の額のど真ん中へと定めた。奴が再び息を吸い込む前に、この悪徒を消し去る。
裁きの拳が距離を詰め、振り下ろされる。
ガシッ!
それは、虚空でピタリと止められた。
オードリーの青い瞳孔が、純粋な驚愕に見開かれた。
ラグラムは、軍人の腕を左手でブロックし、その急降下を迎撃していたのだ。彼は同じ姿勢のままピクリとも動かず、肩の筋肉は張り詰めながらも同時に弛緩しているようだった。激怒する蒸気の雲が、スーツのあらゆる関節から噴き出している。
「僕の種族の個体は……特定の生物学的特異点に目覚めるんだ……」少年が呟いた。その声は極度の消耗と人ならざる熱によってかすれ、歪んだノイズのように響いていた。「僕の能力はね……体中のすべての血を沸騰させて、筋組織への直接燃料として注入することなんだよ」
オードリーは全身の力を使ってその防御を押し込もうとした。対するラグラムは、肩甲骨を収縮させて回転の予備動作に入る。精霊使いの右腕が痙攣を起こし、筋膜が弾け、燃え上がりながら高圧のガスを噴出させていた。
「そして、あらゆる物理的限界を粉砕することさァァァッ!!!!」
慣性から解き放たれた拳が放たれる。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
解放されたエネルギーはあまりにも理不尽で、司令官を重砲の弾頭のように空の彼方へと弾き飛ばした。少年のブーツの下で、石畳が完全な粉塵と化す。弾き飛ばされた彼女の身体は、メトロポリスのレンガや金属構造物を次々と貫通し、何本もの支柱に激突した人間という質量の前で、遠く離れた何十もの摩天楼が連鎖反応を起こして倒壊していった。
金髪の少年の唇から、酸素が完全に抜け落ちた。彼は膝から崩れ落ち、引き裂かれた召喚獣の臓物の中にへたり込む。限界を超えて力を解放した腕が内側から崩壊した。超高温に熱せられた血液、骨髄、そして筋肉の束が剥き出しになっている。
グチャァッ……
その解剖学的構造はグロテスクに破綻し、残っていた腱がちぎれ、腕全体が肩から離断して、泥汚れの中へと力なく落下した。
生物学的ボイラーが急速に冷却される。呼吸は苦痛に満ちたリズムを取り戻し、皮膚は彼本来の死体のような蒼白さへと戻っていった。
「それでも……これだけで十分だったとは思えないな……」彼はトランス状態の中でうわ言のように呟いた。
(結局のところ……この戦場における本物の化け物は、あの女なんだから……)
戦士の直感は、恐ろしいほどに正確だった。
遥か彼方の土煙の中から、巨大な水平の竜巻の鎌が都市を引き裂き、広場へと向かう軌道上にあるあらゆる障害物を粉砕しながら迫ってきた。
ギュイィィィィンッ!!
原始的な生存本能が支配する。ラグラムは高速の下級の悪霊を召喚し、接触のほんの数分の一秒前に、ズタズタになった自身の体重を引きずって広場の安全圏の限界まで退避した。
ズバババババッ!!
暴風は抵抗なく進み続け、階層を、上層を支える柱を、そして幾つもの区画を連続して輪切りにし、キサナトラの遠き境界を囲む荒涼とした平野でようやく霧散した。
自らの破滅の瀬戸際で倒れ込んだ少年は、必死に空気を肺に送り込んでいた。苦痛に眉をひそめながら、もぎ取られた肩が、耐え難いほどの痛みを伴う細胞再生の最初の兆候を示し始めていた。
衝撃エリアの開けた果てで、硬直した手が遠距離から放たれた斬撃の最終的な構えを保っていた。
黒鋼の刃のリーダーの正面装甲は負荷に耐えきれずに崩壊し、亀裂の入った金属が残酷に開いて、豊かな豊かな胸の激しい波打ちを抑え込もうとするタイトな革の鎧を露わにしていた。完璧なまでに白いその肌は戦場の煤煙と強烈なコントラストを描き、胸元には黒曜石の天球儀の重みを持つ黒いネックレスが揺れていた。
破られた装甲から露出した深い傷口から、生々しい鮮血の細い滝が彼女の筋肉の起伏をなぞるように流れ落ちている。
司令官は膝をしっかりと固め、姿勢を正した。傷だらけのセメントの上に溜まった真紅の血をペッと吐き捨て、破壊されたガントレットの手の甲で下唇にこびりついた血餅を拭い取る。その同じ鋼鉄の手で、彼女は胸元のアーティファクトを探り当て、震える指先で冷たい金属を強く握りしめた。
尖った装甲の裂け目から吹き込む陰鬱な風が、露出した肌を打ち据え、臆病に姿を現し始めた月の下で、彼女の長い黒髪を鞭のように激しく波打たせていた。
その威風堂々たる眼差しは、あの理不尽な力が自らの領土に穿った幾つもの塹壕をマッピングしていく。
手が、首元の天球儀を強く握りしめる。ほんの一秒だけ瞼を伏せ、決して倒れはしないという絶対的な拒絶を心に鎧った。
彼女は再び顎を上げ、眼前の屠殺場を睨み据えた。
その青い虹彩は、永遠の冬のような死の冷たさと、夜を喰らい尽くす炎のような飢えた攻撃性を同時に放っていた。




