第百四十話 試作強襲機(前編)
「アーベルト連合王国は、どこの国とも結ばない。それがこの国を建国した初代大女王イシスの意思なのだ」
「初代大女王陛下のお言葉も大切でしょうが、今は他国と協力しなければ、異邦者に奪われた国土の奪還も難しいのでは?」
「アンテン子爵!」
「失礼を承知で言わせていただきます。さらにアーベルト連合王国は鎖国の影響で、他国に比べて技術力が低い。魔晶機人の性能、生産性向上もなかなか進まず、異邦者に対し大きな効果がある強力な火器の開発と配備も進んでいません」
「アーベルト連合王国には、凄腕の操者が多い。彼女たちの奮戦があれば、化け物どもに奪われた国土の奪還も可能だ」
「サクラメント王国は、世界一の魔晶機人大国と言われていました。ですが結局は単独では異邦者には勝てず、ゾフ王国に吸収合併されてしまいました。そうなる前に、ゾフ王国と結んだ方がいいと思います」
「……ハッキリとものを言う奴だ」
「生まれついての性分ですので」
「そうだな。私個人の意見も、ゾフ王国と結んだ方がいいと思っている。だが、古くからの決まり事を変えるのは本当に難しいことなのだ。この期に及んでまだ昔の決まりごとに拘る者も多い。困ったことだ」
「サクラメント王国にも多数いましたが、彼らの意見を聞いていてもなにも状況は進みません。少しばかり無理をすることになってしまいましたが、それも王の大切な仕事です」
「よかろう、バカ共の言うことを聞いて亡国の王となるのは嫌なのでな。その代わり、いつくか条件がある」
「可能な限り善処させていただきます」
「一つは、クラリッサのことだ。彼女の母親は余の妹でな。つまりクラリッサは余の姪となる。あの子とゾフ王との婚姻が第一の条件だ。正室にしろだなんて無茶は言わない。側室でいい。あの子は長女ではないのでな」
「畏まりました」
「ゾフ王は、幾人もの美女と結婚するのであろう? そこにクラリッサが混じってなにか不都合があるのか?」
「いいえ、ありません。陛下も美しい妻が一人増えて大喜びでしょう」
「次に、すでにアーベルト連合王国は、半分の四王国の王都を失陥している。逃げ延びた者もいるが、余は幾人もの妹や姪、従妹を失ってしまった。その責任は取らねばならぬ。だが、このアーベルト連合王国の大女王を決める方法は少し特殊でな。これにクラリッサも参加せねばならぬ。あの子も一族なのでな」
「つまり、クラリッサ様をそれに合わせて帰国させろと?」
「我が国は鎖国しておるので、他国の人間が入国するには色々と制限がある。クラリッサがゾフ王と結婚してしておれば、大女王を決める『決闘の儀』に参加することも可能であろう」
「クラリッサ様だけでなく、ゾフ王陛下も大女王を決める戦いに参加するのですか?」
「我が国は女性操者優遇の国と言われておるが、決闘の儀に男性操者が参加してもまったく問題ない。実際参加もしておるが、これまで一度も『大王』が生まれておらぬだけのことだ。クラリッサと結婚して親族となったゾフ王が決闘の儀に参加し、見事優勝すれば話が早く片付く」
「ゾフ王とアーベルト連合王国大王の兼任ですか。法的に問題ないのですか?」
「ない。そんな事態は想定しておらぬので、慣習法にないのだ。大王となったゾフ王が、アーベルト連合王国の鎖国政策を終わらせればいい。アーベルト連合王国の者たちは強い操者に従う。ただそれだけのことよ」
「それはとても素晴らしいアイデアですね。早速話を進めておきます」
「おい、アンテン子爵!」
「ブルガー伯爵、これも世界平和のためですよ」
陛下は我々に対し、どのような手段を用いてもゾフ王国とアーベルト連合王国との同盟締結を推進させるように命じてきた。
陛下がアーベルト連合王国の大王を兼任すれば話は早期解決するので、喜んで大女王の提案を受け入れよう。
クラリッサ様は美しいので、妻にできれば陛下も喜ぶだろうし、正直なところサクラメント王国が滅ぼされたことに恨みがないわけではない。
私流の軽い意趣返しといったところかな。
※※※※
『エルオール様、試作機はいかがですか?』
「魔晶機人改Ⅱの設定バランスを変更しただけとは思えない高性能ぶりだけど、稼働時間が極端に短いのが難点か……。強襲で使えるかな?」
『もし奇襲や強襲で使うとすると、他になにが必要ですかね?』
「それは火力だな。武器を沢山持たせて、一気に防衛線を突破したり、一気に標的を殲滅する」
『武器に関しては、フィオナさんからデータを貰った試作品が沢山ありますよ』
「武器の試作品は、訓練がてら魔物を狩っている新人操者たちに使わせてデータを取った方がいい。わざわざこいつに搭載する必要はないでしょう。信頼度の高い普通の火器で十分だな」
『それもそうですね』
旧ラーベ王国領の奪還に成功し、ゾフ王国は大国として生まれ変わりました。
あとは、他国が新しいゾフ王国を正式に承認し、異邦者に対する同盟を結べれば、人間が異邦者に勝てる確率が高くなる。
エルオール様がそうおっしゃり、多くの人たちがそれを目指して懸命に働いていました。
私もそれに協力しつつ、もうすぐエルオール様と結婚式を挙げる予定です。
結婚式には他国からの招待客を大勢呼び、新しいゾフ王国が国際的に承認された証拠とするそうで、私なんかが参加していいのか疑問だったのですが、リリー様たちが『ヒルデも私たちと一緒にウェディングドレスを着て、王妃デビューしましょう』とおっしゃってくれたので、とても嬉しかったです。
『ヒルデがいるから、俺もリリーたちも、操者として活躍できているんだから。ヒルデが結婚式に参加することに反対している人はいないよ。それに、ヒルデは正式にゾフ王国貴族に任じられたんだから』
正式には、お父さんがクラフト伯爵に任じられて、私とエルオール様との間に生まれた子供に爵位を継がせるとか。
お父さんには、子供が私しかいないから。
最初にエルオール様からそう言われた時、私なんかが貴族になっていいのか疑問だったのだけど、最新の魔法道具から、魔晶機人、エア・トランスポート、キャリアー、フィオナさんからデータを貰った科学を用いた様々な物まで。
研究、試作、量産、修理、整備とやっているせいで、お父さんのところに他国の貴族から引き抜きの話がくるようになって、それが原因みたい。
私はエルオール様の専属整備士だから他国になんていかないけど、『操者だけでなく、高度な技術を持った整備士、技術者、学者にも相応の待遇をして、他国からの引き抜きを防ぐ』とエルオール様がおっしゃっていました。
私は操者じゃないけど、エルオール様からそこまで認めてもらって嬉しかったです。
一日も早くエルオール様の妻になって、死ぬまでエルオール様の機体を完璧に整備してさしあげる。
それこそが、私の喜びなのですから。
「やはり新型の高性能機は、魔導炉や人工筋肉、装甲など。すべてを見直さないと、そう簡単に作れないな。これ以上性能向上に割り振ると、多分魔導炉が壊れる。耐久性が足りないんだ」
『フィオナさんと相談して、魔導炉の材料である合金の試作と、評価試験から始めます。そうしないと、魔晶機人改Ⅲは作れないと思います』
「性能も上げつつ、量産性と整備性を確保するのは難しいなぁ。あとは、腕のいい操者向けにそこに目を瞑った高性能機体、ワンオフ機を与えて戦力を上げる手もある」
『エルオール様の専用機ですね。今はレップウ改がありますけど、じきにアマギに置いてあった魔力がなくても動かせる魔晶機神ですら、進化を続ける異邦者に勝てなくなるかもしれません。なので、常に新型機の開発を進めていかないと。アマギの船内には、あと十数機魔力を使わずに動く魔晶機神が置かれており、これの操者の選定も始まったとか。私は魔力不足で魔晶機人を動かせないのでもしかしたらと思って試験を受けてみましたけど、残念ながら合格者はリリー様、マルコ様、ネネ様だけでした。魔力を使わない魔晶機神は誰でも動かせる可能性がある代わりに、操縦が難しすぎて私では手に負えません』
それをまるで手足のように動かすのですから、エルオール様は凄いと思います。
「私はそこまで機体に拘りがないんだけど、性能が高い方がいいに決まってるよなぁ」
『魔晶機人改Ⅲベースで、エルオール様の専用機を試作しますから』
私はエルオール様に死んでほしくないので、フィオナさんと協力して高性能な機体を作り続けます。
操者としては貢献できなくても、後方でエルオール様を支えていく。
それがエルオール様の妻としての大切な役割なのですから。
※※※※
「しかしまぁ、ヒルデは覚えが早いなんてものじゃないな。天才だろう」
今日は特に仕事もなく、ヒルデの依頼で試作機を試験していた。
それは仕事じゃないかって?
実戦でなければ、私からすれば魔晶機人改Ⅱの改良機の性能試験は趣味の延長であった。
それにしても、フィオナのサポートやアマギの『睡眠学習』のおかげもあるとはいえ、間違いなくヒルデはゾフ王国一の整備士にして、技術者にして、研究者だろう。
だからアリスが、父親のバルク共々貴族にした。
このところ、異邦者に対抗できる魔晶機人や搭載火器、キャリアーが欲しい他国が、ゾフ王国で働く整備士、技術者、研究者を好待遇で引き抜こうとする事例があとを絶たなかったからだ。
重要人物の引き抜きは成功していないが、一部引き抜かれてしまった事例もあり、ゾフ王国の技術は少しずつ他国に漏洩していた。
それを完璧に防ぐのは難しいし、他国の技術が低すぎると異邦者に滅ぼされてしまうかもしれない。
ある程度黙認する必要があり、アリスがその調整に苦労していた。
この試作機は従来の魔晶機人改Ⅱに比べると、大幅にパワーとスピードが上がっている。
その代わり魔力の消費が激しくて、稼働時間が極端に短い。
機体に負荷もかかるので、一度動かすと長時間の整備が必要だ。
機体自体の寿命も短いだろう。
ヒルデに有用方法を聞かれたが、強襲用としては最適というか、それしか使い道がないというか……。
「これを採用するなら、素直に魔晶機人改Ⅲを開発して量産した方がいいと思う」
「ですよね。ですが同じ機体でも、力、スピードを操者の適性に合わせて調整することができるようになりました」
「操者それぞれの個性を生かせる機体の調整ができるのはいいな」
「この機体は極端ですけどね」
「今の試験でもだいぶ負荷がかかったから、このあとは試験機として使うしかないな」
「あと数回はフルに稼働させられますけど、実戦の最中に壊れると困りますから」
王城内の試験工房で、こうやってヒルデと一緒に試乗した試験機について話をしながらお茶を飲む。
実に優雅な時間だ。
このところ忙しかったからなぁ。
「明日からは、また学園に行かないと」
「エルオール様って、真面目ですよね。みなさん、もう学園はいいんじゃないかって言ってますよ」
「みんな、わかってないなぁ」
確かに私たちは異邦者たちと絶滅戦争を戦っているし、もうすぐ結婚してしまうが、だからこそ学園生活を楽しんだ方がいいに決まっている。
「短い学生の時間を楽しまないと」
前世で平凡な学生生活を送ってしまった私だからこそ、今世では楽しい学生生活をとも考えてしまうのだ。
なによりこの身は、まだ未成年なのだから。
「陛下! 大変です! 王都郊外に、蟻塚が出現しました!」
ヒルデとお茶を楽しんでいたら、そこに家臣が血相を変えて飛び込んできた。
ゾフ王国奪還以降、ずっと安全圏だったはずの王都郊外に突如蟻塚が出現したのだという。
「突然出現って、おかしくないか?」
あんな大きなもの、建設途中で見つからないわけがないのだから。
「それが、蟻塚は地下に作られておりまして……」
その土地の開発を始めようと思って測量班が入った時、ようやく発見されたのだという。
「測量班はすぐに撤収しましたが、蟻塚から出てきた異邦者は追撃を開始。測量班を守ろうと、訓練中の新人操者たちと戦闘になりました。追撃してきた異邦者たちの殲滅には成功しましたが、こちらも損傷機が多く、蟻塚には手が出せない状態でして……」
守るべき国境線が長くなったため、王都の守りを薄くした隙を突かれたか。
だけど、蟻塚にいる異邦者の数はそんなに多くないはずだ。
もし数が多ければ、蟻塚を作る場所を求めて移動している時に見つかってしまうのだから。
「単体でやって来て、コツコツと蟻塚を作りながら繁殖したか。少数ずつ、こちらにバレないように移動してきたか。地面を掘り進んできたにしても、多数の移動は難しいよな」
「地面の下にある蟻塚ですが、そこまでの大きさではないと思われます。異邦者の数も少ないですが、新人操者部隊が大損害です。幸い操者に死者は出ませんでしたが、魔晶機人改Ⅱが十二機全壊。要修理機多数です」
フィネスが、そのあと偵察部隊に撮影させた蟻塚の写真を持って報告にやって来た。
まさか、地面の中に蟻塚を作るとは。
その対策もやらないと、ゾフ王国が内側から食い破られてしまう。
「新型機に乗せても、操者の腕前でかなり戦果に差が出るな」
その代わり、操者に死者は出なかった。
彼らは貴重な経験を積めたので、今はそれでよしとしつつ、常に新型機の開発は進めていかないといけない。
「前線から、精鋭部隊を戻しますか?」
「それこそ、異邦者の狙いだろう」
今のところ、この蟻塚を作った異邦者たち以外ゾフ王国への侵入に成功していない。
だがここで、これまで実戦経験を積みながら国境を守ってきた部隊を王都に戻せば……。
「異邦者が、そこに攻撃を集中して国境線を破るかもしれない。それは避けたいな」
私たちは他国との同盟を経て外に撃って出るための準備を進めているが、そのためには獲得した国土を失うわけにいかなかった。
他国の信用をなくしてしまうからだ。
「新人たちに攻撃させるのですか?」
「後詰めにする。そして出撃するのは私だ。ヒルデ、準備を頼む」
「わかりました。試作機を整備して、武器を盛り盛りで装備します」
「頼むよ」
新人たちが先陣で蟻塚に突入すると、損害が大きくなってしまう。
だから私が、試作機で強襲をかけた方がいいだろう。
なにしろこの手の作戦は、前世で何度も経験してきたのだから。




